医学の進歩が著しい。若者の命が救われるのは喜ばしいが、今でも世界1位の長寿命が益々その地位を確固たるものにし、超高齢化社会を推進する。社会保障費の増大が国家予算を圧迫しつつあるが、その削減は老人を姨捨山へと導く。
がん治療薬「オプジーボ」は、京都大の本庶客員教授のチームが発見した薬であり、直接がん細胞だけを攻撃する薬だそうだ。現在主流の治療法は化学療法や放射線療法であるが、これらはがん細胞以外の正常な細胞も損傷してしまい、その結果脱毛等の副作用が強く出てしまう。オプシーボの使用は免疫療法と呼ばれ、副作用が無いので、他の治療法より患者の身体に優しく、誰もが希望するが、問題はその価格の高さにあるようだ。
体重60キロの患者が1年間(26回)、オプジーボを使うと、年3500万円かかるとのことだ。患者の平均的な負担は、医療費の自己負担分が一定額を超えると軽減される「高額療養費制度」があるため、月8万円程度で済む。残る金額は患者が加入する医療保険と国や自治体の公費でまかなわれる。オプジーボが適用される非小細胞肺がん患者は年10万人強。このうち、仮に5万人がオプジーボを1年使うとすると、薬代だけで年1兆7500億円を要す計算になる。
高齢化社会で日本の社会保障費は年1兆円づつ増えていくことが問題になっている。オプシーボだけで、年1兆円以上増加するとなると、日本の財政にとって大問題だ。現在肺がんが対象であるが、日本発の画期的な免疫療法薬として他のがんへの適応拡大も期待され、今後急激に増えていくものと思われる。
日本赤十字社医療センター化学療法科の国頭英夫部長は「この治療薬を契機にして、国が滅びかねない」と危機感をあらわにしている。がん患者は元気になっても、日本の財政は今でも病弱で喘いでいるのに瀕死状態あるいは死に至るとの警告だ。
しかし、国を滅ぼしかねないのは、この治療薬だけではない。根本に医学の進歩がある。2014年における日本の平均寿命は、男性が80.5歳、女性が86.8歳であった。男女平均が84歳であり、世界で最も長寿の日本である。死亡原因の一番は男女ともにがんである。がんは早期発見で多くの命が救われる。現在はMRIやCT等で行われるが、費用、時間がかかる。
しかし、わずかな量の血液検査で早期のがんが診断できる方法が2014年8月に発表された。がん細胞は特有のたんぱく質を分泌するとのことで、血液中に分泌されるこのたんぱく質の存在を調べればわかるらしい。これが実用に付されれば、国民健康保険加入者に毎年行われる健康診断でも早期発見が可能になるだろう。これで、平均寿命は一段と延びるであろう。
また、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると推計される。認知症の一番の原因であるアルツハイマー病は早期発見により、その進行を遅らせることが出来るとのことだ。既に血液検査により早期発見の目途が立ったようであるが、病自体を治す治療薬が開発されることが理想であり、近い将来それも可能になるだろう。これも平均寿命を延ばす一因となろう。
このように、医学における治療法、検査法の進歩には驚くべきものがある。更に山中教授のIPSを活用した再生医療等の発展により、平均寿命は更に延びるであろう。年齢構成上の問題として高齢化は進行しているが、平均寿命の延びによる高齢化の進展も同時進行中なのだ。
少子高齢化社会で、生産人口は減るが扶養すべき老人はどんどん増える。2015 年度の社会保障関係予算は 31.5兆億円で国家予算の約1/3を占め、国家予算を圧迫している。医学の進歩により、元気に天寿を全うできる社会の到来は喜ばしいことであるが、衣・食・住があっての話である。
安倍首相は、消費増税を再び先送りし、これまで約束していた社会保障の充実は満足されないかも知れないと表明した。いよいよ、社会保障費の削減が始まり、老人の姨捨山行きが勧められる世の中に突入して来たのだ。社会保障費が不足し死者がでるような社会の到来、あるいは金のある者だけが生き残れるような社会の到来もまじかに迫っている。医が国を亡ぼす一因を作っているのだ。
吉村仁氏は、30年以上前の1983年に「医療費をめぐる情勢と対応に関する私の考え方」というレポートをまとめている。同レポートに「このまま医療費が増え続ければ、国家がつぶれるという発想さえ出てきている。これは仮に医療費亡国論と称しておこう」と著している。いよいよその予言が実現味を帯びてきた。
2016.06.08(犬賀 大好-240)
がん治療薬「オプジーボ」は、京都大の本庶客員教授のチームが発見した薬であり、直接がん細胞だけを攻撃する薬だそうだ。現在主流の治療法は化学療法や放射線療法であるが、これらはがん細胞以外の正常な細胞も損傷してしまい、その結果脱毛等の副作用が強く出てしまう。オプシーボの使用は免疫療法と呼ばれ、副作用が無いので、他の治療法より患者の身体に優しく、誰もが希望するが、問題はその価格の高さにあるようだ。
体重60キロの患者が1年間(26回)、オプジーボを使うと、年3500万円かかるとのことだ。患者の平均的な負担は、医療費の自己負担分が一定額を超えると軽減される「高額療養費制度」があるため、月8万円程度で済む。残る金額は患者が加入する医療保険と国や自治体の公費でまかなわれる。オプジーボが適用される非小細胞肺がん患者は年10万人強。このうち、仮に5万人がオプジーボを1年使うとすると、薬代だけで年1兆7500億円を要す計算になる。
高齢化社会で日本の社会保障費は年1兆円づつ増えていくことが問題になっている。オプシーボだけで、年1兆円以上増加するとなると、日本の財政にとって大問題だ。現在肺がんが対象であるが、日本発の画期的な免疫療法薬として他のがんへの適応拡大も期待され、今後急激に増えていくものと思われる。
日本赤十字社医療センター化学療法科の国頭英夫部長は「この治療薬を契機にして、国が滅びかねない」と危機感をあらわにしている。がん患者は元気になっても、日本の財政は今でも病弱で喘いでいるのに瀕死状態あるいは死に至るとの警告だ。
しかし、国を滅ぼしかねないのは、この治療薬だけではない。根本に医学の進歩がある。2014年における日本の平均寿命は、男性が80.5歳、女性が86.8歳であった。男女平均が84歳であり、世界で最も長寿の日本である。死亡原因の一番は男女ともにがんである。がんは早期発見で多くの命が救われる。現在はMRIやCT等で行われるが、費用、時間がかかる。
しかし、わずかな量の血液検査で早期のがんが診断できる方法が2014年8月に発表された。がん細胞は特有のたんぱく質を分泌するとのことで、血液中に分泌されるこのたんぱく質の存在を調べればわかるらしい。これが実用に付されれば、国民健康保険加入者に毎年行われる健康診断でも早期発見が可能になるだろう。これで、平均寿命は一段と延びるであろう。
また、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると推計される。認知症の一番の原因であるアルツハイマー病は早期発見により、その進行を遅らせることが出来るとのことだ。既に血液検査により早期発見の目途が立ったようであるが、病自体を治す治療薬が開発されることが理想であり、近い将来それも可能になるだろう。これも平均寿命を延ばす一因となろう。
このように、医学における治療法、検査法の進歩には驚くべきものがある。更に山中教授のIPSを活用した再生医療等の発展により、平均寿命は更に延びるであろう。年齢構成上の問題として高齢化は進行しているが、平均寿命の延びによる高齢化の進展も同時進行中なのだ。
少子高齢化社会で、生産人口は減るが扶養すべき老人はどんどん増える。2015 年度の社会保障関係予算は 31.5兆億円で国家予算の約1/3を占め、国家予算を圧迫している。医学の進歩により、元気に天寿を全うできる社会の到来は喜ばしいことであるが、衣・食・住があっての話である。
安倍首相は、消費増税を再び先送りし、これまで約束していた社会保障の充実は満足されないかも知れないと表明した。いよいよ、社会保障費の削減が始まり、老人の姨捨山行きが勧められる世の中に突入して来たのだ。社会保障費が不足し死者がでるような社会の到来、あるいは金のある者だけが生き残れるような社会の到来もまじかに迫っている。医が国を亡ぼす一因を作っているのだ。
吉村仁氏は、30年以上前の1983年に「医療費をめぐる情勢と対応に関する私の考え方」というレポートをまとめている。同レポートに「このまま医療費が増え続ければ、国家がつぶれるという発想さえ出てきている。これは仮に医療費亡国論と称しておこう」と著している。いよいよその予言が実現味を帯びてきた。
2016.06.08(犬賀 大好-240)