トランプ次期大統領の登場により、安倍政権の目玉である環太平洋パートナーシップ(TPP)協定が暗礁に乗り上げようとしている。トランプ氏は予てより、TPP脱退を表明していたが、彼の二枚舌を期待し、そうはならないだろうと多くの人が高をくくっている。
しかし、TPPの交渉の責任者である、通商代表部(USTR)代表候補に、TPP反対派のダン・ディミッコ氏が浮上していることから、脱退が現実味を帯びてきた。米鉄鋼大手ニューコアの元最高経営責任者のダン・ディミッコ氏は、中国は世界最大の保護主義国と批判しているが、保護主義には保護主義で対抗しようとするのであろうか。
米国が保護主義に傾倒すれば、各国も自国産業の保護や需要の囲い込みを重視して保護主義に傾くだろう。保護貿易とは、自国の産業を守るため、関税で輸入量を制限したり、自国製品に補助金をつけて輸出を促進する等の政策である。
一方、ある特定の国に対して政治的な問題から ”経済制裁” をすることがある。これは、対象国に国外から入手していた物資を欠乏させることによって国内的な問題が生じることを狙った外交政策の一環である。クリミア半島やウクライナ問題で西側諸国がロシアに対し、現在でも行っている例である。
保護貿易と経済制裁は目的、手段が異なるが、また対象とする国がある特定の国か、不特定の国かの点で異なるが、外国からのあるいは外国への物資を制限する点においては同じである。従って保護貿易は不特定多数の国に対する経済制裁であろうが、結局疲弊するのは自国である。
保護貿易に対するのは自由貿易であり、自由貿易の本質は経済活動の効率化である。経済活動を世界的に一番効率のよい場所、方法で行う、例えば生産は世界で一番安くて高い品質のものが作れる所で行うことにより、生産者と消費者に最大の利益をもたらすことを目的とする。経済の効率化という点において、保護貿易は効率の悪さからいずれ行き詰る訳である。
自由貿易の負の側面は、これまでの生産秩序の破壊であろう。国内で勝利を収めた産業も世界的に見れば競争に勝てないことも往々にしてある。米国におけるラストベルトと称される地域での鉄鋼業や自動車産業は正にこの産業であり、日本における電気機器産業もこの類であろう。競争に敗れる原因は、単純ではない。一つには人件費の差である。生産技術の発展に伴い誰にでも生産できるようになったため、生産は人件費の安いところに流れる。経済の効率との観点から見れば当然の帰結である。しかし、この困難を乗り切らないと次の発展は望めない。
現在世界では各地域において経済連携協定が進行中である。TPPは太平洋を取り巻く国々の経済協定であるが、大西洋を取り巻く国々で環大西洋貿易投資協定(TTIP)が交渉中であるようだが、こちらも暗礁に乗り上げているとのことだ。この他、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が開始されているようであるが、なかなか進まないのが現状のようである。交渉が進まない一番の原因は国益の衝突との言葉でまとめられるが、要は自国産業の保護であろう。
TPPの交渉においても、日本の米生産が話題となった。生産コストは耕地面積の広さの差から米国等に太刀打ちできない。関税を撤廃すれば日本の米生産は全滅する懸念があり、安全保障上生産システムを維持しなくてはならない。世界が争いの無い平和な社会であれば、経済活動の効率化を最優先としてもよいかも知れない。現実は、争いが絶え間なくあり、安全保障との観点を考慮しなくてはならなくなる。このため、自国産業の保護が前面に出てくるのだ。
経済のグローバル化は格差の拡大等、いろいろ問題を発生させている。保護主義的な経済政策も自国の利益ばかりを追求しだすと、国と国の衝突になり、最後は戦争にまで発展する恐れがある。その中間に答えがありそうであるが、誰も答えを明示できない。
トランプ氏の発言は過激であり、どこまで本気か誰も分からないそうだ。本人もよく分かっていないのだろう。トランプ氏の政治手腕や、議会、国際社会との関係構築に未知の部分が多いだけに、これまでの発言内容がそのまま実行されないとする希望的観測もある。世界は氏の登場で不確実性が増し、マーケットが大きく動く可能性が大きいと証券会社だけは大喜びである。2016.12.28(犬賀 大好-298)
しかし、TPPの交渉の責任者である、通商代表部(USTR)代表候補に、TPP反対派のダン・ディミッコ氏が浮上していることから、脱退が現実味を帯びてきた。米鉄鋼大手ニューコアの元最高経営責任者のダン・ディミッコ氏は、中国は世界最大の保護主義国と批判しているが、保護主義には保護主義で対抗しようとするのであろうか。
米国が保護主義に傾倒すれば、各国も自国産業の保護や需要の囲い込みを重視して保護主義に傾くだろう。保護貿易とは、自国の産業を守るため、関税で輸入量を制限したり、自国製品に補助金をつけて輸出を促進する等の政策である。
一方、ある特定の国に対して政治的な問題から ”経済制裁” をすることがある。これは、対象国に国外から入手していた物資を欠乏させることによって国内的な問題が生じることを狙った外交政策の一環である。クリミア半島やウクライナ問題で西側諸国がロシアに対し、現在でも行っている例である。
保護貿易と経済制裁は目的、手段が異なるが、また対象とする国がある特定の国か、不特定の国かの点で異なるが、外国からのあるいは外国への物資を制限する点においては同じである。従って保護貿易は不特定多数の国に対する経済制裁であろうが、結局疲弊するのは自国である。
保護貿易に対するのは自由貿易であり、自由貿易の本質は経済活動の効率化である。経済活動を世界的に一番効率のよい場所、方法で行う、例えば生産は世界で一番安くて高い品質のものが作れる所で行うことにより、生産者と消費者に最大の利益をもたらすことを目的とする。経済の効率化という点において、保護貿易は効率の悪さからいずれ行き詰る訳である。
自由貿易の負の側面は、これまでの生産秩序の破壊であろう。国内で勝利を収めた産業も世界的に見れば競争に勝てないことも往々にしてある。米国におけるラストベルトと称される地域での鉄鋼業や自動車産業は正にこの産業であり、日本における電気機器産業もこの類であろう。競争に敗れる原因は、単純ではない。一つには人件費の差である。生産技術の発展に伴い誰にでも生産できるようになったため、生産は人件費の安いところに流れる。経済の効率との観点から見れば当然の帰結である。しかし、この困難を乗り切らないと次の発展は望めない。
現在世界では各地域において経済連携協定が進行中である。TPPは太平洋を取り巻く国々の経済協定であるが、大西洋を取り巻く国々で環大西洋貿易投資協定(TTIP)が交渉中であるようだが、こちらも暗礁に乗り上げているとのことだ。この他、日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が開始されているようであるが、なかなか進まないのが現状のようである。交渉が進まない一番の原因は国益の衝突との言葉でまとめられるが、要は自国産業の保護であろう。
TPPの交渉においても、日本の米生産が話題となった。生産コストは耕地面積の広さの差から米国等に太刀打ちできない。関税を撤廃すれば日本の米生産は全滅する懸念があり、安全保障上生産システムを維持しなくてはならない。世界が争いの無い平和な社会であれば、経済活動の効率化を最優先としてもよいかも知れない。現実は、争いが絶え間なくあり、安全保障との観点を考慮しなくてはならなくなる。このため、自国産業の保護が前面に出てくるのだ。
経済のグローバル化は格差の拡大等、いろいろ問題を発生させている。保護主義的な経済政策も自国の利益ばかりを追求しだすと、国と国の衝突になり、最後は戦争にまで発展する恐れがある。その中間に答えがありそうであるが、誰も答えを明示できない。
トランプ氏の発言は過激であり、どこまで本気か誰も分からないそうだ。本人もよく分かっていないのだろう。トランプ氏の政治手腕や、議会、国際社会との関係構築に未知の部分が多いだけに、これまでの発言内容がそのまま実行されないとする希望的観測もある。世界は氏の登場で不確実性が増し、マーケットが大きく動く可能性が大きいと証券会社だけは大喜びである。2016.12.28(犬賀 大好-298)