日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

人手不足と賃金の値上げ

2017年09月09日 09時48分17秒 | 日々雑感
 全国平均有効求人倍率が1.0を超えたのは2014年であるが、大都市部ではもっと早くから人手不足状態になっていたのであろう。しかし労働賃金が一向に上がらないのが不思議であった。つまり需要と供給の経済の原則から言えば、人手不足は即賃金上昇となるはずであるからだ。

 昨年2月にNHKで労働崩壊の問題が取り上げられた。保育や介護、建設現場など、公共サービスや公共工事を担う現場で、低価格の受注競争によって引き起こされる労働現場の諸問題であった。

 この背景には、自治体が推し進めているコスト削減があるという。例えば、保育所等をそれまでの公営を効率化のために民間に委託するが、民間企業は受注競争に勝つために無理を強いられるのだそうだ。このため、労働者は低賃金労働を強いられ、保育の質や安全の低下にも繋がる、すなわち労働崩壊が起こっているとの内容であった。

 すなわち、この労働崩壊は過当競争による労働者への皺寄せが原因であるとの説明であった。低価格で受注した仕事をこなすために、まず人を集めなくてはならない。低賃金でも人が集まるということは、人手不足状態では無いとの意味ではないかと疑問に思っていた。

 これは、それまで仕事に従事していなかった女性や高齢労働者が働くようになったことを意味すると識者の説明でなるほどと合点がいった。この女性・高齢者の弾力的な労働供給のおかげでパートやアルバイトの時給の上昇は前年比+2%程度で済んでいるとのことである。

 しかし、建設労働者の場合女性や高齢者では代替がきかないが、やはり低賃金の労働崩壊が起こっているとの話であったが、理由は何であったのだろう。疑問が残る。

 ところで女性や高齢者の労働参加率の上昇はそろそろ限界に近づいているらしい。まず高齢者については、団塊世代が65歳を過ぎても予想以上に働き続けたことの影響が大きいが、団塊世代は今年から70歳代に入っていく。また女性についても、労働参加率は米国並み、いやそれをやや上回る所まで来たようだ。

 それを裏付けするように、24時間営業や深夜営業を止めるファミレスや飲食業も増えているとのことである。しかし、コンビニだけは別格とのことで24時間営業を維持している。理由の一つはATMだそうで、コンビニにとってATMは必需品として、絶対外せないものだそうだ。

 確かに、公共料金の支払い等でもコンビニの利用は便利になった。これまでの銀行支払いは時間制限や申込書の作成が必要など色々面倒臭さがあり、銀行員ですらコンビニ利用を勧める時代である。

 ATMのある御三家であるセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートは、顧客の要望に応えるため24時間営業を絶対にやめられない、すなわち店員の確保は絶対条件である。そこで、コンビニ店員の賃金を上げざるを得ない。リクルート・ジョブズ社調べの「アルバイト・パート募集時平均時給」を見ると、パートやアルバイトの時給は着実に上昇しており、足もとの前年比は2%台半ばに達しているとのことだ。

 しかし、賃金に関する基本統計である厚生労働省の「毎月勤労統計」の所定内給与を見ると、いまだに前年比ゼロ近傍に止まっており、確かに人手不足でも賃金は上がっていないことを示している。

 要するに賃金の現状は、①パートやアルバイトの時給は人手不足を背景に着実に上昇している一方、②雇用者の大部分を占める正社員の給料が上がっていないため、全体としての賃金はほとんど上がっていないと、理解すべきであるとのことである。つまりパートやアルバイトにおいては需要と供給のバランスの経済の原則は生きていたのだ。また、正社員においては、人手不足状態では無いのかも知れない。

 現在、企業が抱える資金は潤沢のようだ。日銀によると、民間企業が保有する内部留保が過去最高の406兆2348億円に達したそうだ。このお金が労働者に還元されないため、政府、日銀が推し進める景気好循環が生まれないと、春闘での値上げは労働組合より、政府が熱心である位だ。

 潤沢にある内部留保が労働者に還元されない一端の責任は労働組合にあると、今年8月9日のブログ ”賃上げ要求は労働組合の役目ではなかったか”で述べたが、企業側にも色々理由がありそうである。改めて調べることにしよう。2017.09.09(犬賀 大好-371)