金融庁の報告書:”高齢社会における資産形成・管理”が、6月3日に公表された。この資料の試算によると老後に必要な資金は、なんと2000万円だと言うので、マスコミは大騒ぎである。
最近資産寿命という言葉を良く耳にするが、手持ちの資産が枯渇するまでの年数を意味するのだ。この言葉を自身の余命と比較して使うわけだが、資産寿命の方が長ければ金銭的に不安は少なく、老後を気楽に生きられるわけだ。逆に資産寿命が平均余命より短ければ、資産寿命が尽きた後、霞を食べて生きていかねばならない仙人生活が待っていることを意味する。
先の報告書には、公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後も この傾向は一層強まることが見込まれる、と記述されている。
非常に分かり難く書いてあるが、要は年金だけでは生きていけないと言っているのだ。公的年金が破綻状態にあることは周知の事実であり、年金支給年齢の先送りや年金額の引下げ等により何とか維持している危機的状態にある。
金融庁の試算のモデルケースでは、夫65歳以上、妻60歳以上の無職の世帯の場合、収入は年金の約20万円に対し、平均的な支出は約26万円だそうだ。一方65 歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯2,252 万円であるそうで、例え月に6万円の赤字になったとしても、31年間は平穏に暮らせることになる。
厚生労働省の平成29年簡易生命表によると、男女の平均寿命は87歳であり、65歳の平均余命は22歳となるので、万事目出度し目出度しとなり、何ら問題ない。
しかし、平均金融資産が、約2.2万円となる算出根拠が不明であるが、我が身を振り返るとそんなに高額になるとは信じられない。日本の個人金融資産は約1800兆円もあり、その保有者は高齢者が多いと聞いたことがあるが、それが平均保有額を高めているのだろうが、個人差が大きいことも確かであろう。
老後に必要な資金2000万円に対し、現在の高齢者の平均金融資産は2252万円であるので、これを認めれば、平均的高齢者の今後は安泰となる。麻生副総理もこれを十分承知しており、若者に対し若いうちから資産形成に努力しろ、と言っていたのだ。
しかし、騒ぎが大きくなると、この報告書を金融庁としては正式に受け取らないと言い出した。金融庁の作業部会を招致したのは麻生金融相であり、大学教授やエコノミスト等錚々たる人材を集め意見を集約した貴重な報告書の筈だ。
金融庁の調査の目的は、人生100年時代に向け、長い老後を楽しく暮らせる蓄えにあたる資産寿命をどう延ばすかにあると、政府はもっと胸を張って言えばよい。同時に、老後を楽しく暮らすためには年金だけでは不十分であることも認め、夏の参院選に臨めばよいのだ。
それにしても麻生副総理の定見の無さにあきれ果てる。当初、報告書の内容を部下から説明されるとすぐに納得して、資産形成に努力せよとの発言をしたのであろうが、騒ぎが大きくなると一転、報告書を受け取らないと言い出したお粗末さだ。
麻生副総理の問題発言は今に始まった訳では無いが、麻生派閥に頼る安倍首相は麻生氏を首には出来ないのだ。情けない。2019.06.15(犬賀 大好-555)