30年前のバブル全盛期には土地価格は果てしなく値上がりするものだとの土地神話があった。しかし、時代は移ろい、土地価格は暴落し、売るに売れない時代となり、持っていても税金等の維持費がかかるばかりで負不動産とも揶揄されるようになった。そのため、土地が遺産相続対象となった場合でも相続が無視されるようになり、所有者不明の土地が激増するようになったのだ。
所有者は土地神話時代には明確であったであろうが、その後負動産化したため、転居したり、死亡したり、等する内に、所有者が曖昧になり不明土地となるようだ。所有者が不明だからと言って、他人が勝手に使用することは許されない。
現在、所有者不明の土地は全国で、九州本土を大きく上と推計されるのだから、時代の変化は急だ。しかも現在の登記制度では、少子化・高齢化により所有者不明土地は更に増えると予想されるが、このような土地の増加はどんな災いを招くのであろうか。
固定資産税の減少がまず懸念される。通常、税を納めないと財産が差し押さえられて、競売にかけられるというのが規則であるが、所有者不明土地においては、差し押さえても価値が無ければ、競売するどころかその後の維持管理に費用が嵩むことになり、競売の対象にさえしても貰えない。
しかし、所有者不明の土地であっても固定資産税が支払われている例も多いとのことだ。これは、土地の所有者が死亡して登記簿謄本が書き改めない場合でも、税の請求は遺産相続人、あるいはその該当者全員に送られるシステムとなっているからのようだ。しかし、支払われたからと言って、登記簿謄本には何の影響も与えないのは不思議な話だ。
固定資産の課税金額の決め方をよく理解していないが、売るに売れない土地となれば税額も大したことでは無いだろう。所有者不明土地の内、税が払い込まれる率を知らないが、総額も大したことにならない、従って税収の減少は大きな問題とならないと想像される。
所有者不明土地化した土地の最大の災いは、その土地を他人が有効活用する場合の妨げになることだろう。例えば、土地の区画整理等の話になると、登記簿上の所有者の許可を得ねばならず、所有者不明土地がネックとなるのだ。今後、細切れ土地の集約化、大規模化の必要に迫られても、大きな障害となるだろう。現在の日本においては個人の財産権は固く守られているのだ。
そこで、登記簿謄本上所有者を特定できない土地でも他人が利用可能にする特別措置法が昨年6月、国会で成立した。私有財産であっても、一定の条件の下で国や自治体といった公的機関にその利用を認める制度が出来たことは極めて画期的との話だが、適用条件が厳しくこれが対象となるのは極一部だろう。
新しい道路を通すような場合に、この法律が適用され土地が有効利用されるのであろうが、地方の多くの土地の場合は、国や自治体は触らぬ神に祟りなしとばかり、放って置かれるだろう。手入れをしない土地は、2,3か月で雑草に覆われ、数年で林となる。耕作放棄地の荒廃は典型だ。
所有者不明土地激増はここ20年くらい前からの問題であろう。財産であることを証明する登記簿謄本は法務省の管轄であり、税を徴収する固定資産課税台帳は財務省の管轄等、バラバラな行政で土地政策の時代遅れが目立つ。
また、所有者不明土地問題と同様に空き家問題も大きな問題となっており、空き家を撤去すれば固定資産税が増加する等の矛盾が空き家撤去を妨げている。
少子高齢化の時代に、時代遅れとなっている土地政策を大幅に見直す必要に迫られているが、夏の参院選でこの問題を指摘する声は全く聞こえない。2019.07.13(犬賀 大好-563)