”異次元金融緩和”とは、2013年4月4日、日銀が始めた金融緩和政策のことである。前代未聞の金融緩和でデフレから脱却するという大方針は安倍前首相が2012年末の総選挙に向けて掲げたものであり、日銀の黒田総裁とタッグを組んで実行した。
この金融緩和にはインフレやバブルの助長等の副作用が心配され、いつ止めるかが話題となっていたが、現在も政策自体は続行されているが、その出口論も異次元金融緩和の声すらほとんど聞かれなくなっている。
当初異次元と称されてた金融緩和も今や普通の次元のこととなったが、今の日本経済では懸念されたインフレはもちろん、当初の目標であった物価上昇率2%ですら実現されていない。ただ、大規模のバブルは起こっていないと言えども、コロナ騒動による経済活動の落ち込みにも拘わらず、株価の異常な高騰はバブルと言っても良いだろう。あり余った金が株に流れているとのことで異常なことだ。
異次元金融緩和では市中の国債を日銀が買取り、市中に現金を溢れさせ投資を促し経済活動を活発化させる筈であったが、このストーリーは脆くも崩れ去った。経済とは、日銀が国債や株を買えば物価が上がって経済成長するなんて単純なことでは無いと、この6年間の実験で証明されたのだ。
経済活動が低迷したまま、借金である国債の発行残高は約900兆円、地方政府の借金である地方債の発行残高は約200兆円、国と地方を合わせるとその総額は約1100兆円に達するそうだ。一方国民全員の一年間の稼ぎであるGDPは約500兆円で、日本の債務残高の国内総生産(GDP)に対する比率は220%で、経済協力開発機構(OECD)36の加盟国中最悪とのことだが、日本経済は破綻しておらず、従来の経済理論からは異端視される現代貨幣理論(MMT)の正しさを裏付けることとなった。
しかし、自国内での借金は問題とならないとするMMTは従来の経済学を否定するものであり、経済の複雑さを物語っている。しかし逆に考えると、今なお健全と思われる日本経済も崖っぷちに立たされているかも知れないが、誰も的確に指摘できないと言う事だけかも知れない。
MMTによれば、過度のインフレは理論的に抑制できるとのことであり、その理屈は経済素人には到底理解できないが、本当であればノーベル経済学賞を受けるほどの価値があるのでは無いだろうか。しかし、直感的に本当だとは到底思えない。
日銀の黒田総裁は、安倍前首相とタッグを組んで異次元金融緩和を推し進めたが、安倍氏は一線から退いてしまった。万が一日本経済がおかしくなった場合、黒田総裁は孤立無援で頑張れるであろうか。
現在当たり前と化した異次元金融緩和の行く末はどうなるのか、ネット上でも問題がいろいろ指摘されている。また、世間に溢れるお金は経済格差を助長している点でも懸念される。経済格差は、政治が増税等の面から解決すべきであろうが、現在の政府はコロナ対策で景気浮上に苦心し、予算の大判振る舞い等逆の方向だ。2020.12.05(犬賀 大好-658)