自民党の二階俊博幹事長は6月1日の記者会見で、”ずいぶん政治とカネの問題はきれいになってきている”と発言した。最近の国会議員の金にまつわる不祥事が相次ぐ中、発言の真意の理解に苦しむ。
金にまつわる不祥事とは、菅原前経産相が選挙区内で香典などを配ったりした公選法違反、カジノを含む統合型リゾート事業を巡り中国系企業が秋元衆院議員や他の国会議員5人に現金を渡したとされる汚職事件、河井夫婦の公選法違反等、枚挙にいとまがない。
しかし、いづれも1976年に発覚したロッキード事件に比べれば金額的に大した犯罪ではない。この事件は、自由民主党の長期独裁体制の結果生じた政界・官界・財界の癒着構造に起因する典型的な構造汚職であり、田中角栄に象徴される自民党政治の腐敗・金権体質を露呈したものであった。
二階幹事長の頭にこの事件があり、河井夫婦の1.5億円程度の買収資金はロッキード事件で扱われた金に比べたら、大した金額でないと言いたいのであろう。そう思うと、二階氏の発言のように昔に比べれば、確かに政治とカネの問題はきれいになってきており、民主主義の成熟までの過程の現象と思いたい。
しかし、菅原氏にしても河井夫婦にしても、公選法違反を罪の意識なく平気でやっていたことを見ると、他の国会議員も多かれ少なかれやっていると思わざるを得ない。特に夫の河井氏は法務大臣を務めた男であるゆえ、この程度の公選法違反は国会議員の間では日常茶飯事の出来事かも知れない。兎も角、選挙の結果が金で左右されることは間違いなく、これも残念ながら民主主義の一つの表れであると思うと、民主主義が成熟しつつあるとは到底思えない。
そもそも、先の二階氏の発言は、河井夫婦の選挙における買収工作に使われた1.5億円を夫婦に渡した責任者は誰かと、党広島県連会長の岸田前政調会長が真相解明を二階幹事長に迫ったことが切っ掛けのようである。これに対し、二階氏は安倍前首相と二階氏自身であると明らかにした。
岸田氏は二階氏を問いただし、責任を追求したかったのであろうが、同時に安倍前首相の名前も引っ張り出され、振り上げた拳の行き場に困ってしまったのか、その後の動きはさっぱりだ。
岸田氏は安倍政権から禅譲を期待して位に安倍氏に近いようだ。岸田氏は二階氏の責任を明らかにし、幹事長から引きずり降ろし、その存在を誇示したかったと思われる。岸田氏は菅首相の後釜を狙っており、そのために攻勢に出たと想像していたが、やっぱり二階氏の方が一枚上手だ。
さて、任期が9月に終了する菅政権が存続するかしないかは、東京五輪の成り行き次第と思うが、自民党の総裁を巡って自民党内は議員連盟が乱立し、議員の囲い込みが盛んである。この議員連盟も意見を同じにする仲間の集まりであればまだしも、金銭的な繋がりやポストを巡る集まりであろうから、がっかりである。2021.06.16(犬賀 大好ー711)