中国外務省は先月24日、ウクライナ侵攻1年を契機に、「政治的解決に関する中国の立場」という文書を発表、和平交渉の再開を促すなど12項目の提案を公表した。ロシアのウクライナ侵攻が長引き、いつ終わるか分からず、ウクライナの被害だけが拡がる状況で、この紛争を仲介し和平に持ち込もうとする姿勢を示すことで国際的に存在感を誇示するためであろうか。あるいは、プーチン大統領の意向を受け、恩を売るための提案であろうか。
中国のこの提案では「すべての国の主権を尊重」「和平交渉の再開」、また、核兵器による威嚇・使用を反対する「戦略リスクの軽減」等が述べられており、極めてまっとうな提案と思われる。
しかし、提案の中に、「一方的な制裁の禁止」等も盛り込まれており、これはロシアに対するNATO諸国の経済的な制裁等を禁止したものと思われ、プーチン氏が喜ぶ内容である。当然、反ロシア側の反応はロシアを利するものとして一考に値しないとのことだ。
中国は和平の提案をする一方で、中国企業が4月までに、無人航空機・ドローン試作機100機をロシア国防省に送る方向で調整しているとドイツ誌「シュピーゲル」は23日、報じた。和平提案の一方でウクライナ側がこれに応ずるようにと裏で圧力をかけていると勘繰ることが出来る。
中国政府は「一貫して軍事品の輸出に対し、慎重かつ責任のある態度であり、紛争地域や交戦当事者に対していかなる武器も販売しない」と報道内容を完全に否定した。表では戦争に協力しないと言いながら、裏では和平提案に協力しないならば兵器の供与で脅すとは、これが政治と言うものであろう。
中国の和平の提案は膠着状態に陥った紛争をロシアに利するように終わらせようとする、プーチン大統領に恩を売る行為であり、その間に武器を準備する時間稼ぎの意味も含まれると思われる。
プーチン大統領は2月21日、国民に向けた年次教書演説でも己の正当性を主張したが、国際的に孤立し、少しでも早く終結したいと思っているだろうが、現状出口を見いだせない。プーチン大統領の望む停戦とは、ロシアが併合を宣言した4州をウクライナがロシアの領土と認めることであろうが、ウクライナは納得するはずが無い。
現在、ウクライナ東部ではロシア側がドネツク州の掌握をねらい、ウクライナ側の拠点バフムトを包囲するように攻撃を強めているのは、既成事実を早く作るための作戦と思われる。
プーチン大統領はロシア単独では解決できないことを理解し、中国を始めとする周辺の国々に和平の仲介をするように依頼しているのではないだろうか。先月24日にブラジルのルーラ大統領がBRICSなどの中立国が仲介する和平案を出し、またイスラエルにもその動きがあると言う。2023.03.04(犬賀 大好ー894)