経済同友会代表幹事であった小林善光氏は、この30年間日本は敗北の時代だったと述べている。
すなわち、新しいコンセプトの商品やサービスは全て米中の企業によるものであり、日本はデジタル化の波に乗り遅れてしまい、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)化といった新技術がどんどん登場し、革命期に入っているのに相変わらずハンコを使い、キャッシュレス化も進んでいない、との嘆き節である。
確かに、30年位前に先端技術ともてはやされていた半導体製造技術、磁気ディスクや光ディスクのメモリー製品、太陽電池やリチウムイオン電池、ロボット技術等のハード技術では世界をリードしていたが、韓国、台湾、中国の猛追にあい、今ではすっかり席巻されてしまった感である。
通産省の統計によれば、実質国内総生産(GDP)の成長率は2019年の日本は0.9%であるが、米国は2.7%、中国は6.4%であり、世界の主要国の伸び率は日本の2~3倍あることからして、小林氏の指摘は的を得ている。
さて、安倍政権の経済政策の目玉、アベノミクスでは市中に金をばら撒き、土地の値上がりや株高を招き、一般市民には実感しないと揶揄された好景気が続いたが、飛躍や成長のタネは生まれず借金だけが増えた。
安倍政権も手を打たなかった訳ではない。歴代の政権も同様であるが頻繁に成長戦略を出してはいるが、上手く育たなかった。30年前、ハードの面では世界1の技術レベルを誇っており、性能も行きつくところまで行った感であった。例えばロボット技術では工業用ロボットとして自動車工業を世界1に持ち上げた。しかし、世界の技術の流れはハードウエアからソフトウエアに移っていた。
すなわち、情報技術(IT)が進歩し、インターネットの時代となったのだ。IT技術の主流はソフトウエア技術であり、この世界は、資源や資本が無くてもアイデアで勝負できる世界であり、個人の能力が発揮される世界である。
ところが日本は聖徳太子の時代から”和をもって尊しとなす”の国であり、他人と違ったことをすることを避ける世界であり、人と違ったことをすることは村八分であった。そのため新しい概念である、携帯電話、人工知能(AI)、サイバーセキュリティ等の基幹的技術は日本から生まれず、外から手に入れなくてはならない時代となってしまった。
このため、政府は慌てて昨年6月新たなIT戦略を閣議決定した。そこで本年より実用化が本格化すると言われている次世代通信規格5G対応の通信網を普及させる方針を掲げた。また、未来投資会議でポスト5Gと呼ばれる次々世代通信技術6Gで日本企業の競争力を挽回する方策を議論した。次世代の5Gでは中国勢に後れを取ったが、巻き返しのため政府として国家プロジェクトを立ち上げる方針を示したのだ。
新しい概念は国家プロジェクトを立ち上げたところで簡単に発展生まれない。あくまで個人の資質による。日本人は集団で力を発揮する。国家プロジェクトでは光で動作する新しい原理の半導体、1回の充電で1年持つスマートフォンなどの実現等を目指すそうだ。具体的目標が決まれば力を発揮する日本、6Gの世界で使用されるであろうハードウエア面では日本の出番は必ずあるだろう。2020.01.11(犬賀 大好-565)