気ままな思いを

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「年をとると心も衰えるか」

2009-07-03 | 言葉の意味は


私たちの体は、一生の間にゆっくり朽ちていく。これはつらいことだ。
若い肉体のままでいたいと望んでも、そんなわがままは通用しない。
人の体が年とともに、衰えていくのは、避けがたい人生の苦しみである。
ならば心はどうか。
心も、体と同じように、衰えていくのだろうか。


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確かに認知症など、脳に様々な不都合が起ってくる、可能性は高まる。
しかし、それも、脳という「肉体」の老いである。

私が言いたいのは、「脳も含めた肉体の器官は、年とともに衰えるが、
心はどうなるのか」、という問題である。
老人の心は、若者の心よりも、弱いのだろうか。

年をとれば、残りの寿命は減る。

体は衰え、記憶も薄れ、背後から死の薄闇が忍び寄る。
しかし、だからこそ、年をとった人は、その切ない状況を、
わが身のこととして、確実に感じることができる。

年をとった人には、元気はつらつな青少年には分からない、
「人生の本質的な苦しみ」を、おのずから感得する力が、生まれてくる。

肉体が衰えていくからこそ、そこに宿る心には、生きることの本質を、
見通す洞察と、そこから生まれる、他者に対する深い優しさが、
備わってくる。それは、年をとることの、なによりの恩恵である。

年をとるということは、苦悩を感じとる力が、心を磨くのだ。
お年寄りはなぜ偉いのか。それは、生きる辛さを知っているから、
そして、その辛さを抱えて生きる中で、知恵と慈悲の意味を、
本当に理解しているからだ。

年をとることそのものが、修行なのである。


*** 朝日新聞・「日々是修行」
   佐々木 閑(花園大学教授・より抜粋にて ***