風さそひ 桂の人は 窓を訪ひ まどろむ人の 夢にすずろく
*わたしたちには、恋愛感情というものは、ほとんどありません。もちろん女性を愛していますが、あなたがた人類の男性たちのように、激しく女性に恋するということは、ありません。
ですが、恋の楽しさや美しさは知っている。だから時に仮託して、恋を歌うこともあります。
桂の人とは、月の世界に住む美男子のことです。月には桂の木が生えているという伝説がありますから、桂というと、月を意味することもあります。
そういう男が、風に誘われて岩戸を訪れ、窓からあの人を覗く。眠っているかのじょが見ている夢を垣間見て、そのかわいらしさに、胸がそわそわしている。話しかけたいのに、それができなくて、しばしぼんやりと見つめている。
そういう図を思い浮かべると、楽しい。
「すずろく」は、心が浮ついて落ち着きがなくなるさまを言う言葉です。恋をすると、男はよくそういう状態になる。理性の鏡が曇って、何かに動かされ、身の奥から高まるものに耐えられなくなってくる。
愛というものは時に、痛いことをする。
恋というのは、不思議な水をたたえた池のようなものだ。濡れることはわかっているのに、いつの間にか浸かっている。それが楽しい。
馬鹿にならずに、愛を楽しんで、よいことにしていけばいい。
勉強して、洗練された振る舞いを身に着け、女性の心の戸をたたきなさい。
そうすれば、美しい心を持ったひとが、おずおずと戸を開けてくれるでしょう。