いたづらに 思ひこがれて 酢を塗れば 月は天路の 庵に去りてむ
*俳句を請うてみたが、そう毎度うまくはいきませんね。今日も短歌です。
「てむ」は完了の助動詞「つ」の未然形「て」と、推量の助動詞「む」が合わさった形で、強い推量を表します。「きっと~だろう」とか「きっと~にちがいない」とか訳されます。こうして作例を上げながら教えておくと、応用しやすいでしょう。いろいろ細かい理屈はありますが、まずはこれを使っていろいろ言葉を作ってみてください。おもしろい歌が詠めます。
いたずらに思い焦がれて、顔に酢を塗るような意地悪をすれば、きっと月は天の路のわきにある庵に去ってしまうだろう。
「む」や「らむ」よりは、強い感じになります。
「天路」は「あまぢ」、天上にあるという道のことです。そのわきには、月の帰る庵(いほ)がある。まあ、月の岩戸と同じと考えていいでしょう。
表現というのはいろいろな形がある。月の岩戸という言葉に硬く閉じ込めてしまわずに、天路のわきにある小さな庵という表現をすることもできます。そうすれば、羊羹を切り分けるように言葉を分けて、こういう歌を詠むこともできるわけです。
「庵」は「いほり」ともいい、草木や竹で作った仮小屋のことだ。隠遁者が住む仮住まいのことでもある。「家(いへ)」とせずに「庵(いほ)」としたのは、音が「五百(いほ)」に通じるからです。つまりは、天路のわきには五百ものたくさんの庵がある。それは何かといえば、たくさんの星のことだ。つまりは、月が帰る世界は星の世界のことだ。星の世界こそは、天使の本当の故郷だ。それは月の岩戸の奥にある。
意を深めていくとこういう世界も見えてきます。
要するに、好きならば何をしてもいいのだと思い込んで、馬鹿にするようなことばかりしていると、本当に好きなものに、遠いところに逃げられてしまいますよという意味です。愛しているのなら、意地悪をせずに、よいことをしてあげなさい。そうすればもう、二度と大事な愛を失わずに済む。
再びの 雁を水際に むかふれば その秋こそは 玉をやりてむ 夢詩香
繰り返し詠われるテーマだが、何度もおもしろい表現で詠われてみると、また心によいものが溶けてきますね。