Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

男の分際で……

2021年10月23日 12時07分40秒 | エッセイ


   今時、こんなことを口にしようものなら大事だ。
   だが、少し前まではよく耳にした言葉である。
   「女の分際で……」。

        
  
   「分際」とは「身のほど」という意味であり、
   そこには「軽蔑」の気持ちが隠されている。
   だから「女の分際で……」と言えば、
   「誰のおかげでメシが食えていると思っているんだ」
   裏にこんな意識が隠されており、昔ながらの男尊女卑の風習と、
   稼いでいる人間が偉いという価値観が相まって、
   経済的に自立していない女性に向けられていた。


   ある本を読んでいたら、こんな話が書かれていた。
   筆者がビジネス系のセミナーに参加したところ、
   男性の講師が「男の分際で……」という話を始めたそうだ。
   本に書かれている男性講師の話は、概略こういうことだった。


   男性の中にはごく稀に男の分際で女性に手を挙げる奴がいる。
   どんなに偉いか知らないが、女性の胎から生まれたくせして、
   しかも人間として自立していない頃には、
   その乳を飲み、おしめを替えてもらい、
   その腕に抱かれた日々があって『今』があるはず。
   そんな男の分際で女性を大事にせぬとはとんでもない

      
 
   実は、こんなことは男性講師から
   言われるまでもない事実なのだが、
   男たちは何かしらの威厳を保とうとしてか、
   こうした事実に触れずさわらず、
   心の隅っこの方に押し込んできた。
   でも、容易には隠しきれない時代になってきたのだ。
   「女の分際で……」と言おうものなら、
   女性からのみならず世間の反発を一斉に買うことになる。


   もし先々、寝たきりにでもなったらどうしようか。
   自立していなかった、あの頃に逆戻りし、
   おむつの世話まで、今度は妻に頼むことになるのだろう。
   「男の分際で……」なんたることか。
   「女の分際で……」なんて言えるはずがない。