今時、こんなことを口にしようものなら大事だ。
だが、少し前まではよく耳にした言葉である。
「女の分際で……」。
「分際」とは「身のほど」という意味であり、
そこには「軽蔑」の気持ちが隠されている。
だから「女の分際で……」と言えば、
「誰のおかげでメシが食えていると思っているんだ」
裏にこんな意識が隠されており、昔ながらの男尊女卑の風習と、
稼いでいる人間が偉いという価値観が相まって、
経済的に自立していない女性に向けられていた。
ある本を読んでいたら、こんな話が書かれていた。
筆者がビジネス系のセミナーに参加したところ、
男性の講師が「男の分際で……」という話を始めたそうだ。
本に書かれている男性講師の話は、概略こういうことだった。
男性の中にはごく稀に男の分際で女性に手を挙げる奴がいる。
どんなに偉いか知らないが、女性の胎から生まれたくせして、
しかも人間として自立していない頃には、
その乳を飲み、おしめを替えてもらい、
その腕に抱かれた日々があって『今』があるはず。
そんな男の分際で女性を大事にせぬとはとんでもない
実は、こんなことは男性講師から
言われるまでもない事実なのだが、
男たちは何かしらの威厳を保とうとしてか、
こうした事実に触れずさわらず、
心の隅っこの方に押し込んできた。
でも、容易には隠しきれない時代になってきたのだ。
「女の分際で……」と言おうものなら、
女性からのみならず世間の反発を一斉に買うことになる。
もし先々、寝たきりにでもなったらどうしようか。
自立していなかった、あの頃に逆戻りし、
おむつの世話まで、今度は妻に頼むことになるのだろう。
「男の分際で……」なんたることか。
「女の分際で……」なんて言えるはずがない。