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Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

移り気

2021年01月27日 09時54分24秒 | 小話
    「じゃ、僕は行くよ」貴男は冷たく背を向ける。
    「待って」消え入りそうな私の涙声。
    「だけど、僕の誘いを拒んだのは君じゃないか」
    「……」
    「ああ、分かっているよ。僕は心から君を愛しているし、
    君もきっと僕のことを……。
    だから、もう泣かないでほしい。さあ、こちらへおいで」
    貴男は優し気に言う。それがまた私の胸に刺さる。
    

    
    貴男のその純白の装いは、世の邪気を払う神の化身か。
    見まがうほどに高貴で神々しい。あらゆるものが貴男にひざまずく。
    貴男が大きく腕を広げれば、その腕に抱かれようと女たちが
    先を競ってやって来る。
    貴男を拒むなど、どうして出来ようか。
    幸運にも貴男の目に留まった私。気持ちは宙を舞っていた。
    そして貴男の腕が、柔らかく、温かく包み込こんでくれる。
    そんな幸せは束の間のことだった。
    私が初めて貴男の腕の中で胸をときめかせた時、
    貴男の視線の先にはもう別の女性がいた。
    貴男の素敵な顔は確かに私の方を向いていたけれど、目は違っていた。
    
    そんなことがその後も。私は気づかない振りをした。
    「何て移り気な」と詰りもしなかった。
    貴男が離れていくのが怖かったから。
    でももうダメ。これ以上貴男の移り気には耐えられそうもない。
    貴男は私の目を盗んで次から次へと、
    貴男の温もりを欲しがる女たちを迎え入れる。
    私が知らなかったとでも……。
    私は泣き続けていた。
    貴男の移り気は自分ではどうしようもない貴男たちの
    性(さが)なのだと分かっていても、
    やっぱり許せない。今日限り、きっぱりと……。
    泣きながら貴男を見つめる。
    ああ、何と美しい。
    腕をいっぱいに広げ、そして王者のように気取って歩く、
    その物腰の柔らかさ。私をまた惑わせる。
    仕方がない。貴男がどこへも行かぬよう、
    どこかに閉じ込めておくことにしよう。

    ──見慣れた青や緑など鮮やかな色彩のインド孔雀。この白孔雀はその白変種だという。
    尾羽をプルプルプルと震わせ、そして背から尾の先までの純白の長い羽を
    おもむろに扇 のように丸く広げていく。
    そして睥睨するかのように周囲を見回す。その神秘的で優雅な姿。
    だが、いつも見られるわけではない。繁殖期の1~3月、その暖かい午後、
    それも周囲に人が多くない平日にラッキーな日が多いのだそうだ。
    その幸運に大牟田動物園で巡り合った。

       白孔雀はどうやらここに幽閉されたらしい

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (けいこたん)
2021-01-27 13:39:09
色っぽくて、切なくて、悔しくて…
と思っていたら(≧▽≦)
最後に見事にやられました。
といういうか、私も女性ですので「やったね!」でした。
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Unknown (Toshiが行く)
2021-01-27 14:43:23
こんにちは けいこたん。
たまには、こんな遊び方もしてみよう、まあ出来心みたいなものです。
これから時々やってみようと思っています。
返信する
Unknown (kaminaribiko2、)
2021-01-28 08:47:02
浮気な男の生態を巧みに描写した文章と読みすすめると…。お見事でした。
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Unknown (Toshiが行く)
2021-01-28 08:51:34
kaminaribikoさん 朝早くから褒められたりすると、今日一日が心弾ませ送れそうな気がします。ありがとうございます。
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