【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

文字通り「小さく産んで大きく育てる」

2011-08-13 19:23:27 | Weblog

 未熟児で生んで、メタボにする

【ただいま読書中】『ココ・シャネルの秘密』マルセル・ヘードリッヒ 著、 山中啓子 訳、 早川書房、1987年、2000円

 「シャネル」で私が思い出すのは、マリリン・モンローの「シャネルの5番」です。いやあ、どきどきするせりふでしたっけ。
 ココ・シャネルの人生に関してインタビューを試みた人はたくさんいましたが、そのほとんどは失敗でした。本書から読み取れるのは、「人間関係の構築」がその原因のようです。ココ・シャネルは“気むずかしく扱いにくい人間”のようなのです。しかし著者は辛抱強くインタビューを重ねていき、少しずつ彼女のホンネを聞き出していきます。
 そもそもなぜ「ココ」なのか、の物語(彼女の本名はガブリエルです)も、複雑でしかもあまりはっきりしないものです。父親に捨てられ、二人の叔母に育てられた幼少期。“モード”への目覚め。著者はココ・シャネルのことばを記録します。しかし、それを心から信じているという様子ではありません。ココ・シャネル自身が、自分自身の生涯の上にべったりと貼り付けられた“神話”を通してにじみ出てくる自分自身の物語に戸惑っているかのようです。著者はココの話を「話し始める度に新しく構築される、連続物語」として捉えるようになってから、ココの“実像”に少しずつ迫ることができるような気がしてきます。ただしそれはココの“過去”を明らかにするのとは逆の方向に進むことでした。彼女が「自分の過去はこうあってほしかった」と語る物語をそのまま受け入れることになるのですから。
 「服を着る」ことは、その人自身を表現することであると同時に、その人の実像(裸の姿)を覆い隠すことでもあります。本書でのココ・シャネルのことばは、ちょうど彼女が生みだしたモードと同様に、「裸の彼女」を覆い隠し、そして同時に「彼女自身」を語っています。
 「ココ・シャネルの人生」について詳しく知りたい人には、もしかしたらやや不満の残る本かもしれません。しかし、著者とココとの人間関係はスリリングで、とても楽しめます。私のように「ファッション、何それ?美味しいの?」の朴念仁でさえも楽しめましたのですから。