【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

先取りされた季節

2016-07-03 07:32:19 | Weblog

 堤防の道を車で走っていると、ススキがずらりと生えているのに気づきました。まだ全身緑色で穂先はまだまだ非常に細いのですが、あきらかにススキのシルエットです。もちろん「季節のもの」はその前の季節に“準備”をしておかないと間に合わないわけですから、今からススキも準備をしておかないと秋には間に合わないのですが、まだ夏になったばかりだよしばらく隠れておいで、と言いたくなってしまいました。

【ただいま読書中】『植物はなぜ動かないのか』稲垣栄洋 著、 筑摩書房(ちくまプリマー新書252)、2016年、820円(税別)

 タイトルを見て「ミドリムシ(ユーグレナ)は動くけどね」なんてことを思っていましたら、本書の冒頭に「ミドリムシ」だけではなくて「はてな」という不思議な生物が紹介されました。これは鞭毛を持つ単細胞生物ですが、エサとして取り込んだ緑藻類が細胞内共生をしているもので、2000年に発見され、和名の「はてな」がそのまま学名の「Hatena arenicola」になっているのだそうです。「植物と動物の境界」は実は不安定なもののようです。
 「細胞内共生説」によれば、ミトコンドリアも葉緑体も、独立した生命体が細胞内に取り込まれて共生するようになったわけですが、動物も植物もミトコンドリアを持っていることを見ると、まず「単細胞生物」がミトコンドリアを取り込んで繁栄し、その一部が葉緑体を取り込んで植物の祖先となった、ということになります。ということは、植物の方が進化論的には“進んだ”存在、ということに?
 植物は動きません(動けません)。これを「固着性」と呼びます。そのため植物は、環境に合わせて自分自身(形や大きさ)を変えます。これを「可塑性」と呼びます。つまり植物は動物とは“ライフスタイル”が異質なのです。
 進化から見ると、「草」は「木」から進化して生まれたものです。白亜紀の終わり頃、パンゲア大陸が分裂を始めました。環境が激しく変動する時代になったのです。そこで植物は、ライフサイクルを敢えて短くして環境に細かく対応できる戦略を採用しました。それが「草(被子植物)」です。その変化について行けなかったのが「地球の支配者」恐竜でした。隕石が全地球規模の災厄を引き起こす前に、すでに恐竜の時代は黄昏を迎えていたのです。
 食物連鎖のピラミッドでは、植物は最底辺に描かれます。では植物は「弱い」のでしょうか? 数を見たら一番繁栄しているようなんですが。しかも植物は黙って食われているだけではありません。「毒」を発達させました。人が農業を発達させたのは、安心して食せる無毒の食品を大量に得るためだったのかもしれません。
 植物の“抵抗”には別の方法もあります。イネ科の植物は,葉にガラス質を集めて刃物のようにします。さらに葉の栄養分は最低レベルに落として、エサとしての魅力をなくすようにしました。ところがそれに対応したのが反芻動物です。蛋白質や糖質がほとんどなくても繊維は豊富ですから、牛は最初の3つの胃で咀嚼と発酵を行い、4番目の胃で初めて胃液を出して消化するというメカニズムを発達させました。ウマは胃は一つですが、発達した盲腸の中で微生物によって発酵を行います。植物が頑張れば、動物も頑張るのです。両者の目的は同じです。「種の生存」。そのためには自分に有利な戦場を選択する必要があります。生態学では「ニッチ」と呼ばれるところです。そしてその場所で他者を蹴落として自分だけが繁栄しなければなりません。つまり、まず「オンリーワン」となり、ついで「ナンバーワン」となることによって生命は滅亡せずに、一見共生をしているように見せながらここまで生きてきたわけです。
 本書を読んでいて「生命の強さ」「弱さ」とは一体なんだろう、と私は不思議に思うようになってしまいました。単純に決めつけることはできないぞ、と。そういった思いを読者が抱けたら、著者が本書を書いた目的(の一つ)は達成できたようです。