【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

お盆に帰る

2016-07-29 07:26:05 | Weblog

 お盆に御先祖様が帰ってきたら地獄も極楽も空っぽになるけれどどちらもそんなに簡単に“出る”ことができるのか?というのは以前@niftyで書いたことがありますが、現在お盆で“帰る”のは都会に住んでいる人たちです。ということは、現世での地獄や極楽に相当するものは大都会ということに?

【ただいま読書中】『灯籠』うえむらちか 著、 早川書房(ハヤカワ文庫JA)、2012年、620円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4150310696/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4150310696&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 著者は広島出身だそうで、で、本書の舞台は広島で、だから自然な広島弁が満載です。タイトルの「灯籠」は広島(というか、安芸門徒(安芸の国の浄土真宗))に特徴的な「盆灯籠」のことです。でかくて派手な竹と紙でできたお盆にお墓に供える灯籠ですが、どんなものかは「広島 盆灯籠」で画像検索をしてみてください。とっても賑やかな墓地の光景やコンビニでも売っていることに衝撃を受ける人は多いことでしょう。
 両親を交通事故で失った8歳の灯(ともり)。お盆で山奥のお墓を訪問したときに出会った不思議な青年、正造。彼は「何かを探しているんだけど、何をなくしたのか覚えていない」と標準語で言います(灯は広島弁です)。そして、毎年お盆の4日間だけ、灯は正造と楽しい日を過ごすようになります。灯は毎年成長します。正造はその成長ぶりを、手作りの盆灯籠の高さを彼女の身長に揃えることで表現します。お墓の父母に「こんなに大きくなりました」と報告するために。そして灯は正造に惹かれていきます。
 灯は一年の内で4日間だけの幸せのために、あとの日々は孤独な抜け殻のように過ごします。まるで、何年も地中で過ごしてやっと地上に出た1週間だけ鳴き続けて死んでいく蝉のように。
 そして高校三年の夏、灯は意外な場所で写真の中に正造の姿を発見します。
 いや、薄々感じてはいましたよ。正造が着物姿であること。その立ち居振る舞いが古風であること。異様に白い肌。読者は気づいているのですが、灯は気づいていません。そして、時間をかけて“それ”に気づいていく過程が短い文章ながら丁寧に描かれているのを,読者はゆっくりと味わうことができます。そして、自分の心に残されているやわらかい部分を、優しく撫でられているような気分になれるのです。不思議で愛しいお盆の物語です。
 第二話「ララバイ」は、第一話ではほとんど端役扱いだった清水クンが主人公です。灯と正造の不思議な関係の背後で、清水クンが何を考えどう行動していたのか、の一端が明かされます。明かされるのは良いのですが、この不思議なエンディングを見ると、生死の境界がずいぶん曖昧になってしまって、一体誰が生きていて誰が死んでいるのか私は軽く混乱してしまいました。まあお盆の物語ですから、それで良いのでしょうが。