シリアなどからの難民は欧米で嫌われていますが、北朝鮮からの難民は(まだ)それほどでもありません。これって、国による差別? 単に数の問題?
【ただいま読書中】『天女の密室』荒巻義雄 著、 実業之日本社、1977年
「浦嶋伝説」を下敷きにした伝奇推理小説、だそうです。面白いのは「玉手箱」を一種の「密室」とする「見立て」でしょう。開けてしまったらすべてがおじゃんですから、蓋を開けずにいかに中を操作するか、という着想から本書は始まったように私は読みました。
大資産家の宇良家の当主が密室状態の茶室の中でガス中毒で死亡します。状況は自殺に見えますが、幼い一人娘(名前は乙女子)を残して自殺をする理由が見当たりません。発見者は、母屋に泊まっていた財産管理人。そして20年後、乙女子が新婚旅行から帰ってからその同じ茶室(しかも同じく密室状態)でガス中毒で死亡します。発見したのは,乙女子の友人(かつ親戚)で乙女子の夫である嶋成のパリ時代の愛人の女性。
同じ茶室にいた嶋成はガス中毒の後遺症で記憶喪失となり、北海道で3年間療養生活を送ることになります。やっと帰宅して「何があったのか」と「自分の過去」を探る嶋成ですが……
この人が、探偵としては未熟だし、女にはだらしないし、金銭感覚も生活力もゼロに等しいし……そもそも探偵なのか被害者なのか、もしかしたら犯人なのか、まったくわけがわかりません。嶋成は手探りで霧の闇夜を歩いている気分ですが、読者も視界ゼロ。しかも次々登場する人がみな「謎」を持っている様子です。
嶋成は新進の画家で、パリである程度のものを身につけ、日本でも“出世コース"に乗っていたところでこの「事件」でした。だから画家としての成功を夢見ています。ところが自分が乙女子(というか宇良家)の資産を全部相続しているらしいことが知らされます。ただし財産管理人は何も積極的に教えてくれようとせず、自分の孫娘との結婚を勧めてきます。これがまた魅力的な娘なんだなあ。
「ハイミス」「トルコバス(トルコ風呂)」「自動引き出しの秘密番号(キャッシュカードの暗証番号のことです)」など古い言葉がいろいろ見つかって、懐かしい気分にさせられる、という“副産物"もある本です。同時に「銀行は、金の貸し借りだけではなくて、個人の資産管理などももっと熱心にやるべきだ」なんて“新しい"主張もあります。40年前からそうやっていたら、銀行も今の体たらくではなかったでしょうね。