「美しい人」「美しい顔」「美しい仕草」「美しい言葉」「美しい思い出」「美しい友情」「美しい動物」「美しい風景」「美しい夜空」……これらに共通する「美のイデア」って、どんなものなんでしょうねえ?>プラトンさん。
【ただいま読書中】『ビビを見た!』大海赫 作・絵、 ブッキング、2004年、1800円(税別)
なんとも「強烈」な絵本(絵+文章)です。
生まれつき目が見えないホタルは不思議な声を聞きます。「正午から7時間だけ目が見えるようにしてやろう」。そしてその声の通り、ホタルは目が見えるようになります。しかし、その代わりのように、ホタルのまわりの人びとは皆目が見えなくなってしまったのです。
目が見えるのは7時間だけ。ホタルは貪るように「世界」を見ようとします。しかし、ホタルが住むニジノ市は「敵」に襲われます。ホタルとお母さんは、汽車に乗って避難しろ、という命令に従います。しかし「敵」はニジノ市を踏みにじり、汽車を追ってきます。
その客車の中で、ホタルは「ビビ」を見ます。
いやもう、なんという展開。なんという波乱。なんというスリル。なんという不条理。そして、なんという哀しさと悦び。
目が見える最後の時間、ホタルは「自分が見たかった一番美しいもの」を見つめます。もうすぐ見えなくなる目に焼き付けるように。そして……
心の中に「美しいもの」があれば、人は強く生きられる、ということかもしれませんが、こんな真っ当で弱々しいメッセージを伝えようとしている本ではありません。もっと「強烈」です。私は子供の時にこんな本に出会うことがなくて、ある意味幸せだったのかもしれません。もしそんなことがあったら、私の人生は今とは絶対に違っていたでしょうから。