【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

日本の伝統

2018-03-31 06:41:24 | Weblog

 「日本の伝統への回帰」を主張する人がいますが、そういった方は「五箇条のご誓文」をどう捉えているのでしょう。明治天皇はあれで「過去への決別」を明確に宣言しています。ということは、「日本の伝統への回帰」とは、「日本の伝統は明治時代以降に限定」か、あるいは「明治天皇の否定」のどちらか?

【ただいま読書中】『歴史の場 ──史跡・記念碑・記憶』若尾祐司・和田光弘 編著、 ミネルヴァ書房、2010年、6500円(税別)

 「歴史とは記憶が層となって積み重なったもの」で「モニュメントはその層を切り開くための“入り口"」という観点から、欧米を中心に世界各地のモニュメントを約20取り上げその多様性を論じた論文集です。
 アメリカ独立戦争はUSAにとっては重要で、だからジョージ・ワシントン一族の墓もまたモニュメントとして重要です。死者に対してはふつう「安らかに眠ってください」ですが、「公的な死者は眠ることを許されない」のだそうです。
 ニューヨーク州がまだ奴隷制を維持していた時代、黒人は(白人のための)教会墓地に埋葬されることを許されず、黒人専用の墓地に葬られました。発掘されたこれらの死者もまた「公的な死者」となっています。ところで、黒人専用墓地はつまりは黒人差別の具現化ですが、その発掘でも妙に不自然な人為的破壊などが行われています。黒人差別はまだまだ残っていることがこのモニュメントに関してわかってしまったようです。
 欧米中心の本ですが、最後に「ヒロシマ」が登場します。ただし「ヨーロッパにおけるヒロシマ」。「ヒロシマ」が「歴史」の文脈の中で新しい解釈をされ、それに伴って百科事典の記述が深化し「モニュメント」として機能していることが示されます。本家の日本では「ヒロシマ」は「忘却するべき対象」扱いになっているようですが、ヨーロッパではむしろ「新しい意味」を与えられているようです。そういえばICANも本部はスイスでしたね。「ヒロシマ」というか、「歴史」の価値と意味が、日本と西洋ではずいぶん違うのかもしれません。