【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

掻けない辛さ

2016-08-25 07:01:17 | Weblog

 体の中が痛むのは不気味で嫌ですが、もし体内(脳とか胃とか)が痒くなったら、こちらはこちらでちょっと恐いとは思いません?

【ただいま読書中】『なぜ皮膚はかゆくなるのか』菊池新 著、 PHP研究所(PHP新書)、2014年、760円(税別)

 「かゆみ」の定義は1660年ハーフェンレファー(ドイツの医師)によって与えられました。それがどんなものか、次の段落に書きましたがそこに移る前にちょっと考えてみてください。実は私は良い定義を思いつけませんでしたが、あなたはどう定義しますか?
 ハーフェンレファーの定義は「掻きたいという衝動を引き起こす不快な感覚」。
 言われてみたらなるほど、です。では「掻く」と何が起きるかというと、2014年になってやっとわかったのですが、脳で「褒賞系」と呼ばれる中脳や線条体が刺激されて人は快感を感じているのです。また、痛みを与えると痒みは抑制されます。快感も痛みの作用も、感覚的な経験から納得される人は多いでしょう。
 面白いのは、「痒みが生じる部位」は「手が届く範囲」であることです(たとえば腹の中は痒くなりません)。ここでも「痒み」と「掻く」がセットになっています。
 痒みには、虫に刺される・皮膚の病気、といったものもあれば、精神的な痒み(ストレスで痒くなる、痒そうな他人を見ていて自分も痒くなる、など)もあります。
 掻くと快感を感じますが、掻くことで皮膚の炎症が進みそれが原因でかえって痒みが増す「イッチ・スクラッチサイクル」も進行します。さらに脳の痒み閾値が下がり(痒みをさらに感じやすくなり)、皮下では神経末端が伸びて痒みをさらに感じやすくなります。つまり、掻けば掻くほど痒みが増す無限ループに突入してしまうのです。
 著者はそれに対して「掻かないこと」「冷やすこと」を勧めています。ただし、メントールなどは一時的なごまかしに過ぎません(それでも冷感によって掻くことを抑制できるので、自然治癒が期待できますが)。皮膚がひりひりするくらいに熱いシャワーは、一時的な痒み抑制はありますが、皮膚の生体反応が活性化して化学伝達物質などが増え、結果的には痒みが増します。
 治りにくいアトピー性皮膚炎では、患者は痒みでとても辛い思いをしますが、その原因の一つは「無知な医師も治療に関与していること」だそうです。そういった医師に出くわしたために医療不信となって民間医療に走る人も多くいますが、その民間医療もまた効かないもののオンパレード。著者は「アトピー・じんましん・乾燥肌・慢性湿疹などの痒みに対しては、病気の原因と皮膚の構造と痒みのメカニズムをきちんと理解したら、論理的に治療法は導き出せる」と主張します。
 治療法は「対症療法(とりあえずの症状を抑える)」と「原因療法(原因を取り除く)」の組み合わせです。たとえば金属アレルギーだったら、歯の金属の詰め物を全部除去。アトピーだと言われていた赤ちゃんの中には、柔軟剤かぶれや洗浄剤かぶれ、ひどい例では水道水の塩素にかぶれていた人もいるそうで、そういった人はその「原因」を使わないようにします。
 言われていることは一々ごもっとも。とってもわかりやすい解説です。問題は、ここまできちんと皮膚を見る皮膚科医が日本のどこにいるのか、の情報が手に入りにくいことです。



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