【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

左右と右左

2019-01-24 06:20:22 | Weblog

 漢字二文字の苗字で、ひっくり返しても成立するものがたくさんある、と以前気がつきました。たとえば「岡田/田岡」。で、どんな漢字がそういった「ひっくり返してもOK」の苗字を作りやすいかと言えば、たぶん「山」や「川」といったシンプルなものじゃないか、と予想を立てました。ちょっと並べてみましょうか。
 「山本/本山」「山田/田山」「山内/内山」「山木/木山」……
 「川上/上川」「川井/井川」「川村/村川」「川江/江川」……
 いくらでも出てきそうです。ただ「山川」はあるけれど「川山」って人は多いのかな?

【ただいま読書中】『紙 二千年の歴史』ニコラス・A・バスベインズ 著、 市中芳江・御船由美子・尾形正弘 訳、 原書房、2016年、3900円(税別)

 紙は「メッセージを運ぶ媒体」ですが、同時に「もの」としても様々な分野で活用されています。ちなみに紙には2万もの商業用途があるそうです。本書ではさすがにそのすべては紹介されませんが、それでも400ページ以上の分厚さになっています。ああ、ここでも紙を(たっぷり)使っていますね。
 著者はまず中国に向かいます。紙発祥の地ですから。
 世界各地で人類は様々なものに記録を残そうとしました。一番使いやすかったのは粘土です。古代エジプトではアシ科のパピルスを薄く切ったものから作った巻物を使いました。インカ帝国では縄(の結び目)を使っています。そういった国に他の国から紙が伝えられると、どんどん普及し、また別の国に伝わっていきました。
 中国の言い伝えでは、西暦105年に蔡倫という役人が、樹皮・麻・ボロ布・漁網から紙の製造法を考案した、となっています。実際にはその数世紀前から紙は中国で製造されていました。現存する最古の紙は、陝西省の古墓から発掘された紀元前140年ころの断片のようです。四川省で著者は古代からほとんど変わらない紙すきの過程を見つめます。
 中国から日本に著者は飛びます。こんどは和紙製造の見学です。明治時代の調査では日本には6万箇所以上の紙すき工房が各地に存在していました。それが今では300足らず。和紙工房は絶滅危惧種になっているようです。和紙は建材としても活用されました。たとえば窓ガラスの代わりの障子、襖、屏風…… 兵器にもなります。たとえば風船爆弾。ちなみに、アメリカで製造された手漉き和紙を初めて見て感銘を受けたことが、本書執筆のきっかけともなっているそうです。
 アッバース朝バグダードに製紙所が設立されたのは794年、シリアではダマスカスを中心に製紙が行われヨーロッパでは「ダマスカス紙」と呼ばれました。エジプトでもパピルスに代わって紙が重要な輸出品となったのは10世紀。11世紀に北アフリカのムーア人たちによってスペインに製紙技術が伝えられます(伝えられた(侵入した)のは製紙だけではありませんが)。古代中国やイスラム世界で紙が重用された目的は、宗教だけではなくて、行政および巨大建築物の設計図などではないか、と著者は推測しています。さらに、アラブ人が「紙そのもの」を媒体として重視していて(あるいは「書写」という行為そのものを尊いものだと見なしていて)そのため「印刷」を忌避していた(対してヨーロッパでは紙が伝わるとすぐに印刷技術が開発された)ことが、のちのイスラムとヨーロッパの地位逆転に大きな役割を果たしたのではないか、とも著者は推測します。
 「書写そのものが尊い」と言ってもぴんとこないかもしれませんが、日本なら「書き初めは印刷で十分」と言ったら批判的な目で見られますよね。
 なお、ヨーロッパでは各国あるいは各地方にいつ紙が伝わったかは、精密に記録が残されています。イタリアは1235年(あるいはもう少し早く)、フランス1348年、オーストリア1356年、ドイツ1391年、といった感じで。
 また、14世紀に紡ぎ車が登場してヨーロッパでリネン製品の生産量が著しく増加しましたが、それは同時に「ボロ布が大量に出現すること」ももたらしました。そして、それを原料として「紙」の生産が増加、価格は低下します。印刷によって紙の需要が高まると原料のボロ布が払底。ボロ買いがヨーロッパ中を熱心に歩き回ることになります。
 ドル紙幣用の「紙」は、綿とリネンの繊維でできていてそこに偽造防止用の合成樹脂の糸が組み込まれています。ということは「紙」ではなくて「布」?
 (紙製)薬莢、ティッシュ、新聞紙、使い捨ての生理用ナプキン、トイレットペーパー……「紙」は様々な分野で大活躍をしています。
 紙に描かれた「もの」も多々登場します。そして折り紙も。「紙を折るという造形行為」が最初に行われたのは6世紀の日本で、神に捧げる供物を包むため、という説が有力だそうです(ご存じでした?)。「折り紙」の確かな記録は17世紀頃。そしてその習慣(と名称「origami」)は海を渡り、世界各地に広まりました。そして、痛ましい「千羽鶴」の話も。さらにアメリカでは折り紙アートとか折り紙道を生きる人もいることが紹介されます。折り紙は科学と芸術の融合なのだそうです。
 オフィスのOA化が推進され始めた頃「ペーパーレス社会」が盛んに喧伝されていました。だけど実際に「紙」が私たちの目の前から消える未来がやって来るんでしょうか? 私は残せるものは残して欲しいと思うんですけどね。




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