「論語読みの論語知らず」という言葉がありますが、「他人の主張」や「ネットの情報」だけを頼りに何かを論じている人は、その「論語」を読むことさえしていないわけです。
【ただいま読書中】『デッドガールズ』リチャード・コールダー 著、 増田まもる 訳、 トレヴィル、1995年、2500円(税別)
4月27日に読書した短編集『アルーア(蠱惑)』の著者の長篇です。舞台はロンドンとタイ、短編集と重なっています。それもそのはず、著者はタイに住むイギリス人なのです。そして登場する「ドール」もまた『アルーア』でおなじみの存在です。それもそのはず、『アルーア』に収載されていた短篇「リリム」がそのまま本書では第九章に組み込まれているのです。なんという構成でしょう。
この世界では、西洋と東洋が遺伝子工学の戦争を戦っています。西洋はタイ人の男性を不能にするウイルスを「ドール」に仕込みますが(『アルーア』の「モスキート」で扱われたエピソードです)、タイはそれに対する報復として西洋人男性に限定して持続勃起を引き起こすナノテクウイルスをやはりドールに仕込みます。ところが事態は思わぬ方向へ。このウイルスに感染した西洋人男性が娘をもうけると、その子は思春期に人からドール(ポリマーとレジンと金属と繊維によって構成された肉体)へと変身してしまうようになったのです。ロンドンはこの「ドール禍」に襲われ、ヨーロッパから隔離されてしまいます。ロンドンは、ドールを対象とした「魔女狩りの世界」になってしまいます。
ロンドンで出会った少年と少女、イグナッツ・ズワクフ(スロヴァキア系の移民の子)とプリマヴェラ・ボビンスキ(ポーランド系、美少女、ドール、吸血鬼、殺し屋)は、不法な手段で隔離を突破、タイに逃れます。しかしそこにも追っ手が。
生と死、生と性、性と死が複雑に絡み合い、二人の「愛」を絡め取ります。本書の「性」は倒錯しており、「愛」もまた倒錯しているのですが。さらに、ロボットの無意識、ロボットが見る夢、ロボットの精神病なんてものらしき設定が物語に侵入してきて、話はますます倒錯というか混乱というか面白くなっていきます。ついていくのは大変ですけどね。
この「デッドガールズ」は「デッドボーイズ」「Dead Things」三部作のトップに位置しています。ただ、日本語訳は「デッドボーイズ」まで。う~ん、最後まで読みたいなあ。
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