僕の教室がある4階まで駆け足で一気にのぼったので、パンツ一枚の裸でも寒さは感じなかった。教室の前まで来ると、もう一度あたりを見回し、何か身につけるものはないかと思った。せめて体育着でもあればよいのだが、そんなものが廊下に落ちているはずはない。今、身にまとうことができるのは、このパンツ一枚だけだと観念し、深呼吸した。
教室に入れば、パンツ一枚の僕の姿にクラスメイトや担任の先生は驚き、冷やかしの言葉を浴びせるだろうが、それも一時の辛抱、机の上に置いた服を素早く着込めばよいだけの話ではないか。教室に入ってから服を着るまで10秒もかからないことだろう。
そう思って僕は覚悟し、教室の引き戸をあけた。一瞬にしてクラス全体が静かになったようだった。算数の時間で、担任の先生は黒板の前で数式を示したまま、ぽかんとした表情で僕を見つめていた。それから、「なんだお前は」と言った。
クラスはたちまち爆笑の渦となった。僕はその隙に急いで自分の机に向かって服を着ようとしたが、先生に呼び止められた。「いいからこっちに来い。その格好のままでいいからこっちに来い」と、裸で恥かしがっている僕を強引に呼びつけるのだった。
「お前、パンツいっちょうで、どこうろついていたんだ」
教壇でパンツ一枚の裸のままうなだれている僕に、先生の怒気を含んだ声が落ちてきた。僕は身体検査を受けていたこと、Y美の指示で教室で服を脱いでから保健室に行ったことを話さざるを得なくなった。クラス中の視線がパンツ一枚だけをまとった僕の体に集中しているよう気がして、何度も詰まりながら言葉を継いだ。その赤面ぶりに先生はさすがに哀れを催したのだろう、Y美に事実の確認をした。Y美はあっさり僕の言ったことを認め、のみならず自分の指示が間違いだったことを、小学五年生とは思えない大人びた口調で詫びたのだった。
先生もこれに気をよくし、僕のほうを向いて、「Y美もああやって謝っている。悪気があった訳ではないだろう。お前も災難だったけど、許してやれ」と言い、自分の席に戻ってよいと手で合図した。
これで服が着れると安堵したのも束の間、僕の机から服がきれいさっぱり消えてなくなっていた。椅子の下にあるはずの上履きも、ない。僕は机の中はもちろん、後ろのロッカーまで行って調べた。しかし、服と上履きはどこにもなかった。
他の人のロッカーまで必死になって調べている僕に向かって、「おい、どうした」と先生が声をかけた。
「服と上履きがないんです」僕は半べそをかきながら、言った。「机の上に置いといたはずなのに」
「おい、誰かこいつの服を隠してないか。かわいそうだから出してやれよ」と、先生が笑いをこらえたような調子でみんなに言った。この先生は、怒った時はどんな生徒の背筋でもぴんと張るぐらい怖かったけど、普段は友だちのような感覚で生徒に接するのだった。この時も面倒見のよいお兄さんが仲間に協力を呼びかける調子で、クラス全員の顔を見回した。教室中がざわついた。
「でも、机の上に出しっぱなしにして行っちゃうほうが悪いと思います」風紀委員の女の子が手を挙げて、先生の許可を得てから発言した。「だから」
「だから、なんだ?」先生は、恥かしそうにうつむいた風紀委員の女の子を励ますように、やさしく次の言葉を促した。
「だから、服を没収されたんだと思います。授業が始まる前に授業と関係のないものは身の回りに置いといたらいけないことになっています。その場合は没収されるんです。これはクラスの規則です」まじめなだけが取り得のような風紀委員の女の子は、それだけ言うと、真っ赤になった顔を誰にも見せまいとして机に顔を伏せてしまった。
「そうか、そりゃ確かに出しっぱなしにするのが悪いよな」その規則を定めたのが他ならぬ自分である手前、先生は意を決したように命じた。
「よし、お前はその格好のままで授業を受けろ。授業が終わったら、ちゃんと詫びて服を返してもらえ。分かったか」
僕ひとりパンツ一枚の裸のまま授業を受ける。あまりのことに反論しようとすると、先生の逆鱗に触れてしまった。手を挙げず許可を得ないまま発言しようとしたことが原因だった。この先生は、こういう細かい規則にうるさいのだった。教室は再び、誰かがつばを飲み込む音すら聞き取れるほどの静寂に包まれた。
「お前、勝手に規則を破って、これ以上、俺の授業の邪魔をするな。パンツ一枚の裸でも授業が受けられるだけ、ありがたいと思えよ、このばかたれが」
この恥かしい格好のまま、教室の外に追い出されたら、たまったものではない。僕は観念して裸のまま席についた。咳払いして、先生は何事もなかったように授業を再開した。 授業では3人ずつ前に出て、教科書の問題を解いていた。黒板に数式を書き、答えを書く。いやな予感がしたが、案の定、僕の番まで回ってしまった。
「どうした、パンツ一枚の裸くん。前に出て、この問題を解いてくれよ。君なら簡単にできるはずだけどなあ」先生の冷やかしにクラスのみんながどっと笑った。僕は立ち上がり、素足でパンツ一枚の裸のまま黒板の前で答えを書いた。すると、「式も書いてくれよ。答えはどうせ合ってるんだろうけど、式がないと分からないよ、白いパンツの裸くん」と先生が笑いながら言った。続いてクラス全体に笑いが起こった。僕は緊張で震える手を抑えながら、なんとか数式を書き終えた。先生は他の二人を席に戻し、僕だけ黒板の前に立たせると、
「今、俺、こいつのパンツつくづく見てたんだけど、真っ白できれいだよな。小便の染みとかウンチとか、何も付いてねえんだよ。みんなも下着は、いつもきれいなのを履いとけよ。こいつみたいに、いつみんなの前で下着をさらすか、分からないからな」と言った。みんなは照れたように笑い、それから僕のパンツに対して拍手を送った。
「でもな」先生が口を挟むと、拍手が途絶えた。「体が生白いね。全然お日様にあたっていないような肌じゃないか。白いのはパンツだけにしといたほうがいいよ」
よけいなお世話だ、と内心つぶやきながら僕は席に戻り、着席した。
四時間目の授業がやっと終わって、僕は自分の席から風紀委員の女の子を呼んだ。すると、横からY美が「人に物を頼むなら自分から出向かなくては駄目でしょ」と言い、風紀委員にこっちに来なくてよいと伝えた。僕は相変わらずパンツ一枚の裸のままだったけど、このまま服を返してもらえないと困るので、恥かしさをこらえて風紀委員の席まで行き、服を出してくれるように頼んだ。しかし、風紀委員は、知らないと言う。そんなはずはない。風紀委員以外の誰が没収するのか。気づいた人がその場で没収する。僕の服や上履きを没収したのは誰か分からない、という返事だった。
あせった僕はクラスの一人一人に服のありかを尋ねた。「知らない」「自分で探せば」みんなの返事はそっけなかった。服を探してうろうろしている僕は、机の移動など給食の準備で忙しいみんなにとって邪魔者だった。結局、誰が僕の服と上履きを没収したのか分からず、服も上履きも見つけることができないまま、パンツ一枚の裸の格好で給食の時間を迎えることになってしまった。
教室に入れば、パンツ一枚の僕の姿にクラスメイトや担任の先生は驚き、冷やかしの言葉を浴びせるだろうが、それも一時の辛抱、机の上に置いた服を素早く着込めばよいだけの話ではないか。教室に入ってから服を着るまで10秒もかからないことだろう。
そう思って僕は覚悟し、教室の引き戸をあけた。一瞬にしてクラス全体が静かになったようだった。算数の時間で、担任の先生は黒板の前で数式を示したまま、ぽかんとした表情で僕を見つめていた。それから、「なんだお前は」と言った。
クラスはたちまち爆笑の渦となった。僕はその隙に急いで自分の机に向かって服を着ようとしたが、先生に呼び止められた。「いいからこっちに来い。その格好のままでいいからこっちに来い」と、裸で恥かしがっている僕を強引に呼びつけるのだった。
「お前、パンツいっちょうで、どこうろついていたんだ」
教壇でパンツ一枚の裸のままうなだれている僕に、先生の怒気を含んだ声が落ちてきた。僕は身体検査を受けていたこと、Y美の指示で教室で服を脱いでから保健室に行ったことを話さざるを得なくなった。クラス中の視線がパンツ一枚だけをまとった僕の体に集中しているよう気がして、何度も詰まりながら言葉を継いだ。その赤面ぶりに先生はさすがに哀れを催したのだろう、Y美に事実の確認をした。Y美はあっさり僕の言ったことを認め、のみならず自分の指示が間違いだったことを、小学五年生とは思えない大人びた口調で詫びたのだった。
先生もこれに気をよくし、僕のほうを向いて、「Y美もああやって謝っている。悪気があった訳ではないだろう。お前も災難だったけど、許してやれ」と言い、自分の席に戻ってよいと手で合図した。
これで服が着れると安堵したのも束の間、僕の机から服がきれいさっぱり消えてなくなっていた。椅子の下にあるはずの上履きも、ない。僕は机の中はもちろん、後ろのロッカーまで行って調べた。しかし、服と上履きはどこにもなかった。
他の人のロッカーまで必死になって調べている僕に向かって、「おい、どうした」と先生が声をかけた。
「服と上履きがないんです」僕は半べそをかきながら、言った。「机の上に置いといたはずなのに」
「おい、誰かこいつの服を隠してないか。かわいそうだから出してやれよ」と、先生が笑いをこらえたような調子でみんなに言った。この先生は、怒った時はどんな生徒の背筋でもぴんと張るぐらい怖かったけど、普段は友だちのような感覚で生徒に接するのだった。この時も面倒見のよいお兄さんが仲間に協力を呼びかける調子で、クラス全員の顔を見回した。教室中がざわついた。
「でも、机の上に出しっぱなしにして行っちゃうほうが悪いと思います」風紀委員の女の子が手を挙げて、先生の許可を得てから発言した。「だから」
「だから、なんだ?」先生は、恥かしそうにうつむいた風紀委員の女の子を励ますように、やさしく次の言葉を促した。
「だから、服を没収されたんだと思います。授業が始まる前に授業と関係のないものは身の回りに置いといたらいけないことになっています。その場合は没収されるんです。これはクラスの規則です」まじめなだけが取り得のような風紀委員の女の子は、それだけ言うと、真っ赤になった顔を誰にも見せまいとして机に顔を伏せてしまった。
「そうか、そりゃ確かに出しっぱなしにするのが悪いよな」その規則を定めたのが他ならぬ自分である手前、先生は意を決したように命じた。
「よし、お前はその格好のままで授業を受けろ。授業が終わったら、ちゃんと詫びて服を返してもらえ。分かったか」
僕ひとりパンツ一枚の裸のまま授業を受ける。あまりのことに反論しようとすると、先生の逆鱗に触れてしまった。手を挙げず許可を得ないまま発言しようとしたことが原因だった。この先生は、こういう細かい規則にうるさいのだった。教室は再び、誰かがつばを飲み込む音すら聞き取れるほどの静寂に包まれた。
「お前、勝手に規則を破って、これ以上、俺の授業の邪魔をするな。パンツ一枚の裸でも授業が受けられるだけ、ありがたいと思えよ、このばかたれが」
この恥かしい格好のまま、教室の外に追い出されたら、たまったものではない。僕は観念して裸のまま席についた。咳払いして、先生は何事もなかったように授業を再開した。 授業では3人ずつ前に出て、教科書の問題を解いていた。黒板に数式を書き、答えを書く。いやな予感がしたが、案の定、僕の番まで回ってしまった。
「どうした、パンツ一枚の裸くん。前に出て、この問題を解いてくれよ。君なら簡単にできるはずだけどなあ」先生の冷やかしにクラスのみんながどっと笑った。僕は立ち上がり、素足でパンツ一枚の裸のまま黒板の前で答えを書いた。すると、「式も書いてくれよ。答えはどうせ合ってるんだろうけど、式がないと分からないよ、白いパンツの裸くん」と先生が笑いながら言った。続いてクラス全体に笑いが起こった。僕は緊張で震える手を抑えながら、なんとか数式を書き終えた。先生は他の二人を席に戻し、僕だけ黒板の前に立たせると、
「今、俺、こいつのパンツつくづく見てたんだけど、真っ白できれいだよな。小便の染みとかウンチとか、何も付いてねえんだよ。みんなも下着は、いつもきれいなのを履いとけよ。こいつみたいに、いつみんなの前で下着をさらすか、分からないからな」と言った。みんなは照れたように笑い、それから僕のパンツに対して拍手を送った。
「でもな」先生が口を挟むと、拍手が途絶えた。「体が生白いね。全然お日様にあたっていないような肌じゃないか。白いのはパンツだけにしといたほうがいいよ」
よけいなお世話だ、と内心つぶやきながら僕は席に戻り、着席した。
四時間目の授業がやっと終わって、僕は自分の席から風紀委員の女の子を呼んだ。すると、横からY美が「人に物を頼むなら自分から出向かなくては駄目でしょ」と言い、風紀委員にこっちに来なくてよいと伝えた。僕は相変わらずパンツ一枚の裸のままだったけど、このまま服を返してもらえないと困るので、恥かしさをこらえて風紀委員の席まで行き、服を出してくれるように頼んだ。しかし、風紀委員は、知らないと言う。そんなはずはない。風紀委員以外の誰が没収するのか。気づいた人がその場で没収する。僕の服や上履きを没収したのは誰か分からない、という返事だった。
あせった僕はクラスの一人一人に服のありかを尋ねた。「知らない」「自分で探せば」みんなの返事はそっけなかった。服を探してうろうろしている僕は、机の移動など給食の準備で忙しいみんなにとって邪魔者だった。結局、誰が僕の服と上履きを没収したのか分からず、服も上履きも見つけることができないまま、パンツ一枚の裸の格好で給食の時間を迎えることになってしまった。
それともY美が怖くて、いじめに加担するような真似しているのでしょうかね?
ただ、Y美がしているいじめ行為に対して担任の先生が注意せず、尚且つナオスさんには怒ったり、冷やかしたりしている時点でいじめに加担していると思ってしまいました。
仮にも指導者たるものがクラスのいじめを黙認又は助長する様な行為をするのはどうかと思いますよ?