表札に引っ掛かったパンツを取ろうと苦闘する僕は、素っ裸の身を幼児とその母親たちに晒しているばかりか、悪戯盛りの子どもにおちんちんをぐるぐる回されて、母親たちが憚りもなく笑う中、何度も手で払うのだが、すぐに別の子どもがおちんちんに手を出すので、背伸びして表札に上げた腕を頻繁に下ろしながら、泣き喚きたくなるような気持ちに苛まれ続けるのだった。
口では「やめなさいよ、ねえ」と注意する母親たちの真意が「おもしろい、もっとやって」であることは、僕以上に子どもたちがよく読み取っているようで、その悪戯はますますエスレートした。代わる代わる僕のおちんちんに指を挟んで震わせる子どもの中に女の子が一人混じっていて、その子は他の男の子のように「プロペラ」と叫んでおちんちんをぐるぐる回すことこそしなかったけれども、いきなりそっと皮を剥いて、亀頭の敏感な部分に指を押しつけたので、僕は「ああ」と一声漏らすや否や、相手が小さな子どもであることも忘れて、反射的に強く腕を振り下ろしてしまった。
手のひらに柔らかい肉と骨の痛々しい感触が走った。床に横向きに倒れた女の子は、そのまま廊下じゅうに響き渡る声で泣き始めた。「しまった」と思った時は、後の祭りだった。僕は母親たちに囲まれ、じりじりと追い詰められた。
「あんたね、自分が何をやったのか、分かってるの?」
長い髪、腕の付け根辺りまで伸びている母親が口を尖らした。廊下は行き止まりで、冷たい壁がお尻に当たった。必死に両手でおちんちんを隠しながら、委縮した体が寒さと恐怖のため震えているのを意識した。
「も、申し訳ありません」
「謝って済む問題かよ」
突然ぶたれた恐怖に引きつけを起こしたように泣き続ける女の子を抱き起して、両手で彼女の頬をさすっている別の母親が僕に侮蔑の視線を投げた。
「だいたいね、あなたが裸で歩いているのがいけないのよ。子どもにしてみれば、悪戯したくなるのは当然でしょ」
髪の長い母親がそう言うと、僕の手を叩いて、気をつけの姿勢を取るように命じた。
「叱られている時に、恥ずかしがっていたって仕方ないでしょ。反省してるのなら、その気持ちを込めて、気をつけをしなくちゃ駄目じゃないの。一体あなたはどういう躾を受けてきたのかしら」
二人の母親、女の子の母親らしい人と髪の長い母親が憎々しげに僕を睨みつける。その周りには、それぞれの母親に後ろから抱き締められている5人か6人の小さな子どもたちがつぶらな瞳を僕に向けている。一糸まとわぬ裸のまま、両手を体の側面に当てて伸ばしている僕は、顔を上げることができず、足元の床をぼんやりと見ていた。自分の足の指と母親の赤いスリッパが視界に入っている。
求められるままに、パンツ一枚の格好で廊下を歩いていた理由を説明すると、女の子の母親が、なぜいきなり女の子を叩いたのか説明しなさいと激しく詰った。「それは、おちんちんをいじられたから」と答えても、その場にいた母親は誰一人納得していないようだった。男の子たちがいじり回している時は、その手を払うだけだったから、その返答に母親たちが満足しないのも、無理からぬことかもしれない。
そこで、深呼吸してから、努めて何も感じないようにして、おちんちんの皮を剥かれたこと、亀頭の過敏な部分を触られたことを話した。おちんちんの具体的にどの部分なのか見せてほしいと女の子の母親に言われた時は、すぐに首を横に振って断ったけれども、髪の長い母親が僕にはそれを被害者の母親に見せる責任があると主張し、周囲の母親たちの同意を誘った。
ずっと気をつけの姿勢を取っているから、今更おちんちんを隠しても仕方がない。そう自分に言い聞かせて、自らおちんちんを手に取ると、母親や指をくわえた子どもたちが見ている前で、そっと皮を剥いて見せた。唾を飲み込む音が聞こえるまでに母親たちが首を近づけた。うっすらと赤みを帯びた亀頭がつるつると光を返して、無防備な姿をさらけ出していた。
「よく分かった。ここをいじられると辛いのね」
いきなり女の子の母親が剥き出しにした僕の亀頭を指でつまんだ。悲鳴を上げて腰を引いても、女の子の母親の指は、しっかりと亀頭に食い込んだままだった。床に膝をつき、後ずさりして、ようやく女の子の母親の指から離れることに成功したが、おちんちんがひりひりと痛んで、すぐには立ち上がれなかった。
母親の手に引かれ、女の子が一歩僕の前に出た。泣き腫らした目が赤い。透明な鼻水が上唇を濡らしてあどけなかったが、しっかり結んだ口元だけは意志の強さを思わせた。女の子は、ぶった相手である僕を恨みがましい目で睨みつけていて、もし僕が普通に服を着ていたら、「気の強い子だな」くらいにしか思わなかっただろう。しかし、子連れの母親たちに取り囲まれ、一人だけ丸裸で床に手をついている状態では、それが幼児とも思えぬ迫力を帯びているように見え、なすすべもなく僕はたじろいた。
どの母親だったか、「せっかく床に膝をついているんだから、土下座させたら」と提案があり、皆が「そうよそうよ」と口々に返した。もちろん僕は従うほかない。「申し訳ありませんでした」と、床に手をついて頭を深々と下げると、女の子の母親は、「私にしたって仕方ないでしょ。この子にしてよ」と、女の子を僕の前に押し出した。
幼い女の子の大きく見開いた目は、憎悪というよりも冷たい、もっと冷酷なものを秘めている。僕は、母親や小さい子どもたちに囃し立てられながら、「ぶってしまって、申し訳ありませんでした」と、情けなさに震えてしまう声を無理矢理張り上げた。女の子は突っ立ったまま、特に反応しない。背後に立つ母親が「何か言うまで続けなさい。休まない」と言って、僕のお尻をスリッパのつま先で蹴った。
何度も何度も頭を下げ許しを乞う僕を見下ろしていた女の子の口から、笑い声のようなものが漏れた。見ると、口の端が少し上がって、静かに笑っている。母親が彼女の口に耳を近づけると、何か囁いた。にやりと笑った母親が手を叩いて、僕に立つように命じた。のろのろと立ち上がった僕は、無意識のうちに手をおちんちんの前に回してしまい、すぐに叱られる覚悟をしたが、母親たちは咎めなかった。
女の子は僕を許すそうだ。ただし、表札に引っ掛かったパンツを抜き取る間は、自由におちんちんをいじらせることが条件だと言う。一刻も早くこの場から解放されたい僕は、頷いて、教室の入口の上部に突き出ている表札を見上げた。僕の脱がされたパンツがそこにぶら下がっている。
大人だったらひょいと腕を上げれば取れるくらいの高さだが、僕の場合は、背伸びしてうんと腕を伸ばして、ようやくパンツに触れることができる。その間、おちんちんもお尻も丸出しになって、いじくり回されることに耐えなければならない。僕が覚悟を決めて、表札の下まで来ると、それに合わせて、女の子をはじめとする未就学の子どもが移動した。みんな目を輝かせている。
背伸びして腕を上げ、パンツを抜き取ろうとした途端、ワッと子どもたちが群がってきた。楽しいおもちゃを取り合うようだ。おちんちんをぐるぐる回す子、おちんちんの袋を揺する子、お尻を叩く子、お尻の穴に向かって指を伸ばす子などが、苦笑する母親たちを尻目に、騒いでいる。
痛み7割、くすぐったさ3割の刺激が下半身に渦巻いている。一人の子が「おっぱい」と叫んで僕の乳首を飛び上がって叩いた。おもしろがって、何度も続ける。このような状況下、集中できない僕は、パンツを表札から抜き取ることにかなり手間取っていた。
さらに新たな刺激が加わった。ぐにょぐにょした物体がおちんちんを包み込んで、激しく動いている。頭を下げて自分の目で確かめると、あの女の子が、さっきまで泣いていたことなどすっかり忘れたような笑みを満面に浮かべて、おちんちんを扱いているのだった。母親に入れ知恵されたのか、小さな指を微細に振動させ、いつまでもやめようとしない。この刺激に比べれば、男の子たちにおちんちんの袋を揺すられたり、お尻をぺたぺた叩かれたりする痛みなどは、それほどでもなかった。
呼吸が乱れ、うんと背伸びして一杯に伸ばした腕が震える。もどかしい。パンツが表札から取れない。必死になればなるほど、あせればあせるほど、快感の波が高まり、パンツを抜き取ろうとする動きが緩慢になる。母親たちのくすくす笑う声、ひそひそと話す声が事態のただらぬ様子を窺わせた。
性的な快楽を感じまいとする僕の努力、それはお臍の下に力を込め、パンツを取ることに意識を集中させることだったけど、そんな懸命の努力も、迫りくる快感を押し留める何の効力も発揮し得なかった。次第に意識を集中させることが困難になり、頭の中がぼんやりしてきて、全裸のまま体じゅうをいじられている自分に対する惨めな気持ちだけが胸中を去らない。いや、むしろその気持ちは、性的な快感とは別の個所から発生しているにもかかわらず、まるで足並みを揃えるように、一緒に高まる。
惨めな気持ちが性的な快感よりも、一歩だけ早く頂点に達した。自棄を起こした僕は、表札のパンツがちぎれるのも構わず、力いっぱい遠くへ投げるつもりで引っ張った。腕がするりと抜け、そのまま前のめりになった僕は、小さな子どもたちの頭を越えて、白いブリーフのパンツが廊下の向こうに落ちたのを見た。
踵をひんやりした廊下の床に着けた時、もう両腕を上げる必要はないのだと気づき、すぐに子どもたちの手を払って、おちんちんを隠した。自分の指が亀頭の過敏な部分に触れたので、驚いて、しかし恐る恐る覗いてみると、そこに最大限まで大きくさせられたおちんちんが斜め45度の角度で屹立していた。
最初はくすくす笑っていた母親たちも、僕が勃起したおちんちんに初めて気づいたように狼狽しているのを目の当たりにすると、遠慮も、教室にいる人たちへの配慮もすっかり忘れて、げらげら笑い出すのだった。小さな子どもたちまで、それに釣られて大きな声で笑う。
「まったく恥ずかしいわね。小さな子どもにいじられて、おちんちんを大きくさせるなんて。変態そのものじゃないのよ」
ある母親が侮蔑の口調で僕を評すると、別の母親が、
「あんな小さな女の子にいじられても、感じちゃうのね」
と、感心したように頷いていた。
廊下の向こう、パンツの着地した方向へ、子どもたちをかき分けかき分け、腰を屈めて両手でおちんちんを隠しながら小走りに行く僕のお尻を、たくさんの小さな手がピシャリと叩いてくる。僕が勃起させられたことについて、未就学児童とはいえ性別によって反応に違いがあった。女の子は、無関心か小さく笑うかのどちらかだったけど、男の子は、顔を赤らめ、僕の感じてる恥ずかしさをわが身に引き寄せている子が少なくなかった。はしゃいでいる子も、どこか自分が感じた恥ずかしさを誤魔化そうとしているかのような印象を受けた。
「わー、おちんちんが大きくなったよ」
男の子たちの、こういう無邪気な反応が一番こたえた。男の子たちは自分たちの体にも同じ器官があることをよく自覚していて、一定以上の刺激に対して、このように反応してしまうことも、承知しているに違いない。自分も同じことをされれば、きっと僕のように勃起してしまう。そのことが男の子たちの顔を紅潮させ、彼らを羞恥の伴った興奮状態にいざなうのだろう。僕を生贄として徹底的にからかっておけば、自分がそのような被害に遭わなくても済むと、男の子の中の不安な気持ちが囁いたのかもしれない。
そんなことを考えながら、現状の恥ずかしさから意識を逸らしていた僕は、罵声と嘲笑を浴びながら、母親とその子どもたちが見ている中を素っ裸のまま走りぬけ、ようやくパンツのところまで来た。が、安心するのはまだ早かった。すっと駆け寄ってきた男の子がサッカーボールのように僕のパンツを蹴った。
「あ、やめて。返して」
咄嗟に叫んだが、2人の男の子は無視して、パンツを蹴り合いながら、入口に向かって進んでいく。すごいスピードだった。走って追いかけるものの、他の男の子たちが次々と僕にタックルしてきて、なかなか追い付けない。トップの男の子2人は、とうとう入口の受付付近までパンツを蹴り進んでしまった。
「こら、廊下を走ったら駄目でしょ」
女の人の恫喝が響いた。男の子たちが一斉にターンして戻ってゆく。白衣をまとった整体の先生がそこに立っていた。足元には、パンツが落ちている。
怒りの感情を抑えかねている先生が、受付窓口の横で僕が来るのを待っていた。先生のことを忘れていた訳ではないが、整体講習が始まる時間をかなり過ぎてしまった。先生は、一糸まとわぬ格好で廊下の端から戻ってくる僕を、呆れたような目つきで見ていた。手で必死に隠しているものの、勃起させられたおちんちんは、まだ収まっていない。僕は、恥ずかしさで全身を赤く染めながら、先生の前にたどり着いた。
「一体あなたは、何をしていたの? これから仕事だと言うのに」
怒気を含んだ第一声が僕の裸身に突き刺さった。講習開始の時間から15分も過ぎていると言う。受付で出席名簿を確認している間に僕がいなくなり、先生は館内じゅうを探し回ったとのことだった。
先生の足元に落ちたパンツを拾うと、すぐに先生に取り上げられてしまった。先生はパンツを掴んだ手を後ろに回し、僕の体を上から下まで眺め回している。僕は片手で胸の辺りを覆い、もう片方の手でむっくりと亀頭を起こしているおちんちんを押して、股の奥に隠した。先生は、なぜ僕が丸裸になのか、その理由を説明するように僕に命じた。正直に未就学の男の子たちに脱がされたことを説明して、思わず俯いてしまう僕に更に追い討ちをかけるように、先生は、僕のおちんちんを隠している手の甲を叩いた。
「で、なんでおちんちんがこんなに元気いいの?」
「そ、それは・・・」
「説明なさい」
Y美やおば様なら機転を利かしてうまい作り話ができるのだろうけど、僕には到底無理だと思った。一人だけ全裸を晒している今の状況では、ネガティブな考えから抜け出せないのも無理からぬことではあるけど、とにかく、僕は正直に申し上げるのを唯一の取り柄として認めてもらうためにも、作り話はしないことにした。
「呆れたわね。感じてしまうあなたもあなたよ。とにかく、おちんちんをそんな大きくさせたまま、整体のモデルはできない。はやく元通りのサイズにしなさい。悪いけど、元の小ささに戻すまで、パンツは返さないからね」
階段をのぼり始めた先生が踊り場でくるりと振り向いて、僕を手招きする。入口横の受付窓口の少し窪んだところに隠れていても、おちんちんは一向に小さくなる気配はない。パンツを取り上げたまま、そそくさと階段をのぼる先生が恨めしかったけど、ここに留まるのは得策ではない。僕は階段付近に人がいないのを確認してから、急いで動いた。
少しでも早く元の大きさに戻るように、いろいろと抽象的な思考を巡らせてみた。しかしながら、おちんちんはまるで僕の意思とは関係なく、ピンと糸を張ったように上を向いたままだった。踊り場で先生に追いつくと、先生がぷっと吹き出した。
「幼稚園の女の子にいじられたのが、よっぽど気持よかったのね。でも、あなた、いい加減に戻さないと、素っ裸の勃起したままの格好で教室に入れるからね。早く勃起をやめなさいよ。勃起したまま整体のモデルをやると、おちんちんにとって危険なのよ。安全の意味からも、あなたがきちんと勃起をやめない限りは、パンツを返せません」
「分かりました。ごめんなさい」
それだけ答えると、僕は急いで先生の後ろに隠れた。掃除のおばさんがモップとバケツを提げて、階段を下りてきたのだった。おばさんは、ちらとこちらを見て、軽く笑った。勃起したおちんちんには気づかれずに済んだようだ。と、すぐに書類の束を抱えた女の人が足早に階段をのぼってきた。今度は隠れることができず、ずっと後ろを向いたままやり過ごした。女の人は、ちょっと足を止めただけだった。
一階の廊下ほど人がたくさんいる訳ではないものの、それでも人の出入りが絶えることはない。愚図愚図していると、それだけ晒し者でいる時間が長くなるだけだった。しかし、おちんちんは、あせる僕の気持ちを嘲笑うかのように、下腹部に密着しそうな勢いで硬さを固持していた。
「変に隠そうとするから逆効果なんじゃないの。いっそのこと、両手を頭の後ろで組んで、堂々としなさいよ。男の子でしょ。おちんちん付いてるじゃないの」
しびれを切らした先生が白い上履きの先で床をコツコツと鳴らした。講習の開始時間を大分過ぎているから、その気持ちも分からなくはないけど、その提案は受け入れかねた。が、先生は力ずくで僕の腕を頭の後ろに回し、これは提案ではなく命令なのだと僕に思い知らせた。
勃起したおちんちんをわざわざ見せびらかすように階段をのぼる。先生の理屈では、隠すからおちんちんは勃起状態を維持するので、逆に見せびらかすことで平常心を取り戻し、おちんちんは元の大きさになるという。これは僕の感覚からは、全くかけ離れていた。先生の指示に従う僕の立場から、これに反対できないのが悔しい。
ただひたすら、誰ともすれ違わないように祈りつつ、素足が階段を踏みしめて行く。先生は僕を先に立たせて、自分は後ろから、僕のお尻を小突きながらのぼった。
廊下をパタパタと駆けてくる足音がして、階段を軽快におりてきた。思わず顔を伏せた視界の端に、黄色スカートと、その下から生えている白い足が見えた。その足が立ち止まり、短く鋭い声を上げた。僕は、頭の後ろで組んだ両手を震わせ、勃起がやまないおちんちんを隠したい衝動を抑えながら、階段の歩を進めた。足も腕と同様、やはりわなわな震えてしまう。後ろから先生が明るい声で、事情を説明した。
「びっくりしちゃった。男の子のおちんちんて、やっかいですね。先生も大変だけど、がんばってくださいね」
黄色いスカートの主は、軽く笑って先生に会釈すると、すとんすとんと足音を響かせて一階へ急いだ。
2階を過ぎ、踊り場にさしかかった時、3階から老人たちがぞろぞろとおりてきた。みなみ川教信者の人たちだった。彼らに交じって、彼らの娘ほどにも年の差があるホームヘルパーのIさんがいた。ごま塩頭の老人と肩を並べている。
発作的に頭の後ろで組んだ手を放すと、背後で先生に一喝された。「ここが我慢のしどころよ」と、叱咤する。僕は下唇をきゅっと噛み、彼らと顔を合わせないように俯いて、両手を頭の後ろで結んだまま、階段をのぼった。
老人たちは、みなみ川教の勉強会を終えたばかりと見えて、みな神妙な顔つきだった。それぞれの手に分厚い本を持っていた。そして、僕が全裸で、しかもおちんちんを虚空に向けて硬くしていることにも、軽蔑するような眼差しを投げかけるだけで、それ以上のちょっかいは出さなかった。早く通り過ぎて、と心の中で念じていると、ごま塩頭の老人が僕の前に立ちはだかり、話し掛けてきた。
「おとといの夜は、貴重な精液を採取させてくれて、感謝してる。Iさんの話では、チャコ君のおちんちんは大変なご利益があるそうだ。これからも、採らせてくれ。信者全員に分け与えたい」
屈辱に顔から火が出そうになるのを感じながら、ごま塩頭の老人を無視して過ぎる。と、後ろから、ヘルパーのIさんに呼び止められた。
「会うと、いつもあなたは裸ね。私はあなたが服を着たところを見たことがないの。では、あなたは私の裸を見たことありますか? 下着姿は? ないでしょ、ありません。これが何を意味してるか分かりますか。この事実は、大事なことを意味しているから、教えます。あなたの精液には価値があり、私たちによって採取されることを、あなたの体内から作り出される精液自らが求めているということです」
訳が分からない。適当に聞き流して通り過ぎたいところだけど、Iさんは真剣で、僕にもそれなりの対応を求めていた。この求めを無視すると、何をしでかすか分からない怖さがIさんの目には宿っていた。しかし、どんな言葉も思いつかないので、黙って頷くしかなかった。すると、Iさんは、にたっと笑って、
「おちんちんを大きくしているのは、私たちに精液を提供したいという、あなたのおちんちんの潜在的な欲望の現れと思わないかな?」
と、言った。おぞ気をふるって、急いで首を横に振る。ここで射精させられるかもしれないと思うと、目眩を感じた。
「精液を出したい気持ちはよく分かる。でもね、わざわざ勃起したおちんちんを見せびらかして、公共の場を裸で歩くというのは、悪い心持のなせる業です。悪い心持の体からは、いくらあなたの体が価値のある精液を作るとしても、悪い精液しか出せない。小さいくせに勃起して虚勢を張るようなおちんちんには、罰が必要です」
冷静に話すとおのずから冷酷な調子を帯びる。これがIさんの性格なのかと思う。隣りでごま塩頭の老人が信玄袋から15cmまでしか目盛のない定規を取り出し、Iさんに渡した。Iさんは、プラスチックの定規を振って、ぶんぶんとしならせる。と、いきなりおちんちんに向かって、それを振り下ろした。
悲鳴を上げた僕は、さすがに頭の後ろで組んだ手を振りほどいて、おちんちんに回した。が、すぐにごま塩頭の老人に背後から手首を掴まれ、万歳させられる。Iさんは、立て続けに何回もおちんちんを叩くのだった。
両手の自由を奪われた僕は、腰を左右にひねって、この理不尽な攻撃を交わそうとしたが、Iさんは一度も空振りすることなく、上下左右の様々な角度から、勃起させられたおちんちんを打ち据える。その度に激痛ではないが、ちくっとした鋭い痛みが走る。やめるように哀訴する僕の傍らを、女の人が擦りぬけて、階段をのぼって行った。
「安心なさい。今日は精液の採取は、しません。こんなに悪い心持のおちんちんからは、採れない」
最後に大きく一振りしておちんちんの根元の辺りを打つと、Iさんは定規をごま塩頭の老人に渡して、先生に会釈した。
ひりひりと痛むおちんちんを押さえて蹲りながら、僕は、みなみ川教信者の老人たちとIさんが公民館をぞろぞろと出ていく後ろ姿を見るともなく見ていた。と、先生が腕を取って、僕を立たせた。
「大丈夫なの? ちょっと見せてごらんなさい」
そう言って先生が僕の手をどかし、おちんちんをチェックする。おちんちんは、叩かれたショックで元の大きさに戻っていた。だらりと皮をかむって垂れているおちんちんを手にとって、先生が大きく溜め息をついた。
「よかった。これで講習ができるわ。よかったよかった」
独り言のように呟いて、一気に3階の教室まで走り出す。僕も慌てて追いかけた。勃起が収まったらパンツを返してくれる約束だったのに、いつパンツを穿くことができるのだろうと訝しみながら、3階の廊下を歩く。廊下には誰もいなくて、左右の教室から合唱や英会話などが聞こえた。
一番端の教室の入口前で先生が立ち止まり、振り返った。手には僕の白いブリーフパンツを持っている。両手でおちんちんを隠し、全裸のまま、とぼとぼと近づいてくる僕に向かって、先生がパンツを高く掲げて、にっこりと笑った。
小走りで先生の前まで行くと、先生が手を高く上げたまま、パンツから指を放した。静かにパンツが床に落ちた。
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口では「やめなさいよ、ねえ」と注意する母親たちの真意が「おもしろい、もっとやって」であることは、僕以上に子どもたちがよく読み取っているようで、その悪戯はますますエスレートした。代わる代わる僕のおちんちんに指を挟んで震わせる子どもの中に女の子が一人混じっていて、その子は他の男の子のように「プロペラ」と叫んでおちんちんをぐるぐる回すことこそしなかったけれども、いきなりそっと皮を剥いて、亀頭の敏感な部分に指を押しつけたので、僕は「ああ」と一声漏らすや否や、相手が小さな子どもであることも忘れて、反射的に強く腕を振り下ろしてしまった。
手のひらに柔らかい肉と骨の痛々しい感触が走った。床に横向きに倒れた女の子は、そのまま廊下じゅうに響き渡る声で泣き始めた。「しまった」と思った時は、後の祭りだった。僕は母親たちに囲まれ、じりじりと追い詰められた。
「あんたね、自分が何をやったのか、分かってるの?」
長い髪、腕の付け根辺りまで伸びている母親が口を尖らした。廊下は行き止まりで、冷たい壁がお尻に当たった。必死に両手でおちんちんを隠しながら、委縮した体が寒さと恐怖のため震えているのを意識した。
「も、申し訳ありません」
「謝って済む問題かよ」
突然ぶたれた恐怖に引きつけを起こしたように泣き続ける女の子を抱き起して、両手で彼女の頬をさすっている別の母親が僕に侮蔑の視線を投げた。
「だいたいね、あなたが裸で歩いているのがいけないのよ。子どもにしてみれば、悪戯したくなるのは当然でしょ」
髪の長い母親がそう言うと、僕の手を叩いて、気をつけの姿勢を取るように命じた。
「叱られている時に、恥ずかしがっていたって仕方ないでしょ。反省してるのなら、その気持ちを込めて、気をつけをしなくちゃ駄目じゃないの。一体あなたはどういう躾を受けてきたのかしら」
二人の母親、女の子の母親らしい人と髪の長い母親が憎々しげに僕を睨みつける。その周りには、それぞれの母親に後ろから抱き締められている5人か6人の小さな子どもたちがつぶらな瞳を僕に向けている。一糸まとわぬ裸のまま、両手を体の側面に当てて伸ばしている僕は、顔を上げることができず、足元の床をぼんやりと見ていた。自分の足の指と母親の赤いスリッパが視界に入っている。
求められるままに、パンツ一枚の格好で廊下を歩いていた理由を説明すると、女の子の母親が、なぜいきなり女の子を叩いたのか説明しなさいと激しく詰った。「それは、おちんちんをいじられたから」と答えても、その場にいた母親は誰一人納得していないようだった。男の子たちがいじり回している時は、その手を払うだけだったから、その返答に母親たちが満足しないのも、無理からぬことかもしれない。
そこで、深呼吸してから、努めて何も感じないようにして、おちんちんの皮を剥かれたこと、亀頭の過敏な部分を触られたことを話した。おちんちんの具体的にどの部分なのか見せてほしいと女の子の母親に言われた時は、すぐに首を横に振って断ったけれども、髪の長い母親が僕にはそれを被害者の母親に見せる責任があると主張し、周囲の母親たちの同意を誘った。
ずっと気をつけの姿勢を取っているから、今更おちんちんを隠しても仕方がない。そう自分に言い聞かせて、自らおちんちんを手に取ると、母親や指をくわえた子どもたちが見ている前で、そっと皮を剥いて見せた。唾を飲み込む音が聞こえるまでに母親たちが首を近づけた。うっすらと赤みを帯びた亀頭がつるつると光を返して、無防備な姿をさらけ出していた。
「よく分かった。ここをいじられると辛いのね」
いきなり女の子の母親が剥き出しにした僕の亀頭を指でつまんだ。悲鳴を上げて腰を引いても、女の子の母親の指は、しっかりと亀頭に食い込んだままだった。床に膝をつき、後ずさりして、ようやく女の子の母親の指から離れることに成功したが、おちんちんがひりひりと痛んで、すぐには立ち上がれなかった。
母親の手に引かれ、女の子が一歩僕の前に出た。泣き腫らした目が赤い。透明な鼻水が上唇を濡らしてあどけなかったが、しっかり結んだ口元だけは意志の強さを思わせた。女の子は、ぶった相手である僕を恨みがましい目で睨みつけていて、もし僕が普通に服を着ていたら、「気の強い子だな」くらいにしか思わなかっただろう。しかし、子連れの母親たちに取り囲まれ、一人だけ丸裸で床に手をついている状態では、それが幼児とも思えぬ迫力を帯びているように見え、なすすべもなく僕はたじろいた。
どの母親だったか、「せっかく床に膝をついているんだから、土下座させたら」と提案があり、皆が「そうよそうよ」と口々に返した。もちろん僕は従うほかない。「申し訳ありませんでした」と、床に手をついて頭を深々と下げると、女の子の母親は、「私にしたって仕方ないでしょ。この子にしてよ」と、女の子を僕の前に押し出した。
幼い女の子の大きく見開いた目は、憎悪というよりも冷たい、もっと冷酷なものを秘めている。僕は、母親や小さい子どもたちに囃し立てられながら、「ぶってしまって、申し訳ありませんでした」と、情けなさに震えてしまう声を無理矢理張り上げた。女の子は突っ立ったまま、特に反応しない。背後に立つ母親が「何か言うまで続けなさい。休まない」と言って、僕のお尻をスリッパのつま先で蹴った。
何度も何度も頭を下げ許しを乞う僕を見下ろしていた女の子の口から、笑い声のようなものが漏れた。見ると、口の端が少し上がって、静かに笑っている。母親が彼女の口に耳を近づけると、何か囁いた。にやりと笑った母親が手を叩いて、僕に立つように命じた。のろのろと立ち上がった僕は、無意識のうちに手をおちんちんの前に回してしまい、すぐに叱られる覚悟をしたが、母親たちは咎めなかった。
女の子は僕を許すそうだ。ただし、表札に引っ掛かったパンツを抜き取る間は、自由におちんちんをいじらせることが条件だと言う。一刻も早くこの場から解放されたい僕は、頷いて、教室の入口の上部に突き出ている表札を見上げた。僕の脱がされたパンツがそこにぶら下がっている。
大人だったらひょいと腕を上げれば取れるくらいの高さだが、僕の場合は、背伸びしてうんと腕を伸ばして、ようやくパンツに触れることができる。その間、おちんちんもお尻も丸出しになって、いじくり回されることに耐えなければならない。僕が覚悟を決めて、表札の下まで来ると、それに合わせて、女の子をはじめとする未就学の子どもが移動した。みんな目を輝かせている。
背伸びして腕を上げ、パンツを抜き取ろうとした途端、ワッと子どもたちが群がってきた。楽しいおもちゃを取り合うようだ。おちんちんをぐるぐる回す子、おちんちんの袋を揺する子、お尻を叩く子、お尻の穴に向かって指を伸ばす子などが、苦笑する母親たちを尻目に、騒いでいる。
痛み7割、くすぐったさ3割の刺激が下半身に渦巻いている。一人の子が「おっぱい」と叫んで僕の乳首を飛び上がって叩いた。おもしろがって、何度も続ける。このような状況下、集中できない僕は、パンツを表札から抜き取ることにかなり手間取っていた。
さらに新たな刺激が加わった。ぐにょぐにょした物体がおちんちんを包み込んで、激しく動いている。頭を下げて自分の目で確かめると、あの女の子が、さっきまで泣いていたことなどすっかり忘れたような笑みを満面に浮かべて、おちんちんを扱いているのだった。母親に入れ知恵されたのか、小さな指を微細に振動させ、いつまでもやめようとしない。この刺激に比べれば、男の子たちにおちんちんの袋を揺すられたり、お尻をぺたぺた叩かれたりする痛みなどは、それほどでもなかった。
呼吸が乱れ、うんと背伸びして一杯に伸ばした腕が震える。もどかしい。パンツが表札から取れない。必死になればなるほど、あせればあせるほど、快感の波が高まり、パンツを抜き取ろうとする動きが緩慢になる。母親たちのくすくす笑う声、ひそひそと話す声が事態のただらぬ様子を窺わせた。
性的な快楽を感じまいとする僕の努力、それはお臍の下に力を込め、パンツを取ることに意識を集中させることだったけど、そんな懸命の努力も、迫りくる快感を押し留める何の効力も発揮し得なかった。次第に意識を集中させることが困難になり、頭の中がぼんやりしてきて、全裸のまま体じゅうをいじられている自分に対する惨めな気持ちだけが胸中を去らない。いや、むしろその気持ちは、性的な快感とは別の個所から発生しているにもかかわらず、まるで足並みを揃えるように、一緒に高まる。
惨めな気持ちが性的な快感よりも、一歩だけ早く頂点に達した。自棄を起こした僕は、表札のパンツがちぎれるのも構わず、力いっぱい遠くへ投げるつもりで引っ張った。腕がするりと抜け、そのまま前のめりになった僕は、小さな子どもたちの頭を越えて、白いブリーフのパンツが廊下の向こうに落ちたのを見た。
踵をひんやりした廊下の床に着けた時、もう両腕を上げる必要はないのだと気づき、すぐに子どもたちの手を払って、おちんちんを隠した。自分の指が亀頭の過敏な部分に触れたので、驚いて、しかし恐る恐る覗いてみると、そこに最大限まで大きくさせられたおちんちんが斜め45度の角度で屹立していた。
最初はくすくす笑っていた母親たちも、僕が勃起したおちんちんに初めて気づいたように狼狽しているのを目の当たりにすると、遠慮も、教室にいる人たちへの配慮もすっかり忘れて、げらげら笑い出すのだった。小さな子どもたちまで、それに釣られて大きな声で笑う。
「まったく恥ずかしいわね。小さな子どもにいじられて、おちんちんを大きくさせるなんて。変態そのものじゃないのよ」
ある母親が侮蔑の口調で僕を評すると、別の母親が、
「あんな小さな女の子にいじられても、感じちゃうのね」
と、感心したように頷いていた。
廊下の向こう、パンツの着地した方向へ、子どもたちをかき分けかき分け、腰を屈めて両手でおちんちんを隠しながら小走りに行く僕のお尻を、たくさんの小さな手がピシャリと叩いてくる。僕が勃起させられたことについて、未就学児童とはいえ性別によって反応に違いがあった。女の子は、無関心か小さく笑うかのどちらかだったけど、男の子は、顔を赤らめ、僕の感じてる恥ずかしさをわが身に引き寄せている子が少なくなかった。はしゃいでいる子も、どこか自分が感じた恥ずかしさを誤魔化そうとしているかのような印象を受けた。
「わー、おちんちんが大きくなったよ」
男の子たちの、こういう無邪気な反応が一番こたえた。男の子たちは自分たちの体にも同じ器官があることをよく自覚していて、一定以上の刺激に対して、このように反応してしまうことも、承知しているに違いない。自分も同じことをされれば、きっと僕のように勃起してしまう。そのことが男の子たちの顔を紅潮させ、彼らを羞恥の伴った興奮状態にいざなうのだろう。僕を生贄として徹底的にからかっておけば、自分がそのような被害に遭わなくても済むと、男の子の中の不安な気持ちが囁いたのかもしれない。
そんなことを考えながら、現状の恥ずかしさから意識を逸らしていた僕は、罵声と嘲笑を浴びながら、母親とその子どもたちが見ている中を素っ裸のまま走りぬけ、ようやくパンツのところまで来た。が、安心するのはまだ早かった。すっと駆け寄ってきた男の子がサッカーボールのように僕のパンツを蹴った。
「あ、やめて。返して」
咄嗟に叫んだが、2人の男の子は無視して、パンツを蹴り合いながら、入口に向かって進んでいく。すごいスピードだった。走って追いかけるものの、他の男の子たちが次々と僕にタックルしてきて、なかなか追い付けない。トップの男の子2人は、とうとう入口の受付付近までパンツを蹴り進んでしまった。
「こら、廊下を走ったら駄目でしょ」
女の人の恫喝が響いた。男の子たちが一斉にターンして戻ってゆく。白衣をまとった整体の先生がそこに立っていた。足元には、パンツが落ちている。
怒りの感情を抑えかねている先生が、受付窓口の横で僕が来るのを待っていた。先生のことを忘れていた訳ではないが、整体講習が始まる時間をかなり過ぎてしまった。先生は、一糸まとわぬ格好で廊下の端から戻ってくる僕を、呆れたような目つきで見ていた。手で必死に隠しているものの、勃起させられたおちんちんは、まだ収まっていない。僕は、恥ずかしさで全身を赤く染めながら、先生の前にたどり着いた。
「一体あなたは、何をしていたの? これから仕事だと言うのに」
怒気を含んだ第一声が僕の裸身に突き刺さった。講習開始の時間から15分も過ぎていると言う。受付で出席名簿を確認している間に僕がいなくなり、先生は館内じゅうを探し回ったとのことだった。
先生の足元に落ちたパンツを拾うと、すぐに先生に取り上げられてしまった。先生はパンツを掴んだ手を後ろに回し、僕の体を上から下まで眺め回している。僕は片手で胸の辺りを覆い、もう片方の手でむっくりと亀頭を起こしているおちんちんを押して、股の奥に隠した。先生は、なぜ僕が丸裸になのか、その理由を説明するように僕に命じた。正直に未就学の男の子たちに脱がされたことを説明して、思わず俯いてしまう僕に更に追い討ちをかけるように、先生は、僕のおちんちんを隠している手の甲を叩いた。
「で、なんでおちんちんがこんなに元気いいの?」
「そ、それは・・・」
「説明なさい」
Y美やおば様なら機転を利かしてうまい作り話ができるのだろうけど、僕には到底無理だと思った。一人だけ全裸を晒している今の状況では、ネガティブな考えから抜け出せないのも無理からぬことではあるけど、とにかく、僕は正直に申し上げるのを唯一の取り柄として認めてもらうためにも、作り話はしないことにした。
「呆れたわね。感じてしまうあなたもあなたよ。とにかく、おちんちんをそんな大きくさせたまま、整体のモデルはできない。はやく元通りのサイズにしなさい。悪いけど、元の小ささに戻すまで、パンツは返さないからね」
階段をのぼり始めた先生が踊り場でくるりと振り向いて、僕を手招きする。入口横の受付窓口の少し窪んだところに隠れていても、おちんちんは一向に小さくなる気配はない。パンツを取り上げたまま、そそくさと階段をのぼる先生が恨めしかったけど、ここに留まるのは得策ではない。僕は階段付近に人がいないのを確認してから、急いで動いた。
少しでも早く元の大きさに戻るように、いろいろと抽象的な思考を巡らせてみた。しかしながら、おちんちんはまるで僕の意思とは関係なく、ピンと糸を張ったように上を向いたままだった。踊り場で先生に追いつくと、先生がぷっと吹き出した。
「幼稚園の女の子にいじられたのが、よっぽど気持よかったのね。でも、あなた、いい加減に戻さないと、素っ裸の勃起したままの格好で教室に入れるからね。早く勃起をやめなさいよ。勃起したまま整体のモデルをやると、おちんちんにとって危険なのよ。安全の意味からも、あなたがきちんと勃起をやめない限りは、パンツを返せません」
「分かりました。ごめんなさい」
それだけ答えると、僕は急いで先生の後ろに隠れた。掃除のおばさんがモップとバケツを提げて、階段を下りてきたのだった。おばさんは、ちらとこちらを見て、軽く笑った。勃起したおちんちんには気づかれずに済んだようだ。と、すぐに書類の束を抱えた女の人が足早に階段をのぼってきた。今度は隠れることができず、ずっと後ろを向いたままやり過ごした。女の人は、ちょっと足を止めただけだった。
一階の廊下ほど人がたくさんいる訳ではないものの、それでも人の出入りが絶えることはない。愚図愚図していると、それだけ晒し者でいる時間が長くなるだけだった。しかし、おちんちんは、あせる僕の気持ちを嘲笑うかのように、下腹部に密着しそうな勢いで硬さを固持していた。
「変に隠そうとするから逆効果なんじゃないの。いっそのこと、両手を頭の後ろで組んで、堂々としなさいよ。男の子でしょ。おちんちん付いてるじゃないの」
しびれを切らした先生が白い上履きの先で床をコツコツと鳴らした。講習の開始時間を大分過ぎているから、その気持ちも分からなくはないけど、その提案は受け入れかねた。が、先生は力ずくで僕の腕を頭の後ろに回し、これは提案ではなく命令なのだと僕に思い知らせた。
勃起したおちんちんをわざわざ見せびらかすように階段をのぼる。先生の理屈では、隠すからおちんちんは勃起状態を維持するので、逆に見せびらかすことで平常心を取り戻し、おちんちんは元の大きさになるという。これは僕の感覚からは、全くかけ離れていた。先生の指示に従う僕の立場から、これに反対できないのが悔しい。
ただひたすら、誰ともすれ違わないように祈りつつ、素足が階段を踏みしめて行く。先生は僕を先に立たせて、自分は後ろから、僕のお尻を小突きながらのぼった。
廊下をパタパタと駆けてくる足音がして、階段を軽快におりてきた。思わず顔を伏せた視界の端に、黄色スカートと、その下から生えている白い足が見えた。その足が立ち止まり、短く鋭い声を上げた。僕は、頭の後ろで組んだ両手を震わせ、勃起がやまないおちんちんを隠したい衝動を抑えながら、階段の歩を進めた。足も腕と同様、やはりわなわな震えてしまう。後ろから先生が明るい声で、事情を説明した。
「びっくりしちゃった。男の子のおちんちんて、やっかいですね。先生も大変だけど、がんばってくださいね」
黄色いスカートの主は、軽く笑って先生に会釈すると、すとんすとんと足音を響かせて一階へ急いだ。
2階を過ぎ、踊り場にさしかかった時、3階から老人たちがぞろぞろとおりてきた。みなみ川教信者の人たちだった。彼らに交じって、彼らの娘ほどにも年の差があるホームヘルパーのIさんがいた。ごま塩頭の老人と肩を並べている。
発作的に頭の後ろで組んだ手を放すと、背後で先生に一喝された。「ここが我慢のしどころよ」と、叱咤する。僕は下唇をきゅっと噛み、彼らと顔を合わせないように俯いて、両手を頭の後ろで結んだまま、階段をのぼった。
老人たちは、みなみ川教の勉強会を終えたばかりと見えて、みな神妙な顔つきだった。それぞれの手に分厚い本を持っていた。そして、僕が全裸で、しかもおちんちんを虚空に向けて硬くしていることにも、軽蔑するような眼差しを投げかけるだけで、それ以上のちょっかいは出さなかった。早く通り過ぎて、と心の中で念じていると、ごま塩頭の老人が僕の前に立ちはだかり、話し掛けてきた。
「おとといの夜は、貴重な精液を採取させてくれて、感謝してる。Iさんの話では、チャコ君のおちんちんは大変なご利益があるそうだ。これからも、採らせてくれ。信者全員に分け与えたい」
屈辱に顔から火が出そうになるのを感じながら、ごま塩頭の老人を無視して過ぎる。と、後ろから、ヘルパーのIさんに呼び止められた。
「会うと、いつもあなたは裸ね。私はあなたが服を着たところを見たことがないの。では、あなたは私の裸を見たことありますか? 下着姿は? ないでしょ、ありません。これが何を意味してるか分かりますか。この事実は、大事なことを意味しているから、教えます。あなたの精液には価値があり、私たちによって採取されることを、あなたの体内から作り出される精液自らが求めているということです」
訳が分からない。適当に聞き流して通り過ぎたいところだけど、Iさんは真剣で、僕にもそれなりの対応を求めていた。この求めを無視すると、何をしでかすか分からない怖さがIさんの目には宿っていた。しかし、どんな言葉も思いつかないので、黙って頷くしかなかった。すると、Iさんは、にたっと笑って、
「おちんちんを大きくしているのは、私たちに精液を提供したいという、あなたのおちんちんの潜在的な欲望の現れと思わないかな?」
と、言った。おぞ気をふるって、急いで首を横に振る。ここで射精させられるかもしれないと思うと、目眩を感じた。
「精液を出したい気持ちはよく分かる。でもね、わざわざ勃起したおちんちんを見せびらかして、公共の場を裸で歩くというのは、悪い心持のなせる業です。悪い心持の体からは、いくらあなたの体が価値のある精液を作るとしても、悪い精液しか出せない。小さいくせに勃起して虚勢を張るようなおちんちんには、罰が必要です」
冷静に話すとおのずから冷酷な調子を帯びる。これがIさんの性格なのかと思う。隣りでごま塩頭の老人が信玄袋から15cmまでしか目盛のない定規を取り出し、Iさんに渡した。Iさんは、プラスチックの定規を振って、ぶんぶんとしならせる。と、いきなりおちんちんに向かって、それを振り下ろした。
悲鳴を上げた僕は、さすがに頭の後ろで組んだ手を振りほどいて、おちんちんに回した。が、すぐにごま塩頭の老人に背後から手首を掴まれ、万歳させられる。Iさんは、立て続けに何回もおちんちんを叩くのだった。
両手の自由を奪われた僕は、腰を左右にひねって、この理不尽な攻撃を交わそうとしたが、Iさんは一度も空振りすることなく、上下左右の様々な角度から、勃起させられたおちんちんを打ち据える。その度に激痛ではないが、ちくっとした鋭い痛みが走る。やめるように哀訴する僕の傍らを、女の人が擦りぬけて、階段をのぼって行った。
「安心なさい。今日は精液の採取は、しません。こんなに悪い心持のおちんちんからは、採れない」
最後に大きく一振りしておちんちんの根元の辺りを打つと、Iさんは定規をごま塩頭の老人に渡して、先生に会釈した。
ひりひりと痛むおちんちんを押さえて蹲りながら、僕は、みなみ川教信者の老人たちとIさんが公民館をぞろぞろと出ていく後ろ姿を見るともなく見ていた。と、先生が腕を取って、僕を立たせた。
「大丈夫なの? ちょっと見せてごらんなさい」
そう言って先生が僕の手をどかし、おちんちんをチェックする。おちんちんは、叩かれたショックで元の大きさに戻っていた。だらりと皮をかむって垂れているおちんちんを手にとって、先生が大きく溜め息をついた。
「よかった。これで講習ができるわ。よかったよかった」
独り言のように呟いて、一気に3階の教室まで走り出す。僕も慌てて追いかけた。勃起が収まったらパンツを返してくれる約束だったのに、いつパンツを穿くことができるのだろうと訝しみながら、3階の廊下を歩く。廊下には誰もいなくて、左右の教室から合唱や英会話などが聞こえた。
一番端の教室の入口前で先生が立ち止まり、振り返った。手には僕の白いブリーフパンツを持っている。両手でおちんちんを隠し、全裸のまま、とぼとぼと近づいてくる僕に向かって、先生がパンツを高く掲げて、にっこりと笑った。
小走りで先生の前まで行くと、先生が手を高く上げたまま、パンツから指を放した。静かにパンツが床に落ちた。
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トップ画を変えてしまいまして、申し訳ありません。前の写真はPC買い替えた時に紛失してしまいました。
あまり不人気のようでしたら、変えます。夏になったら野外へ撮影に行く予定です。
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