川沿いの遊歩道でY美に衣類、パンツから靴下、靴まで全てを没収されてから、ずっと素っ裸でいるより他に仕方がないのだけど、交通量の多い幹線道路の横断歩道を何度も往復させられ、最後にはおちんちんを隠さずに普通に歩くように命じられてからは、僕の頭は、もういつものようには働かなくなっていた。
ようやく許しが出て、もう裸で横断歩道を渡らなくても良くなった時、Y美が、
「それにしてもお前、そんな恥ずかしい格好でよくも車があんなに停まってる横断歩道を堂々と歩けたねえ。そりゃ確かに手で隠すな、服を着ているように普通に歩けって命じたけど、まさか、ここまで完璧にやってくれるとは思わなかった。頭、大丈夫?」
と、僕の額に手を当てて馬鹿にしたように笑ったので、羞恥心の火が一気に全身に広がってしまった。両手を交差させておちんちんや胸を隠し、何か着る物を探してあちこち見回している僕をルコがおかしそうに見つめ、「何してんの。探したってあんたの着る物なんかないよ」と言い、笑いながらY美の方を向くと、Y美は会社勤め風の女の人と話をしていた。ルコが怪訝な顔をして僕を見るが、僕も知らない人なので「分からない」と小さく首を振って、素っ裸の身をルコの後ろに隠す。
会社勤め風の女の人は、同じくらいの高さにあるY美の目をじっと見つめ、淡々とY美に何かを話していた。Y美は珍しく相手の言うことを黙って聞いていたけど、いきなり知らない人に話しかけられた当惑がありありと感じられ、ちらちらとルコや僕のいる方へ視線を投げる。Y美が手招きするので、恥ずかしいのを我慢して、素っ裸のまま進み出る。硬いおちんちんを股間に押し込もうとしたけど無理だったので、仕方なく両手で包み込むようにして隠していると、会社勤め風の女の人が僕に向き直った。
「このおばさんがお前に話があるって」
Y美が後ろから指さすと、女の人は一瞬怒ったような目つきをしてY美へ振り返った。不用意な「おばさん」の一語を発して睨まれてもY美はへらへらしている。逆に僕は、女の人の怒りが増幅してわが身に降りかかる気がして後ずさりしてしまった。
「逃げなくていいのよ。話を聞いてもらいたいだけだから」
僕の手首を掴んで自分の側へぐいと引き寄せる。強い力だった。腕力で僕を圧倒することもできる、と暗に告げているようでもあった。僕は大人しく頭を垂れた。
女の人は、まず自分は営業を終えて車で会社に戻る途中なのだと説明してから、僕のことを小学何年生かと訊ねた。羞恥のあまりろくに返答できない僕の代わりにルコが自分たちは中学生になったばかりだと答えると、営業の女の人は、ふんと鼻で笑ってから、膝を落として、俯く僕の顔をじっと覗き込んだ。
「きっぱり言わせてもらうけどね、私は、いきなりあなたにおちんちんを見せつけられて、相当に不快だったわ。あなたは、公共の空間にいる不特定多数の人を自分の性的欲望のために利用したってことに気づいて欲しいの」
「ごめんなさい。僕だって好きでこんなことしてるんじゃないんです」
「そうかもしれない。おちんちんを硬くしておきながら、それでも貴方がそのような行為を強要されたということも考えられるわね。でもね、それはマゾヒストの卑劣な逃げ道なのよ。マゾの人って、いつも人に責任をなすりつけるのね」
困ったという顔して女の人が垂れた前髪を掻き上げた。僕は元々マゾヒストではなかったと思うけど、激しい性的ないじめに会い、居候先のY美の家では奴隷のような立場に置かれ、家の中ではパンツ一枚しか身に付けることを許されておらず、Y美の母親であるおば様からは性的な奉仕を強いられている。そんな苦しい状況の中で少しでも心が落ち着く考え方を探っていけば、自然と、いわゆるマゾヒズムに行き着いた。いじめなどの激しい屈辱的な仕打ちに対して、自分を守る唯一の考え方はマゾヒズムであり、それを変態的な性的嗜好だとして否定することは、助けを求めて駆け込んだ家からその人を追い返す仕打ちと変わらないような気がする。
人格否定、屈辱、孤立の境遇は、確かに苦しい。その苦しみの実体が人格を認めて欲しい、屈辱を受けたくない、みんなと仲間になりたいという欲望の裏返しだとすれば、そのような欲望を捨て、苦しみの境遇を肯定するマゾヒズムの考え方こそ、苦しみからその人自身を救う考え方だと思う。マゾヒズムという変態性欲と呼ばれるものが先ずあって、そこからマゾヒストの生活があるのではない。逆。マゾヒストになることを強いるような、苦しみだらけの辛い境遇があって、それを受け入れるマゾヒズムという考え方が要請される。だから、マゾヒズム的な考えは、世間の人がしばしば言うところの変態性欲的なものとだけ考えるのは、極めて浅く、上っ面だけの判断であると思う。それは苦しい境遇が生み出す、生き方の知恵のようなもの。自分の境遇に逆らって生きようとすれば苦しみの嵩が増すのは、自然の道理ではある。マゾヒズムの考えでは、苦しみの嵩というマイナスカードが一気にプラスに転じる。
では、自分自身の尊厳については、どうだろうか。苦しみと屈辱に満ちた現在の境遇をマゾヒズム的な考えに従って肯定することは、自分自身の尊厳を放棄することになるのではないか。尊厳やプライドを完全に捨て去ることがマゾヒズムの極致だと看做す意見もある。しかし、人間は獣になることはできない。倫理の問題から、たとえ性欲に関する事柄であっも逃れることができないから。マゾヒズムによって惨めな境遇を受け入れ、肯定したとしても、自分自身の尊厳を放棄することにはならない。奴隷の境遇に甘んじ、むしろそこにマゾヒズム的な救いを見出したとしても、決して自分自身の尊厳を放棄することにはならない。
一体、人間からその人の尊厳を根こそぎ奪い、再起不能に落とすようないじめなど、この世に存在するのだろうか。同級生の前でオナニーを強いられ射精した、同級生の前で素っ裸にされ、肛門を晒したままうんちをした、おしっこを飲まされたなどの屈辱的な事件の数々を僕はマゾヒズム的な考え方で受け入れ、乗り越えてきた。プライド、自尊心はその都度破壊されたが、代わりにマゾヒズムの秘めやかな蜜をこっそり味わった。すると、自尊心は、より強く、今までとは違った形で僕の中に芽生えた。僕自身の尊厳というのは、これらの屈辱的な事件を受け入れ、乗り越えたことで醸成されたものだから、どんな屈辱的な事件も僕の尊厳を奪うことはできない。
境遇が要請するマゾヒズムの考えを受け入れ、マゾヒストになることによって、自分という個が生まれ、今までとは異なる場所に新たな尊厳が育ち始める。それは、今までの尊厳と比べていささかも見劣りがするものではない。
この営業の女の人が僕に突き付けたのは、マゾヒズムの考えによって現状を肯定し、マゾヒストになった僕自身の主体に関する問題だった。マゾヒストは本質的に無責任であり、すぐに境遇のせいにする、というのがこの女の人の批判だった。それは、もっともな批判だった。一般にマゾヒストはすぐに謝罪の言葉を口にするが、それは自分の置かれた立場に対して無責任だからだ。謝罪しても、その謝罪させられた理由を自分とか関係のないところ、境遇とか第三者に求める。
僕は、Y美に命じられたとはいえ、硬化したおちんちんを丸出しにして、素っ裸のまま横断歩道を何度も往復した。そのことで不快に思う人や人格を傷つけられた思いをした人がいたら、僕がその行為を第三者に強制され、逆らうことのできない精神的な状況に追い込まれていたとしても、僕自身がマゾヒストとしての主体を獲得してこの境遇を生き抜いている以上、謝罪しなければならない。丸出しのおちんちんをいきなり見せられたことで、いかなる合意もないまま、暴力的に性欲を満たすために自分が使われたと感じ、不快に思う。或いは自尊心を傷つけられたと感じる人もいるかもしれない。それは予め想像しなければいけないことだった。営業の女の人に対してだけではなく、僕の行為に遭遇してしまった全ての人に対し、僕は断じて謝罪しなければならない。だが、どんな風に謝罪すればよいのか。一所懸命考えたけど、全然分からなかった。
黒のスーツをまとった営業の女の人の前で、僕は、ツンと上を向くおちんちんを手で押え込もうとして亀頭の敏感な部分に触れてしまい、びくっと体が震えた。おちんちんを手で隠し、腕を交差させて胸の辺りを覆い、自分が一糸まとわぬ素っ裸でいることをあまり女の人に感じさせないようにしながら頭を垂れて黙っていると、「もっとこっちに行きましょう」と手を引かれ、資材置き場の倉庫の横に入り込んだ。横断歩道を渡り切った歩道は、幹線道路からは隠れるものの、歩行者は素っ裸のまま叱られている僕の横を通過するので、好奇の視線が矢鱈と全身の肌に突き刺さる。中にはお尻を叩いて走り去る悪童もいて、人の目に付きにくい場所への移動は有難かった。
資材置き場のコンクリートは舗装路よりも滑らかで素足に優しかったけれど、赤錆びた色の水溜りが幾つもあった。丁度僕が水溜りの中にいる時、女の人が立ち止まり、どのように謝罪をするのか訊ねるので、何も思い付かない僕は、いつもY美やおば様に叱られた時にそうするように、土下座をすることにした。水溜りの温い水の中に僕の脛や膝小僧が浸かる。「申し訳ございませんでした」と、頭を何度も下げる。
「困ったわね。何も私に謝れって言ってるんじゃないのよ」
大きく溜息をついて、営業の女の人が続けた。
「自分のしたことについて、社会的にどう責任を負うつもりなのか、聞いてるの」
そして、僕を立たせ、資材置き場の角から通りの向こうを指して、
「交番に行って、自分がしたことを全て話すのよ。社会的なけじめを付けるって、そういうことだから」
道路の向こうにぽつんと交番の四角い小さな建物が見える。夕方で人通りも少なくないので、そこまで素っ裸のまま行くと、また多くの人に恥ずかしい姿を晒すことになるけど、営業の女の人の言う通り、警察に行き、法的に裁かれるのが僕の正しい謝罪の仕方だろうと思うと、ためらう気持ちは無かった。
資材置き場の倉庫の横から歩道に出て、道路を渡ろうとして左右を見ていると、いきなり強い力で手を引っ張られ、再び倉庫の横に引きずり込まれた。
「待ちなさい。勝手な真似は許さないからね」
Y美が怒りの形相で僕を睨みつけ、どんと僕の胸を押した。僕は後ろへよろめき、水溜りの上に尻餅をついてしまった。水しぶきがどっと散って、営業の女の人が急いでハイヒールの足を動かしたが、間に合わず踝が濡れた。見上げると、Y美が営業の女の人の胸倉を掴んでいた。
「おばさんさ、少し調子に乗りすぎだよ」
白いブラウスからボタンが幾つか飛んだ。ルコが営業の女の人を羽交い絞めにする。Y美は女の人のブラウスを肩まで広げてから下ろした。女の人の短い悲鳴がして、純白のブラジャーが露わになった。激昂したY美によって倉庫の壁に頭を激しくぶつけられ、更には平手打ち、蹴りを連続して浴びせられた女の人は、恐怖のあまりろくに声も上げられず、無抵抗になっていた。黒いジャケットや白いブラウスが錆の浮いた水溜りに落ちて、Y美やルコに何度も踏まれる。平手打ちや蹴りを受けて何度も転ばされ、脱げたハイヒールが二つ、鉄材の横に転がっていた。営業の女の人はブラジャーとショーツだけの下着姿にされて、啜り泣いている。
「あなたたち、自分たちがどんなことをしてるか、分かってるの? 警察に言います。絶対言うから」
「警察警察って、うるさい」
Y美の強烈なパンチが女の人の頬を直撃した。弾みで女の人の側頭部が倉庫の壁に激しくぶつかり、錆びついた鉄板の上に倒れた。ルコからブラジャーを毟り取られた時、両手で胸を交差させたが、それ以外は目立った動きをしなくなった。
「おばさん、立ちなよ」
Y美が脇に手を入れて女の人を立たせると、乳房が露わになった。膨らみかけたまま永遠に止まってしまったような、小さな胸だった。Y美が挑発的におばさんと呼ぶその女の人の裸体は、服の上からでは分からなかった少し多めの脂肪がお腹の辺りに垂れていたけど、全体的に白く透き通っていて、おばさんと呼ばれるにはまだ早すぎる年齢を感じさせるものだった。肌色のショーツ一枚を纏ったままの恰好でぶるぶると震えている女の人の前でY美がハンドバッグを漁り、名刺と免許証を取り出した。
「おばさんの会社、知ってるよ。庁舎でたくさん仕事もらってるでしょ。母に言えば簡単に切れるんだけどな。どうするの、おばさん。私が母に頼めば、おばさんとこの会社、大打撃かもね。これも全部おばさんのせいだよ」
自分のノートに免許証の名前と連絡先、電話番号まで書き写したY美は、ノートから顔を上げて、にっこりと女の人に向かって微笑む。H山と書かれた名刺が落ちて、赤茶色の水溜りに浮いている。ルコがそれを拾ってH山さんの口に押し込んだ。
「食べて。ねえ、食べて。食べて食べて」
無理矢理口に入れられた名刺を吐き出そうとするH山さんの口を塞ぎ、顎を押さえ付けて上を向かせる。Y美がH山さんの鼻を抓む。H山さんは涙を流して苦しみに悶えていたけど、とうとう赤茶色の水溜りに落ちた名刺を飲み込んだようで、胸を撫でながら何度も咳き込んでいる。中学生に社会人としての自分の名刺を食べさせられ、H山さんの目は焦点が定まらなくなった。ぽかんとした顔からは生気が全く消えている。
ショーツ一枚の裸で歩道を歩かせようとY美がH山さんの腕を引っ張った。H山さんは首を横に振りながら、「もう許して」と呟き、踏ん張ったけど、空しい抵抗に過ぎない。後ろからルコが加勢し、どんどん前へ押し出される。
「許してって何よ。おばさんさ、あんまり馬鹿にしないでくれる? おばさん、うちの奴隷を警察へ出頭させようとしたよね。これってどういう意味か分かるの? 私や私の母にもすっごく迷惑がかかるんだけどね」
「やめてやめて」
倉庫と塀の間の狭い道を進む。歩道まであと少しだった。H山さんの腕を引っ張るY美の背中が無ければ、通行人にばっちり裸のH山さんが見えたことだと思う。顔を真赤に染めて泣いているH山さんの抵抗が次第に激しくなった。
「今度はおばさんのを見せてみようよ。おばさんのぶよぶよした裸も、見せられた人に迷惑かな」
「やめて。私はそんなことを言いたかったんじゃないのよ。私はあの裸の男の子と違ってマゾじゃないのよ」
泣き腫らした赤い目をしてH山さんがY美に抗議すると、Y美はH山さんの腕を一旦放して、やれやれというように大きく息をついた。
「それっておばさんの勝手な理屈だよね。こいつだって」
と、Y美は、数歩離れた位置から一糸まとわぬ格好のまま様子を見ている僕を指した。
「何も好きでこんな格好してるんじゃない。私たちがこいつから全ての衣類を没収したの。この奴隷はすごく抵抗して、最後には土下座までして、どうか裸にするのは許してくださいって涙混じりに懇願したけど、私たちはこいつをこの通り素っ裸に剥くと、こいつの衣類一式、鞄まで別の子に渡して、家に届けさせたの」
誇張混じりにY美が語って、それから僕を何度射精させたこと、注射をして薬剤の力でおちんちんを勃起させ、その上で公道を歩かせたことを話す。H山さんは、言葉に詰まったようだった。ゆっくり僕の方を向く。おちんちんを両手で隠そうとしたら、ルコに腕を取られたので、H山さんに硬化してツンと上を向くおちんちんをまじまじと見られてしまった。でも、その目は僕に説教していた時のような、怖い目ではなかった。真実を聞いてすっかり僕を同情するような、憐みの籠った眼差しだった。僕が頭のてっぺんから爪先まで何もまとっていない裸であることを改めて確認するように、ゆっくりと視線を動かし、それから勃起したおちんちんに目を凝らし、「可哀想に」と言って嗚咽する。
「それでも、こいつは」
Y美がH山さんの背中に向けて、吐き捨てるように言った。
「この運命を受け入れている。マゾになって受け入れている。おばさんも、私たちに強制されたとか言いながら、マゾになってるんだよ」
「いや、そんなの、絶対いや」
泣き叫ぶH山さんの頬を平手打ちして黙らせたY美は、間髪を入れずにH山さんの腕を背中でねじ曲げ、もう片方の手でショーツを下ろした。足首で絡まるショーツをルコが抜き取り、人差し指に引っ掛けると、真っ裸に剥かれたH山さんの目の前でショーツをくるくると回す。
ハイヒールが脱げたことでY美と同じくらいだった背丈が低くなり、Y美の口元にH山さんの耳が当たった。何かY美が言い、H山さんが首を横に振る。H山さんの股間の茂みは、小ぶりな胸に似合わず面積が大きいばかりか、西日を受けて黒々と輝き、そのもじゃもじゃの毛の下にはいろんな物が隠せそうだった。Y美が後ろから太腿に手を突っ込んで片足を上げさせると、お臍の下の肉がゆがみ、幾つかの層ができた。右の乳房の下に大きな黒子があって、乳房がもう少しあれば隠れたかもしれなかった。弛んだ下腹部が痙攣したように揺れていた。肌はしかし、Y美がおばさんと呼ぶのが格別意地悪く聞こえる程に艶々として、二十代半ばの張りを失っていなかった。
倉庫と塀の狭い幅に明るい西日が差し込んで、H山さんの全裸を遍く照らす。太腿に手を入れて片足を上げさせたY美の背中の先に歩道があり、人々が通り過ぎるのが見える。幸い、Y美の背中にすっぽりと隠れてH山さんの体は歩道からは見えない。僕はルコにお尻を押されて、一歩二歩とH山さんに近づいた。片足を上げさせられているので、股間の茂みの中が見える。僕の背中で西日が激しく渦巻いているような気がした。「舐めなよ、早く」とY美が命じる。
もぞもぞと動くH山さんをY美が叱咤する。おば様以外の女の人を舐めるのは初めての体験だった。寝室でおば様は僕に奉仕の仕方を厳しく、徹底的に教えた。奉仕は、なかなかに体力を要する一大仕事であり、終わる頃には全身汗びっしょりになり、もう唾が出ないくらいに喉が乾いた。疲れて、そのままおば様と一緒に眠ってしまうことも少なくなかった。それは、僕とおば様の間の秘密であり、Y美に決して知られてはならないことだった。いつもおば様への奉仕は、ほとんどがY美の留守中に、稀にY美がすっかり眠りに入った夜中に、決して感づかれないような細やかな心遣いのもとに行われたけれど、一度だけおば様の寝室から出てきたところをY美に見つかってしまったことがあった。その時、僕はおば様に奉仕する時はいつもそうであるように素っ裸だった。H山さんの性器に口を付けるようにY美が言いつけるのは、もしかするとおば様への僕の奉仕に感づいていたからかもしれない。そう思うと不安で胸がどきどきする。
「こいつ、緊張してるよ。女の人の見るの初めてなんじゃないの? いつも自分は見られちゃう側だからね」
もしやと思う心配事でうろたえる僕をルコが誤解して冷やかすと、Y美も他愛なく笑った。あまりにも無邪気な笑い声を立てるので、Y美は僕のおば様への奉仕とは全く関係なく、ただほんのいたずら心から僕にH山さんの性器を舐めさせようとしているのかもしれないと考え直した。膝を落とし、ぱっくりと割れた茂みへ舌を這わせる。
もうされるがままになっているH山さんの体がぴくんと動いた。硬く閉じた部分を舌で摩り、湿らす。H山さんは低く喘ぎ声が漏らし、「やめて」と繰り返し呟いている。僕は両手でH山さんのお尻の肉を持って、顔面を押しつけた。舌が肉を濡らし、少しずつ中へ入り、間口を広げて行く。あまりおば様に教わった通りにやると、妙に扱いに慣れていると思われ、Y美にあらぬ疑いをかけられてしまう。そこでわざと乱暴に、殊更にぴちゃぴちゃと音を立てた。すると、背後からルコが、
「やだね、女を知らない男の子は。そんなに乱暴にしたって駄目なのに」
と、ぼやいた。
「仰向けに寝ろ」
Y美が僕を冷たい目で見下ろして、指示した。赤錆びた色の水溜りがあるコンクリートに僕は言われた通りお尻を着け、背中をコンクリートに密着させた。背中からお尻が生温い水に浸る。勃起させられたおちんちんが垂直に立っている。このままH山さんの開きかかった肉の裂け目をおちんちんの上に落とすのかと思い、そうなれば僕は生れて初めて女の人と性交することになるので少しだけ期待してしまったけれども、Y美たちはそのようなことはせず、H山さんの開かれた股間を僕の顔面に着地させるのだった。
いきなり視界が真っ暗になった。呼吸がしづらい。舌を動かして、H山さんの湿った肉の襞を舐めたり、唇で軽く挟んだり、吸ったりする。H山さんが切なそうな声を上げて、股を締め付けてきた。Y美が「感じてるみたいだね、おばさん」と冷やかす。
しばらくして、Y美とルコはH山さんの体を持ち上げ、体の向きを前から後ろに変えた。これで僕の硬化したおちんちんの揺れ動く様がH山さんからしっかり見えるようになった。すると、H山さんのかすかにしか動いていなかった腰が前後に激しく揺れ動くようになり、それに連れて喘ぎ声も一層大きくなった。いかにY美の背中に隠れているとはいえ、これでは歩道の人たちに気づかれてしまうのではないかと懸念される程だった。
「いい年して中学生の男の子に舐められて感じるなんて」
「自分で気づいてないようだけど、相当のマゾみたい」
聞えよがしにY美とルコが話すと、それを聞くまいするかのようにH山さんは前後だけでなく上下にも激しく体を揺らし、一際大きな声で喘ぐ。肉の襞はぬるぬると大きく広がり、口どころか鼻まで入りそうになった。そして、肉の襞を僕の口に押し付けて、ぐいぐいと体重をかける。呼吸がスムーズにできずに苦しむ僕が腰を上げて悶えるのをY美とルコが笑って見ている。と、いきなりおちんちんを手が締め付けた。H山さんが握ったようだった。激しく腰を揺すりながらおちんちんをぎゅっと握り締めるので、僕は激しい痛みに奉仕どころではなく、悲鳴を上げて悶えた。
さすがに見かねたのか、Y美とルコがH山さんを引っ張り上げて僕から離した。H山さんの茂みが唾液で光り、股間から垂れた一筋の糸が揺れて消えた。ルコが僕の裸の背中をぱしんと叩き、早く立ち上がるように促すと、歩道とは反対の方向に僕を歩かせる。今後呼び出しがあった場合には必ず応じることを約束させられたH山さんが全裸のまま茫然自失の体で座り込んでいるのをY美が無表情で見つめていたが、不意に振り返って、僕のお尻を叩く。勃起状態のおちんちんに気を使いながらドラム缶を使って、高さ二メートル程のコンクリート塀を乗り越えると、田んぼの畦道に着いた。
畦道から公道に出る。人通りが少ない上、人が来た時は道沿いの丈高い草や木に隠れることができたし、自転車が通り過ぎる時はY美やルコを盾としたので、素っ裸でも何とか歩くことができた。Y美と僕の帰る家へは、この先、もう少し賑やかな道を通ることになる。しかし、Y美は僕をルコに預けて一人でその道を帰った。別れ際にY美から渡されたロープを手にしたルコが金属の留め具から輪っかを作って僕のおちんちんに嵌めると、ロープをぎゅっと引っ張り、おちんちんを締め上げた。
「ナオス君は私がY美さんから借りることになったんだよ。しばらく私のペットになってもらうの。当分お洋服が着れるだなんて思わないでね」
訳が分からずきょとんと見上げる僕の頬をルコが撫で、ロープを引っ張る。
もう辺りは東からの闇が触手のように伸びて、空気の底に澱むピンクを中空へ絞り出していた。赤い花が土の匂いの中にぼんやりと幾つも浮かんだ。ルコがあれはハイビスカスだと言い、そのハイビスカスの群がり咲く角を曲がった。ここから先は農道だった。ルコは僕にペットだからとの理由で四つん這いの歩行を求めた。僕がそうすると、すかさずお尻を振るように言いつける。僕はお尻を振った。ハイビスカスの赤い花が視界から消えようとしていた。
ようやく許しが出て、もう裸で横断歩道を渡らなくても良くなった時、Y美が、
「それにしてもお前、そんな恥ずかしい格好でよくも車があんなに停まってる横断歩道を堂々と歩けたねえ。そりゃ確かに手で隠すな、服を着ているように普通に歩けって命じたけど、まさか、ここまで完璧にやってくれるとは思わなかった。頭、大丈夫?」
と、僕の額に手を当てて馬鹿にしたように笑ったので、羞恥心の火が一気に全身に広がってしまった。両手を交差させておちんちんや胸を隠し、何か着る物を探してあちこち見回している僕をルコがおかしそうに見つめ、「何してんの。探したってあんたの着る物なんかないよ」と言い、笑いながらY美の方を向くと、Y美は会社勤め風の女の人と話をしていた。ルコが怪訝な顔をして僕を見るが、僕も知らない人なので「分からない」と小さく首を振って、素っ裸の身をルコの後ろに隠す。
会社勤め風の女の人は、同じくらいの高さにあるY美の目をじっと見つめ、淡々とY美に何かを話していた。Y美は珍しく相手の言うことを黙って聞いていたけど、いきなり知らない人に話しかけられた当惑がありありと感じられ、ちらちらとルコや僕のいる方へ視線を投げる。Y美が手招きするので、恥ずかしいのを我慢して、素っ裸のまま進み出る。硬いおちんちんを股間に押し込もうとしたけど無理だったので、仕方なく両手で包み込むようにして隠していると、会社勤め風の女の人が僕に向き直った。
「このおばさんがお前に話があるって」
Y美が後ろから指さすと、女の人は一瞬怒ったような目つきをしてY美へ振り返った。不用意な「おばさん」の一語を発して睨まれてもY美はへらへらしている。逆に僕は、女の人の怒りが増幅してわが身に降りかかる気がして後ずさりしてしまった。
「逃げなくていいのよ。話を聞いてもらいたいだけだから」
僕の手首を掴んで自分の側へぐいと引き寄せる。強い力だった。腕力で僕を圧倒することもできる、と暗に告げているようでもあった。僕は大人しく頭を垂れた。
女の人は、まず自分は営業を終えて車で会社に戻る途中なのだと説明してから、僕のことを小学何年生かと訊ねた。羞恥のあまりろくに返答できない僕の代わりにルコが自分たちは中学生になったばかりだと答えると、営業の女の人は、ふんと鼻で笑ってから、膝を落として、俯く僕の顔をじっと覗き込んだ。
「きっぱり言わせてもらうけどね、私は、いきなりあなたにおちんちんを見せつけられて、相当に不快だったわ。あなたは、公共の空間にいる不特定多数の人を自分の性的欲望のために利用したってことに気づいて欲しいの」
「ごめんなさい。僕だって好きでこんなことしてるんじゃないんです」
「そうかもしれない。おちんちんを硬くしておきながら、それでも貴方がそのような行為を強要されたということも考えられるわね。でもね、それはマゾヒストの卑劣な逃げ道なのよ。マゾの人って、いつも人に責任をなすりつけるのね」
困ったという顔して女の人が垂れた前髪を掻き上げた。僕は元々マゾヒストではなかったと思うけど、激しい性的ないじめに会い、居候先のY美の家では奴隷のような立場に置かれ、家の中ではパンツ一枚しか身に付けることを許されておらず、Y美の母親であるおば様からは性的な奉仕を強いられている。そんな苦しい状況の中で少しでも心が落ち着く考え方を探っていけば、自然と、いわゆるマゾヒズムに行き着いた。いじめなどの激しい屈辱的な仕打ちに対して、自分を守る唯一の考え方はマゾヒズムであり、それを変態的な性的嗜好だとして否定することは、助けを求めて駆け込んだ家からその人を追い返す仕打ちと変わらないような気がする。
人格否定、屈辱、孤立の境遇は、確かに苦しい。その苦しみの実体が人格を認めて欲しい、屈辱を受けたくない、みんなと仲間になりたいという欲望の裏返しだとすれば、そのような欲望を捨て、苦しみの境遇を肯定するマゾヒズムの考え方こそ、苦しみからその人自身を救う考え方だと思う。マゾヒズムという変態性欲と呼ばれるものが先ずあって、そこからマゾヒストの生活があるのではない。逆。マゾヒストになることを強いるような、苦しみだらけの辛い境遇があって、それを受け入れるマゾヒズムという考え方が要請される。だから、マゾヒズム的な考えは、世間の人がしばしば言うところの変態性欲的なものとだけ考えるのは、極めて浅く、上っ面だけの判断であると思う。それは苦しい境遇が生み出す、生き方の知恵のようなもの。自分の境遇に逆らって生きようとすれば苦しみの嵩が増すのは、自然の道理ではある。マゾヒズムの考えでは、苦しみの嵩というマイナスカードが一気にプラスに転じる。
では、自分自身の尊厳については、どうだろうか。苦しみと屈辱に満ちた現在の境遇をマゾヒズム的な考えに従って肯定することは、自分自身の尊厳を放棄することになるのではないか。尊厳やプライドを完全に捨て去ることがマゾヒズムの極致だと看做す意見もある。しかし、人間は獣になることはできない。倫理の問題から、たとえ性欲に関する事柄であっも逃れることができないから。マゾヒズムによって惨めな境遇を受け入れ、肯定したとしても、自分自身の尊厳を放棄することにはならない。奴隷の境遇に甘んじ、むしろそこにマゾヒズム的な救いを見出したとしても、決して自分自身の尊厳を放棄することにはならない。
一体、人間からその人の尊厳を根こそぎ奪い、再起不能に落とすようないじめなど、この世に存在するのだろうか。同級生の前でオナニーを強いられ射精した、同級生の前で素っ裸にされ、肛門を晒したままうんちをした、おしっこを飲まされたなどの屈辱的な事件の数々を僕はマゾヒズム的な考え方で受け入れ、乗り越えてきた。プライド、自尊心はその都度破壊されたが、代わりにマゾヒズムの秘めやかな蜜をこっそり味わった。すると、自尊心は、より強く、今までとは違った形で僕の中に芽生えた。僕自身の尊厳というのは、これらの屈辱的な事件を受け入れ、乗り越えたことで醸成されたものだから、どんな屈辱的な事件も僕の尊厳を奪うことはできない。
境遇が要請するマゾヒズムの考えを受け入れ、マゾヒストになることによって、自分という個が生まれ、今までとは異なる場所に新たな尊厳が育ち始める。それは、今までの尊厳と比べていささかも見劣りがするものではない。
この営業の女の人が僕に突き付けたのは、マゾヒズムの考えによって現状を肯定し、マゾヒストになった僕自身の主体に関する問題だった。マゾヒストは本質的に無責任であり、すぐに境遇のせいにする、というのがこの女の人の批判だった。それは、もっともな批判だった。一般にマゾヒストはすぐに謝罪の言葉を口にするが、それは自分の置かれた立場に対して無責任だからだ。謝罪しても、その謝罪させられた理由を自分とか関係のないところ、境遇とか第三者に求める。
僕は、Y美に命じられたとはいえ、硬化したおちんちんを丸出しにして、素っ裸のまま横断歩道を何度も往復した。そのことで不快に思う人や人格を傷つけられた思いをした人がいたら、僕がその行為を第三者に強制され、逆らうことのできない精神的な状況に追い込まれていたとしても、僕自身がマゾヒストとしての主体を獲得してこの境遇を生き抜いている以上、謝罪しなければならない。丸出しのおちんちんをいきなり見せられたことで、いかなる合意もないまま、暴力的に性欲を満たすために自分が使われたと感じ、不快に思う。或いは自尊心を傷つけられたと感じる人もいるかもしれない。それは予め想像しなければいけないことだった。営業の女の人に対してだけではなく、僕の行為に遭遇してしまった全ての人に対し、僕は断じて謝罪しなければならない。だが、どんな風に謝罪すればよいのか。一所懸命考えたけど、全然分からなかった。
黒のスーツをまとった営業の女の人の前で、僕は、ツンと上を向くおちんちんを手で押え込もうとして亀頭の敏感な部分に触れてしまい、びくっと体が震えた。おちんちんを手で隠し、腕を交差させて胸の辺りを覆い、自分が一糸まとわぬ素っ裸でいることをあまり女の人に感じさせないようにしながら頭を垂れて黙っていると、「もっとこっちに行きましょう」と手を引かれ、資材置き場の倉庫の横に入り込んだ。横断歩道を渡り切った歩道は、幹線道路からは隠れるものの、歩行者は素っ裸のまま叱られている僕の横を通過するので、好奇の視線が矢鱈と全身の肌に突き刺さる。中にはお尻を叩いて走り去る悪童もいて、人の目に付きにくい場所への移動は有難かった。
資材置き場のコンクリートは舗装路よりも滑らかで素足に優しかったけれど、赤錆びた色の水溜りが幾つもあった。丁度僕が水溜りの中にいる時、女の人が立ち止まり、どのように謝罪をするのか訊ねるので、何も思い付かない僕は、いつもY美やおば様に叱られた時にそうするように、土下座をすることにした。水溜りの温い水の中に僕の脛や膝小僧が浸かる。「申し訳ございませんでした」と、頭を何度も下げる。
「困ったわね。何も私に謝れって言ってるんじゃないのよ」
大きく溜息をついて、営業の女の人が続けた。
「自分のしたことについて、社会的にどう責任を負うつもりなのか、聞いてるの」
そして、僕を立たせ、資材置き場の角から通りの向こうを指して、
「交番に行って、自分がしたことを全て話すのよ。社会的なけじめを付けるって、そういうことだから」
道路の向こうにぽつんと交番の四角い小さな建物が見える。夕方で人通りも少なくないので、そこまで素っ裸のまま行くと、また多くの人に恥ずかしい姿を晒すことになるけど、営業の女の人の言う通り、警察に行き、法的に裁かれるのが僕の正しい謝罪の仕方だろうと思うと、ためらう気持ちは無かった。
資材置き場の倉庫の横から歩道に出て、道路を渡ろうとして左右を見ていると、いきなり強い力で手を引っ張られ、再び倉庫の横に引きずり込まれた。
「待ちなさい。勝手な真似は許さないからね」
Y美が怒りの形相で僕を睨みつけ、どんと僕の胸を押した。僕は後ろへよろめき、水溜りの上に尻餅をついてしまった。水しぶきがどっと散って、営業の女の人が急いでハイヒールの足を動かしたが、間に合わず踝が濡れた。見上げると、Y美が営業の女の人の胸倉を掴んでいた。
「おばさんさ、少し調子に乗りすぎだよ」
白いブラウスからボタンが幾つか飛んだ。ルコが営業の女の人を羽交い絞めにする。Y美は女の人のブラウスを肩まで広げてから下ろした。女の人の短い悲鳴がして、純白のブラジャーが露わになった。激昂したY美によって倉庫の壁に頭を激しくぶつけられ、更には平手打ち、蹴りを連続して浴びせられた女の人は、恐怖のあまりろくに声も上げられず、無抵抗になっていた。黒いジャケットや白いブラウスが錆の浮いた水溜りに落ちて、Y美やルコに何度も踏まれる。平手打ちや蹴りを受けて何度も転ばされ、脱げたハイヒールが二つ、鉄材の横に転がっていた。営業の女の人はブラジャーとショーツだけの下着姿にされて、啜り泣いている。
「あなたたち、自分たちがどんなことをしてるか、分かってるの? 警察に言います。絶対言うから」
「警察警察って、うるさい」
Y美の強烈なパンチが女の人の頬を直撃した。弾みで女の人の側頭部が倉庫の壁に激しくぶつかり、錆びついた鉄板の上に倒れた。ルコからブラジャーを毟り取られた時、両手で胸を交差させたが、それ以外は目立った動きをしなくなった。
「おばさん、立ちなよ」
Y美が脇に手を入れて女の人を立たせると、乳房が露わになった。膨らみかけたまま永遠に止まってしまったような、小さな胸だった。Y美が挑発的におばさんと呼ぶその女の人の裸体は、服の上からでは分からなかった少し多めの脂肪がお腹の辺りに垂れていたけど、全体的に白く透き通っていて、おばさんと呼ばれるにはまだ早すぎる年齢を感じさせるものだった。肌色のショーツ一枚を纏ったままの恰好でぶるぶると震えている女の人の前でY美がハンドバッグを漁り、名刺と免許証を取り出した。
「おばさんの会社、知ってるよ。庁舎でたくさん仕事もらってるでしょ。母に言えば簡単に切れるんだけどな。どうするの、おばさん。私が母に頼めば、おばさんとこの会社、大打撃かもね。これも全部おばさんのせいだよ」
自分のノートに免許証の名前と連絡先、電話番号まで書き写したY美は、ノートから顔を上げて、にっこりと女の人に向かって微笑む。H山と書かれた名刺が落ちて、赤茶色の水溜りに浮いている。ルコがそれを拾ってH山さんの口に押し込んだ。
「食べて。ねえ、食べて。食べて食べて」
無理矢理口に入れられた名刺を吐き出そうとするH山さんの口を塞ぎ、顎を押さえ付けて上を向かせる。Y美がH山さんの鼻を抓む。H山さんは涙を流して苦しみに悶えていたけど、とうとう赤茶色の水溜りに落ちた名刺を飲み込んだようで、胸を撫でながら何度も咳き込んでいる。中学生に社会人としての自分の名刺を食べさせられ、H山さんの目は焦点が定まらなくなった。ぽかんとした顔からは生気が全く消えている。
ショーツ一枚の裸で歩道を歩かせようとY美がH山さんの腕を引っ張った。H山さんは首を横に振りながら、「もう許して」と呟き、踏ん張ったけど、空しい抵抗に過ぎない。後ろからルコが加勢し、どんどん前へ押し出される。
「許してって何よ。おばさんさ、あんまり馬鹿にしないでくれる? おばさん、うちの奴隷を警察へ出頭させようとしたよね。これってどういう意味か分かるの? 私や私の母にもすっごく迷惑がかかるんだけどね」
「やめてやめて」
倉庫と塀の間の狭い道を進む。歩道まであと少しだった。H山さんの腕を引っ張るY美の背中が無ければ、通行人にばっちり裸のH山さんが見えたことだと思う。顔を真赤に染めて泣いているH山さんの抵抗が次第に激しくなった。
「今度はおばさんのを見せてみようよ。おばさんのぶよぶよした裸も、見せられた人に迷惑かな」
「やめて。私はそんなことを言いたかったんじゃないのよ。私はあの裸の男の子と違ってマゾじゃないのよ」
泣き腫らした赤い目をしてH山さんがY美に抗議すると、Y美はH山さんの腕を一旦放して、やれやれというように大きく息をついた。
「それっておばさんの勝手な理屈だよね。こいつだって」
と、Y美は、数歩離れた位置から一糸まとわぬ格好のまま様子を見ている僕を指した。
「何も好きでこんな格好してるんじゃない。私たちがこいつから全ての衣類を没収したの。この奴隷はすごく抵抗して、最後には土下座までして、どうか裸にするのは許してくださいって涙混じりに懇願したけど、私たちはこいつをこの通り素っ裸に剥くと、こいつの衣類一式、鞄まで別の子に渡して、家に届けさせたの」
誇張混じりにY美が語って、それから僕を何度射精させたこと、注射をして薬剤の力でおちんちんを勃起させ、その上で公道を歩かせたことを話す。H山さんは、言葉に詰まったようだった。ゆっくり僕の方を向く。おちんちんを両手で隠そうとしたら、ルコに腕を取られたので、H山さんに硬化してツンと上を向くおちんちんをまじまじと見られてしまった。でも、その目は僕に説教していた時のような、怖い目ではなかった。真実を聞いてすっかり僕を同情するような、憐みの籠った眼差しだった。僕が頭のてっぺんから爪先まで何もまとっていない裸であることを改めて確認するように、ゆっくりと視線を動かし、それから勃起したおちんちんに目を凝らし、「可哀想に」と言って嗚咽する。
「それでも、こいつは」
Y美がH山さんの背中に向けて、吐き捨てるように言った。
「この運命を受け入れている。マゾになって受け入れている。おばさんも、私たちに強制されたとか言いながら、マゾになってるんだよ」
「いや、そんなの、絶対いや」
泣き叫ぶH山さんの頬を平手打ちして黙らせたY美は、間髪を入れずにH山さんの腕を背中でねじ曲げ、もう片方の手でショーツを下ろした。足首で絡まるショーツをルコが抜き取り、人差し指に引っ掛けると、真っ裸に剥かれたH山さんの目の前でショーツをくるくると回す。
ハイヒールが脱げたことでY美と同じくらいだった背丈が低くなり、Y美の口元にH山さんの耳が当たった。何かY美が言い、H山さんが首を横に振る。H山さんの股間の茂みは、小ぶりな胸に似合わず面積が大きいばかりか、西日を受けて黒々と輝き、そのもじゃもじゃの毛の下にはいろんな物が隠せそうだった。Y美が後ろから太腿に手を突っ込んで片足を上げさせると、お臍の下の肉がゆがみ、幾つかの層ができた。右の乳房の下に大きな黒子があって、乳房がもう少しあれば隠れたかもしれなかった。弛んだ下腹部が痙攣したように揺れていた。肌はしかし、Y美がおばさんと呼ぶのが格別意地悪く聞こえる程に艶々として、二十代半ばの張りを失っていなかった。
倉庫と塀の狭い幅に明るい西日が差し込んで、H山さんの全裸を遍く照らす。太腿に手を入れて片足を上げさせたY美の背中の先に歩道があり、人々が通り過ぎるのが見える。幸い、Y美の背中にすっぽりと隠れてH山さんの体は歩道からは見えない。僕はルコにお尻を押されて、一歩二歩とH山さんに近づいた。片足を上げさせられているので、股間の茂みの中が見える。僕の背中で西日が激しく渦巻いているような気がした。「舐めなよ、早く」とY美が命じる。
もぞもぞと動くH山さんをY美が叱咤する。おば様以外の女の人を舐めるのは初めての体験だった。寝室でおば様は僕に奉仕の仕方を厳しく、徹底的に教えた。奉仕は、なかなかに体力を要する一大仕事であり、終わる頃には全身汗びっしょりになり、もう唾が出ないくらいに喉が乾いた。疲れて、そのままおば様と一緒に眠ってしまうことも少なくなかった。それは、僕とおば様の間の秘密であり、Y美に決して知られてはならないことだった。いつもおば様への奉仕は、ほとんどがY美の留守中に、稀にY美がすっかり眠りに入った夜中に、決して感づかれないような細やかな心遣いのもとに行われたけれど、一度だけおば様の寝室から出てきたところをY美に見つかってしまったことがあった。その時、僕はおば様に奉仕する時はいつもそうであるように素っ裸だった。H山さんの性器に口を付けるようにY美が言いつけるのは、もしかするとおば様への僕の奉仕に感づいていたからかもしれない。そう思うと不安で胸がどきどきする。
「こいつ、緊張してるよ。女の人の見るの初めてなんじゃないの? いつも自分は見られちゃう側だからね」
もしやと思う心配事でうろたえる僕をルコが誤解して冷やかすと、Y美も他愛なく笑った。あまりにも無邪気な笑い声を立てるので、Y美は僕のおば様への奉仕とは全く関係なく、ただほんのいたずら心から僕にH山さんの性器を舐めさせようとしているのかもしれないと考え直した。膝を落とし、ぱっくりと割れた茂みへ舌を這わせる。
もうされるがままになっているH山さんの体がぴくんと動いた。硬く閉じた部分を舌で摩り、湿らす。H山さんは低く喘ぎ声が漏らし、「やめて」と繰り返し呟いている。僕は両手でH山さんのお尻の肉を持って、顔面を押しつけた。舌が肉を濡らし、少しずつ中へ入り、間口を広げて行く。あまりおば様に教わった通りにやると、妙に扱いに慣れていると思われ、Y美にあらぬ疑いをかけられてしまう。そこでわざと乱暴に、殊更にぴちゃぴちゃと音を立てた。すると、背後からルコが、
「やだね、女を知らない男の子は。そんなに乱暴にしたって駄目なのに」
と、ぼやいた。
「仰向けに寝ろ」
Y美が僕を冷たい目で見下ろして、指示した。赤錆びた色の水溜りがあるコンクリートに僕は言われた通りお尻を着け、背中をコンクリートに密着させた。背中からお尻が生温い水に浸る。勃起させられたおちんちんが垂直に立っている。このままH山さんの開きかかった肉の裂け目をおちんちんの上に落とすのかと思い、そうなれば僕は生れて初めて女の人と性交することになるので少しだけ期待してしまったけれども、Y美たちはそのようなことはせず、H山さんの開かれた股間を僕の顔面に着地させるのだった。
いきなり視界が真っ暗になった。呼吸がしづらい。舌を動かして、H山さんの湿った肉の襞を舐めたり、唇で軽く挟んだり、吸ったりする。H山さんが切なそうな声を上げて、股を締め付けてきた。Y美が「感じてるみたいだね、おばさん」と冷やかす。
しばらくして、Y美とルコはH山さんの体を持ち上げ、体の向きを前から後ろに変えた。これで僕の硬化したおちんちんの揺れ動く様がH山さんからしっかり見えるようになった。すると、H山さんのかすかにしか動いていなかった腰が前後に激しく揺れ動くようになり、それに連れて喘ぎ声も一層大きくなった。いかにY美の背中に隠れているとはいえ、これでは歩道の人たちに気づかれてしまうのではないかと懸念される程だった。
「いい年して中学生の男の子に舐められて感じるなんて」
「自分で気づいてないようだけど、相当のマゾみたい」
聞えよがしにY美とルコが話すと、それを聞くまいするかのようにH山さんは前後だけでなく上下にも激しく体を揺らし、一際大きな声で喘ぐ。肉の襞はぬるぬると大きく広がり、口どころか鼻まで入りそうになった。そして、肉の襞を僕の口に押し付けて、ぐいぐいと体重をかける。呼吸がスムーズにできずに苦しむ僕が腰を上げて悶えるのをY美とルコが笑って見ている。と、いきなりおちんちんを手が締め付けた。H山さんが握ったようだった。激しく腰を揺すりながらおちんちんをぎゅっと握り締めるので、僕は激しい痛みに奉仕どころではなく、悲鳴を上げて悶えた。
さすがに見かねたのか、Y美とルコがH山さんを引っ張り上げて僕から離した。H山さんの茂みが唾液で光り、股間から垂れた一筋の糸が揺れて消えた。ルコが僕の裸の背中をぱしんと叩き、早く立ち上がるように促すと、歩道とは反対の方向に僕を歩かせる。今後呼び出しがあった場合には必ず応じることを約束させられたH山さんが全裸のまま茫然自失の体で座り込んでいるのをY美が無表情で見つめていたが、不意に振り返って、僕のお尻を叩く。勃起状態のおちんちんに気を使いながらドラム缶を使って、高さ二メートル程のコンクリート塀を乗り越えると、田んぼの畦道に着いた。
畦道から公道に出る。人通りが少ない上、人が来た時は道沿いの丈高い草や木に隠れることができたし、自転車が通り過ぎる時はY美やルコを盾としたので、素っ裸でも何とか歩くことができた。Y美と僕の帰る家へは、この先、もう少し賑やかな道を通ることになる。しかし、Y美は僕をルコに預けて一人でその道を帰った。別れ際にY美から渡されたロープを手にしたルコが金属の留め具から輪っかを作って僕のおちんちんに嵌めると、ロープをぎゅっと引っ張り、おちんちんを締め上げた。
「ナオス君は私がY美さんから借りることになったんだよ。しばらく私のペットになってもらうの。当分お洋服が着れるだなんて思わないでね」
訳が分からずきょとんと見上げる僕の頬をルコが撫で、ロープを引っ張る。
もう辺りは東からの闇が触手のように伸びて、空気の底に澱むピンクを中空へ絞り出していた。赤い花が土の匂いの中にぼんやりと幾つも浮かんだ。ルコがあれはハイビスカスだと言い、そのハイビスカスの群がり咲く角を曲がった。ここから先は農道だった。ルコは僕にペットだからとの理由で四つん這いの歩行を求めた。僕がそうすると、すかさずお尻を振るように言いつける。僕はお尻を振った。ハイビスカスの赤い花が視界から消えようとしていた。
マゾヒズムについて考えさせられる文章です。
この後すぐに海水浴かと思いましたが、ルコが入ってきましたね。Y美やS子のようにルコの心理描写も気になります。
これから年末で忙しいと思いますので、自分のペースでお書きください。
まさかの展開ですね!
貞操帯とか面白そうですね!
今度こそ1週間に一度の更新お願いします(/ _ ; )
100件目のお話ですが、地味な内容になっています。
まだまだ続けていきますので、よろしくお願いします。
Gio様
いつもありがとうございます。
今後ともお付き合いのほど、お願いいたします。
江南様
一週間に一度更新ができれば良いですが、あいにくすごい怠け者でして、難しいです。
でも、来年はもう少し勤勉にならないといけないと思っています。
海水浴の話は、もう少しお待ちください。
櫂様
コメントありがとうございます。
マゾについて、なんでみんなもっと肯定的にならないのかなとかねがね思っていました。
マゾは生きる力だと思います。
でも、抽象的なことを書くのはほどほどにしたいと思います。
へろへろ様
ありがとうございます。
ルコの家ではひたすらペットとして扱われるようです。