砂のさらさらした粒の一つ一つが僕の全身の肌を撫でるように流れる。相変わらずパンツ一枚穿かせてもらえない真っ裸だった。朝の光が丘の上の雑木林を透かして、斜面を下った平地にある家庭菜園を薄暗がりに置いたまま、その先のなだらかな斜面の上にある芝生の短く刈られた緑を鮮やかにする。
ここがルコの家の敷地であることを思い出す。昨夜、四つん這いのまま長い農道を歩かされて、ここまで来たのだった。お尻を高く上げて、ルコが命じた時にはお尻を振った。素っ裸でもう脱ぐ物など糸くず一つ残っていないにも関わらず、全身汗まみれになって暑くて堪らなくなる程、疲れる歩き方だった。途中ルコの計らいによって何度も休みを入れたものたから、家にたどり着いたのはすっかり夜だった。
白いシャツに短パン姿のルコがサンダルを引っ掛けて、母屋から出てきた。伸びをしてから、砂にまみれた僕の方を見て、ゆっくりとこちらに向かう。どこからどこまでがルコの家の敷地なのか明確ではない広い土地の東側に白い砂を敷き詰めた個所があり、僕はそこの砂に体を埋めて眠るように言われたのだった。
「どう? 砂場って案外気持ちよく眠れたでしょ?」
側溝を塞ぐ格子状の蓋に掛けられた南京錠に鍵を差し込み、南京錠を取り外しながら、ルコが訊ねる。ルコは機嫌が良かった。ふんふんと鼻歌を歌いながら側溝の蓋を持ち上げ、中から大きな石を取り出すと、その石に結わいたロープを解く。
「おちんちん、元通りになったね。ちっちゃい」
ふふと笑ってルコがロープを引っ張ると、おちんちんの根元に掛けられた輪がぎゅっと締まり、引っ張られた方向へ腰が突き出てしまう。昨日、注射を打たれて勃起させられたおちんちんは、農道を歩かされている時もまだ収まっていなかった。ものすごく疲れていたので砂場に横たわってすぐに意識を失った僕は、朝になって初めておちんちんが小さくなっていることに気づいた。皮を被って縮こまっているおちんちんをしゃがみ込んだルコが指で弾く。
「Y美からの大切な預かり物だからね。逃げられたら困るの。おしっこ大丈夫?」
「早くしたいです」
立ち上がって歩こうとした僕は、いきなりルコにお尻をぴしゃりと叩かれてしまった。
「ナオス君さあ、ペットなんだよ。忘れちゃ駄目じゃない。四つん這いでしょ」
慌てて四つん這いになった僕は、引っ張られるまま、母屋とは反対側の砂利道を進む。階段を下りて、農耕車が一台通れるくらいの道幅の農道に出ると、電信柱があった。夜と違って朝の明るさの中では田んぼの向こうからでも裸の姿が確実に見えてしまう。ルコは電柱のそばまで僕を引き寄せると、ここでおしっこをするように命じた。
「しっかり足を上げてね。ナオス君はペットなんだからさ」
おしっこなら、人目のつかない場所は幾らでもあるのに、いつ人に見られるか分からない場所でおしっこを強要するとは、しかも犬のように片足を上げさせるとは、あまりに酷いような気がして、ルコが考えを改めるように願いながら許しを乞う。しかし、ルコは頑として譲らなかった。
「言うこと聞かないと、後でもっと辛い思いをするのはナオス君なんだよ」
観念した僕は素直に従わなかったことを詫びてから、皮から亀頭を出そうとしておちんちんへ手を伸ばす。すると、たちまちルコにお尻を平手打ちされた。勝手におちんちんに触るなと言う。僕がおちんちんに手を伸ばした理由を告げると、「どれどれ」と、僕を上半身だけ起こした格好にさせて、皮に包まれたおちんちんを手に乗せてしげしげと見る。
「そっか、おしっこの時は皮を剝くんだ。面倒だね、皮被りの男の子って。でも、犬はさ、おしっこの時、一々剥かないよね。ナオス君もさ、このままおしっこしなよ。ね、ペットなんだからさ」
と、ルコが平然と提案する。なんでこんな変なことをさせたがるだろうかと不思議に思っていると、いきなりサンダルの先っぽでおちんちんの袋を蹴られた。
激痛に頭が真っ白になり、悲鳴を上げて舗装された農道にくの字になって横たわる。涙が流れて止まらない。なかなか去ろうとしない痛みを激しく呼吸をして必死にやり過ごそうとしている僕を見下ろして、ルコが、
「そんなに大袈裟に痛がらなくてもいいでしょうに。ちょっと当たっただけなんだからさ。だいたいこれもナオス君が言うこと聞かないからいけないんだよ」
と、不満げに呟く。
蹴られたおちんちんを摩ったついでにおちんちんの皮から亀頭を出したのがばれて、ルコに皮をうんと引っ張られた。亀頭が完全に皮の中に隠れてしまった。
「これで良し。さ、おしっこしてみて」
観念した僕は、田んぼの向こうで誰かに見られているかもしれない不安に喘ぎながら、命じられた通り、片足を上げて電柱におしっこを出した。朝一番のおしっこだから量が多い。皮に包まれているので、おしっこはスムーズに出ず、皮の中におしっこが溜まると軽い痛みを伴って外に溢れ出した。それも通常のように放物線を描いて出るのではなく、不定形に飛び散る。膝に生暖かい自分のおしっこが当たった。また、皮からこぼれるおしっこもあり、地面に据えた右足の太腿を伝って、小さな水溜りを作った。
「汚いなあ。おしっこでびしょびしょじゃん。ほら、終わったんならしっかりおちんちんを振って、滴を払いなさいよ」
ルコの心底おかしそうに笑う声を聞きながら、蹴られたおちんちんの袋がずきずき痛むのに耐え、片足を上げたままおちんちんを振るう。ルコが青空を見上げて、「今日も一日暑くなりそう」と呟き、ロープを引っ張って歩き出した。僕が電柱の周りを汚してしまったおしっこが気になって振り返ると、ルコは、
「暑いからすぐ乾くよ。それより朝のお散歩ね」
と、なだめて、歩行のペースを速めるのだった。
散歩は、農道から畑を抜けて田んぼの畦道、用水路沿いの遊歩道、昨晩の農道の一部、雑木林の小道を辿るコースだった。散歩の間、僕は一度として二本足で歩行することが許されなかった。人に見られてしまう恥ずかしさで緊張している僕を察して、
「大丈夫だよ。誰か来たら隠してあげるから」
と、ルコが朗らかに笑う。
農道で原動機付き自転車に乗ったおじさんが来た時は、急いで畑の中に入って土の中に身を沈めた。用水路沿いの小道では、行く手に犬の散歩をする三人連れのおばさんが見えた。適当な隠れ場所を探して辺りを見回す僕をルコが用水路に落とした。用水路は意外に深くて僕の首まであり、流れも速かったけど、おちんちんを繋ぎ留めるロープのおかげでかろうじて流されずに済んだ。
大きな石がごろごろ転がる上り坂道を過ぎて平坦な道に入ると、ルコはいろいろな話をするようになった。今日ルコが泊まった家は、ルコの父親が造園の仕事にかこつけたお忍びに使っているもので、ルコにとっては夏休みなどの特別な機会に遊びに行く別荘のようなものとのことだった。いつもはルコの父が女の人を囲って住んでいるのだけど、今週からは旅行で二人とも留守だから、代わりにルコが留守番を頼まれたという。広い敷地の割に母屋は小さいのだが、父親は一人娘のルコがいつでも泊まれるようにルコ専用の部屋を空けてあるそうで、その部屋には父親の愛人が絶対に入らないように父親とルコだけが鍵を持っているという。
父親の愛人には会いたくないルコは、愛人が絶対に来ないと分かっている時にしかこの別荘へ足を運ばない。ルコは学校の近くにある、手狭なアパートに母親と暮らしているのだが、去年の暮に母親がルコとは父親の違う弟を産んでから、いささか状況が変わった。母親の関心がルコからすれば何の愛情も覚えない弟に注がれるようになったばかりか、母親が他の女の人を囲う父親と血の繋がりのあるルコに対して、剣のある物言いをしたり、はっきりと憎悪の籠った視線を向けたりするようになった。ある晩、母親とささいなことから口論が始まり、ヒートアップの挙句、ルコは玄関のドアを蹴っ飛ばすようにして出て行った。向かうところはこの別荘しかなかった。どうか愛人がいないようにと祈ったが、呼び鈴を鳴らすとドアの隙間から顔を覗かせたのは、彼女だった。ルコは食卓の向かいにいる愛人と目を合わすことができなかった。喧嘩の話を聞くと、父親は一も二もなく母親の肩を持ち、ルコを叱った。ルコは愛人が出してくれたお茶や菓子には一切触れず、流し台の蛇口に口を付けてがふがふ水を飲むと、無言で別荘を出た。その晩はミューの家に無理を言って泊まらせてもらった。
「私、自分の居場所がすごく危ないのよ。時々無くなるの」
無理に作ったような笑顔を見せてルコが語った。僕は、ルコの告白に何と答えたら良いのか分からなかった。すると、ルコがいろいろと僕のことを訊ねた。僕が家庭の事情から母親と別れて、Y美の家に居候していることを知ると、
「ナオス君もいろいろ大変だね。でも頑張って」
と、慰め顔に励まし、僕の高く上げさせたお尻を撫で回した。
雑木林の中に入る前、ルコが短パンのポケットから小型のスプレーを取り出し、自分の剥き出しの手足や首回りにかけてから、僕にかけた。僕の場合は全身の肌が露出しているので、スプレーは満遍なくかけられた。虫除けスプレーだった。途中、小道が二手に分かれ、母屋とは反対の方に下る道をルコが選んで進み、雑木林を抜けると、前方に周囲をコンクリートで固めた貯水池があった。
貯水池の前の、木の枝を並べただけの粗末な屋根のあるベンチにルコが腰を下ろす。僕もベンチの端に座ろうとしたら、ルコに「ペットなんだから地面に座りなよ。駄目じゃん、なんで自分が真っ裸で外を歩かされているか、忘れたの?」と叱られてしまった。茶色い土の地面をとんとんと踏み鳴らしてルコが地面に腰を下ろすように促す。僕が両足を揃えて折り曲げ、上半身をルコに傾けて座るのを見届けると、ルコは大きく息を付いた。
「Y美から聞いたんだけど、ナオス君、メライちゃんのこと好きなんでしょ?」
おちんちんを隠す手に思わず力が入った。
「え、別にそんなことは」
適当に誤魔化すと、
「Y美にはバレバレみたいだよ。でも、メライちゃんは、ナオス君がY美とかにいつも裸にされていじめられてるの、知ってんのかな?」
知らないと思う、と答える。或いは薄々感づいているかもしれないけど、僕としては知らないでいて欲しいので、そういう気持ちが勝った回答であった。そんな僕の気持ちを見透かしたのか、ルコはふふと笑って、興味本位の質問を続けた。
「ねえ、これまでメライちゃんにおちんちん見られたことあるの?」
パンツ一枚の姿は、夏のマジックショーの練習でメライちゃんも見慣れていると思う。その際のアクシデントで素っ裸も何度か見られてしまったけど、お尻だけでおちんちんはまだ見られていない。そんな風に返答すると、
「良かったね。好きな子におちんちんとかオナニーさせられてるとことか、見られたくないよね。でも、好きな子の前でパンツ一枚にさせられるのも、辛いかも。メライちゃん、可愛いよね。背丈だけじゃなくて外見もなんとなくナオス君と似てるような気がする。やっぱし自分と似た人を好きになるもんかな。でも絶対、メライちゃんの前では恥ずかしいことされないようにね。私たちにおちんちん丸出しのペットにさせられていることは黙っててあげるからさ」
恩着せがましく、僕の裸の肩をぽんぽん叩いて約束してくれたので、一応、僕も頭を下げたけど、それで僕の不安が解消されることはない。いつも恐れているのは、まさにそのことだった。メライちゃんに屈辱の性的ないじめを受けているところは絶対に見られたくなかった。
「でも、ナオス君でも人を好きになるんだね。こんな風に真っ裸のまま、お尻の穴丸出しにして四つん這いで歩いているナオス君見てるとさ、同級生の男の子って感じがしなくて、ほんとのペットに思えてくるんだよね。ペットが人を好きになるなんて、生意気」
つんつんと僕の背中を人差し指で突っつきながら冷やかして笑う。なんだか恥ずかしくなって体を小さく曲げると、ルコが腕時計を見てベンチから立ち上がった。
散歩から戻った僕は、母屋の脇にある水撒き用の蛇口で念入りに体を洗うように指示された。スポンジと石鹸で泡まみれになって洗う。洗髪用のシャンプーもあった。特に泥だらけの足の裏は束子でごしごしと真っ白になるまで擦った。その後、ルコに体じゅうを検査され、二度洗い直しを命じられて、ようやく母屋に入ることを許された。
リビングの床にはパンと水が置かれていた。夕べは寝る前にお握りを一つ与えられただけだったが、疲れていて食欲はあまり無かった。朝、フローリングの床に座って、ルコの指示通りに手を使わずにパンを齧ると、急にお腹が空いてきた。食卓の下にルコのすらりと伸びた白い足が見えた。コーヒーの良い香りがする。ルコは雑誌をめくりながら目玉焼きを食べていた。僕はルコの近くにすり寄り、パンのお代りをせがんだ。
「駄目。ナオス君、男の子なんだから我慢しなさい」
わざと母親のような口調をしてルコが僕を睨む。それでも食パンの耳を千切って床に置いてくれたので、僕は感謝しながら手を使わずに頂いた。
食事が済み、こまごまとした朝の支度を終えると、ルコは、これから父親から課せられた仕事をするので、その間は僕をペットとしてではなく、普通の男の子として扱うと宣言した。その代わりにルコの手伝いをしなければならない。仕事というのは、この家の掃除だった。ペットとして僕を遇すると言っていたのに、掃除の時だけ二本足歩行を認めて手伝わせるのは、随分と都合のよい話だと思ったけど、勿論文句を言える筋合いはない。僕は立ち上がって、反射的におちんちんを手で隠し、ルコの指示を仰いだ。
ルコの声の調子が真面目な、きびきびしたものになった。面倒なことは手っ取り早く片付けようする意志がルコを真剣にさせたようだった。しかし、僕はルコのようには真面目になれなかった。ルコと目が合うと窓の外を見たり、もじもじしたりして落ち着きのない態度が出てしまった。ペット扱いされている時には感じないようにしていた恥ずかしさがこみ上がってきたのだった。掃除の間は僕を普通の男の子にしてくれる約束なのに、それでも素っ裸のままなのだろうか。僕は勇気を出して、恐る恐るルコに何か着る物を与えて欲しいと嘆願した。ルコは目を丸くして驚いた。
「えー、そんなの無理だよ。第一、ここにはナオス君の着る物なんかないし、それに私言ったよね、ここにいる間はお洋服が着れないからって。いいじゃん、別に。裸でいなよ。今更恥ずかしがるなんて変だよ。はっきり言って私、ナオス君の体で見てないところなんて一つもないんだよ。なんで服を着たいなんて言うの?」
喋りながら次第に不機嫌になってくる。僕はすぐに謝ったが、ルコはかねがねY美から僕が詫びを入れる時にはどんなことをさせているかを聞いていたので、
「全然駄目。謝る時はY美にしてるようにしなきゃ。ちゃんと知ってんだよ」
と、土下座を要求した。僕はルコが納得するまで土下座をし、「我儘言って申し訳ございませんでした。素っ裸のまま掃除をすることを誓います」と、ルコが強要する口上を何度か述べさせられた。
リビングと上がり框の床掃除と窓拭きが僕の任された仕事だった。ぴかぴかになるまで磨いてね、とルコが念を押した。性的な辱めを受けるよりは、言いつけられた仕事をこなす方がどれだけ良いか分からない。しかも床掃除や窓拭きに意識を集中すれば、自分が衣類を没収されて丸裸のままいるしかない惨めな立場であることを忘れられる。Y美の家において家事の手伝いや掃除は僕の日課でもあるけど、そのような仕事は、Y美が思っているであろう程には僕に苦痛を与えていない。母親と離れて暮らし、性的に弄ばれる辛い現在を忘れることができるのであれば、どんな労働をも僕は喜んでやる。
台所と寝室、自分の部屋の掃除を終えてリビングに戻ってきたルコは、床を見回して、
「すごーい。ほんとにぴかぴかになってる。ナオス君、裸んぼのまま頑張った甲斐があったね」
と、感嘆の声を上げた。上り框の床掃除と窓拭きもルコを満足させる出来映えだった。誉められて悪い気がしない僕は、「恐れ入ります」と返す代わりに軽く頭を下げる。
「休憩しよっか。休憩休憩」
前掛けを外したルコは、それを無造作に椅子の背もたれに掛け、冷蔵庫をあけてサイダーを取り出すと、戸棚からガラスがツイストした形のコップを選んだ。
「何見てんの? 外にプラスチックのコップがあったでしょ。喉乾いたら庭の蛇口で水飲んでいいからね」
庭の方を顎でしゃくりながら、飲み干したコップに二杯目を注ぐ。サイダーを飲み込むルコの細い喉が呼吸する生き物のようにひくひくと動いた。
休憩が終わると、次の仕事は洗車だった。縁側から外に出された僕は、ルコについて表玄関に回る。と、門まで続く石畳の右側に大きな庇の付いた駐車場が見えた。駐車場には外国製の車があった。シルバーの車体は厳めしく、いかにも高級な感じだった。ルコがこの車は父親自慢のベンツだと説明した。洗車道具の入ったバケツを僕に手渡すと、さっさと家に入ってしまった。
まずは水で汚れを洗い落す。特に目立つ汚れがある訳ではなかった。それよりも気になったのは、駐車場のシャッターだった。シャッターは、人が入れない程度の間隔で鉄の棒を横に通しただけのシンプルなものだから、素っ裸のまま洗車させられている僕の姿は外の道路からばっちり見えてしまう。自動車が一台やっと通れるだけの道幅しかない生活道路で、僕がこの駐車場に来てからまだ誰も通っていないけど、それでも安心できるものではないから、車のフロント部分を洗う時は背後の道路が気になって仕方がない。
水洗いを終え、車用のボディシャンプーでたっぷり泡を作り、車のボディをごしごし洗う。脚立に上って柄の付いたブラシで車の屋根をごしごしと擦っている時だった。門の外で誰かがインターホンを押した。ルコが勢いよく出てきて、喜びの声を上げる。
門から入ってきたのは、ルコや僕よりも少し年上と思われる女の人だった。急いで脚立から下り、車の陰で息を潜める。早く二人が家の中に入ればいいのにと思っていると、ルコの「ちょっと待ってて」という声とともに、こちらに向かうサンダルの音がした。ルコは、車の反対側で身を低くくしている僕を見つけて、一瞬立ち止まり不思議そうに首を傾げたが、すぐに駆け寄って、Fちゃんに僕を紹介するんだからと僕の手を引っ張った。僕は立ち上がらず、水浸しのコンクリートに両膝を付けて、おちんちんを自由な方の手でしっかり隠す。夕べから僕が衣類を全く身に纏わぬペットとして扱われているのも、ルコと僕の二人の間だけでのことだった。だからこそ、どんなに恥ずかしくて屈辱的なことであっても我慢してルコに従ってきた。それなのに、突然他の人が参入するのは、ルール違反のような気がした。
恥ずかしがる僕をルコは面白がっているようだった。どうせFさんとかいう女の人に強制的に紹介されてしまうのであれば、剥き出しの肌を隠す布がわずかでもよいから欲しかったけど、ルコは言下に「そんなものないよ」と否定し、今まで沢山の人に見られてきたのに今更裸を恥ずかしがるなんておかしいと僕を非難する。それでも初対面の女の人の前に素っ裸で引き摺り出されるのは、すごく抵抗がある。
「しょうがないなあ」
ボディシャンプーの泡立っているバケツを引き寄せたルコは、渋る僕の体にシャンプーの泡をたっぷり塗り付けた。大きな白い泡が僕の胸や腰の辺りを包み込む。おちんちんもなんとか隠れて見えない。
「これなら恥ずかしくないでしょ?」
僕の返答を待たずに力ずくで車の陰から引き摺り出し、玄関の前で待っている女の人のところへ僕を連れていった。
ルコの従妹だというFさんの顔を見て、あっと思った。向こうでも僕のことがすぐに分かったらしい。僕が母と暮らしていたアパートの近くにFさんの家があり、小学校の時はずっと同じ通学班だった。小学校低学年の頃から僕の面倒をよく見てくれた二つ年上のお姉さん、それがFさんだった。
「ナオス君、変わってないね。ルコのお友達とは知らなかったよ。でも、なんで裸なの?」
裸で泡まみれの僕をじろじろ見るFさんから、昔、通学中に転んで膝を擦り剥いた僕を助け起こしながら「なんで走るのよ」と注意してくれた時と同じような、ほんわかした匂いのようなものが漂ってきた。
久し振りの対面なのに裸でいることが恥ずかしくなってロクに返答できない僕に変わって、ルコが面白おかしく僕のことを説明すると、
「酷いわねえ。幾ら洗車で濡れるからって裸にしなくてもいいのに」
と、くすくす笑いながら僕の後ろに回る。泡で覆ったのは前だけで、お尻はほとんど丸出しだった。はっと気づいたようにFさんがルコの元に駆け寄った。
「やだ。裸って、ほんとに丸裸じゃないの」
「そうだよ。仕方ないじゃん」
「なんで?」
真顔で質すFさんから目を逸らしたルコは、手にしたホースを僕に向けた。勢いよく飛び出した水が見る見るうちに僕の体から泡を流し落としてゆく。慌てておちんちんを手で隠したけど、Fさんの短い悲鳴の方が早かった。
Fさんはルコの世話役として、また遊び相手として、ルコの父親に頼まれて来たのだった。ベンツにせっせとワックス掛けをする僕を見ながら、Fさんとルコはお喋りをしている。僕は、見られそうな時にはおちんちんを股間に挟んだり、片手で隠したりしていたけど、ルコが「片手で適当にやらないで」とか「もっと力を入れなさいよ」と叱声を飛ばすので、その度におちんちんをFさんに見られてしまった。でも、Fさんは表情を変えずにじっと僕から目を離さなかった。小さい頃からよく知っている男の子が自分の従妹の家で全裸のまま車洗いをさられている、という不思議な出来事を事実として受け止めるのには、もう少しここでじっと見つめている必要があるのかもしれなかった。
昼食はFさんが作ってくれた。洗車を終えた僕は家に上がるためにもう一度庭で念入りに体を水洗いをさせられ、足の裏は真っ白になるまで束子でごしごし洗わされた。濡れた体を縁側で乾かしてから、ようやく家に上がれる。それでも、ルコは僕に椅子に座るのを許さなかった。床に置かれた皿にわずかな量のチャーハンが盛られた。四つん這いのまま直接口をつけて食べるようにルコが命じる。
午後はおもに勉強に費やされた。Fさんは高校受験を控えていてかなり気合が入っていた。Fさんと並んでソファに座ったルコは低いテーブルにノートを広げ、夏休みの宿題を片付ける。僕はテーブルの横で四つん這いの姿勢を取らされた。僕の背中に教科書や辞書、ノートが置かれる。テーブル代わりにされている間、僕は床にちらばった英単語や漢字をじっと眺めて暗記することにした。学校以外では全然勉強する時間を与えられないので貴重な機会になったが、時折ルコがおちんちんに手を伸ばして揺さぶったり引っ張ったりしたし、数学で分からないところがあると、苛々して僕のお尻を叩いたり抓ったりするので、なかなか集中できるものではなかった。
背中に置かれた教科書が落ちたら罰を与えると脅かされたので、ルコが気ままに僕の体じゅうをいじり回しても、じっと耐えなければならなかった。数学の問題を解くルコの手がおちんちんに伸びてきて、ゆっくりと扱き始めた。開いた窓から風が吹き抜ける。Fさんがノートに鉛筆を走らせる音や難問に突き当たったルコのうんうん唸る声がはっきり浮かび上がるのは、物音一つしない外の不気味な静けさのせいだった。おちんちんが気持ち良くなっても喘ぎ声を上げるのは憚られる。気まぐれなルコの指の動きに刺激され、すっかり大きくなってしまったおちんちんにFさんがちらりと視線を向けたような気がしたが、何も言わずに黙々と勉強を続ける。四つん這いの姿勢のまま声を出さずに悶える僕を軽蔑しているのかもしれなかった。
ここがルコの家の敷地であることを思い出す。昨夜、四つん這いのまま長い農道を歩かされて、ここまで来たのだった。お尻を高く上げて、ルコが命じた時にはお尻を振った。素っ裸でもう脱ぐ物など糸くず一つ残っていないにも関わらず、全身汗まみれになって暑くて堪らなくなる程、疲れる歩き方だった。途中ルコの計らいによって何度も休みを入れたものたから、家にたどり着いたのはすっかり夜だった。
白いシャツに短パン姿のルコがサンダルを引っ掛けて、母屋から出てきた。伸びをしてから、砂にまみれた僕の方を見て、ゆっくりとこちらに向かう。どこからどこまでがルコの家の敷地なのか明確ではない広い土地の東側に白い砂を敷き詰めた個所があり、僕はそこの砂に体を埋めて眠るように言われたのだった。
「どう? 砂場って案外気持ちよく眠れたでしょ?」
側溝を塞ぐ格子状の蓋に掛けられた南京錠に鍵を差し込み、南京錠を取り外しながら、ルコが訊ねる。ルコは機嫌が良かった。ふんふんと鼻歌を歌いながら側溝の蓋を持ち上げ、中から大きな石を取り出すと、その石に結わいたロープを解く。
「おちんちん、元通りになったね。ちっちゃい」
ふふと笑ってルコがロープを引っ張ると、おちんちんの根元に掛けられた輪がぎゅっと締まり、引っ張られた方向へ腰が突き出てしまう。昨日、注射を打たれて勃起させられたおちんちんは、農道を歩かされている時もまだ収まっていなかった。ものすごく疲れていたので砂場に横たわってすぐに意識を失った僕は、朝になって初めておちんちんが小さくなっていることに気づいた。皮を被って縮こまっているおちんちんをしゃがみ込んだルコが指で弾く。
「Y美からの大切な預かり物だからね。逃げられたら困るの。おしっこ大丈夫?」
「早くしたいです」
立ち上がって歩こうとした僕は、いきなりルコにお尻をぴしゃりと叩かれてしまった。
「ナオス君さあ、ペットなんだよ。忘れちゃ駄目じゃない。四つん這いでしょ」
慌てて四つん這いになった僕は、引っ張られるまま、母屋とは反対側の砂利道を進む。階段を下りて、農耕車が一台通れるくらいの道幅の農道に出ると、電信柱があった。夜と違って朝の明るさの中では田んぼの向こうからでも裸の姿が確実に見えてしまう。ルコは電柱のそばまで僕を引き寄せると、ここでおしっこをするように命じた。
「しっかり足を上げてね。ナオス君はペットなんだからさ」
おしっこなら、人目のつかない場所は幾らでもあるのに、いつ人に見られるか分からない場所でおしっこを強要するとは、しかも犬のように片足を上げさせるとは、あまりに酷いような気がして、ルコが考えを改めるように願いながら許しを乞う。しかし、ルコは頑として譲らなかった。
「言うこと聞かないと、後でもっと辛い思いをするのはナオス君なんだよ」
観念した僕は素直に従わなかったことを詫びてから、皮から亀頭を出そうとしておちんちんへ手を伸ばす。すると、たちまちルコにお尻を平手打ちされた。勝手におちんちんに触るなと言う。僕がおちんちんに手を伸ばした理由を告げると、「どれどれ」と、僕を上半身だけ起こした格好にさせて、皮に包まれたおちんちんを手に乗せてしげしげと見る。
「そっか、おしっこの時は皮を剝くんだ。面倒だね、皮被りの男の子って。でも、犬はさ、おしっこの時、一々剥かないよね。ナオス君もさ、このままおしっこしなよ。ね、ペットなんだからさ」
と、ルコが平然と提案する。なんでこんな変なことをさせたがるだろうかと不思議に思っていると、いきなりサンダルの先っぽでおちんちんの袋を蹴られた。
激痛に頭が真っ白になり、悲鳴を上げて舗装された農道にくの字になって横たわる。涙が流れて止まらない。なかなか去ろうとしない痛みを激しく呼吸をして必死にやり過ごそうとしている僕を見下ろして、ルコが、
「そんなに大袈裟に痛がらなくてもいいでしょうに。ちょっと当たっただけなんだからさ。だいたいこれもナオス君が言うこと聞かないからいけないんだよ」
と、不満げに呟く。
蹴られたおちんちんを摩ったついでにおちんちんの皮から亀頭を出したのがばれて、ルコに皮をうんと引っ張られた。亀頭が完全に皮の中に隠れてしまった。
「これで良し。さ、おしっこしてみて」
観念した僕は、田んぼの向こうで誰かに見られているかもしれない不安に喘ぎながら、命じられた通り、片足を上げて電柱におしっこを出した。朝一番のおしっこだから量が多い。皮に包まれているので、おしっこはスムーズに出ず、皮の中におしっこが溜まると軽い痛みを伴って外に溢れ出した。それも通常のように放物線を描いて出るのではなく、不定形に飛び散る。膝に生暖かい自分のおしっこが当たった。また、皮からこぼれるおしっこもあり、地面に据えた右足の太腿を伝って、小さな水溜りを作った。
「汚いなあ。おしっこでびしょびしょじゃん。ほら、終わったんならしっかりおちんちんを振って、滴を払いなさいよ」
ルコの心底おかしそうに笑う声を聞きながら、蹴られたおちんちんの袋がずきずき痛むのに耐え、片足を上げたままおちんちんを振るう。ルコが青空を見上げて、「今日も一日暑くなりそう」と呟き、ロープを引っ張って歩き出した。僕が電柱の周りを汚してしまったおしっこが気になって振り返ると、ルコは、
「暑いからすぐ乾くよ。それより朝のお散歩ね」
と、なだめて、歩行のペースを速めるのだった。
散歩は、農道から畑を抜けて田んぼの畦道、用水路沿いの遊歩道、昨晩の農道の一部、雑木林の小道を辿るコースだった。散歩の間、僕は一度として二本足で歩行することが許されなかった。人に見られてしまう恥ずかしさで緊張している僕を察して、
「大丈夫だよ。誰か来たら隠してあげるから」
と、ルコが朗らかに笑う。
農道で原動機付き自転車に乗ったおじさんが来た時は、急いで畑の中に入って土の中に身を沈めた。用水路沿いの小道では、行く手に犬の散歩をする三人連れのおばさんが見えた。適当な隠れ場所を探して辺りを見回す僕をルコが用水路に落とした。用水路は意外に深くて僕の首まであり、流れも速かったけど、おちんちんを繋ぎ留めるロープのおかげでかろうじて流されずに済んだ。
大きな石がごろごろ転がる上り坂道を過ぎて平坦な道に入ると、ルコはいろいろな話をするようになった。今日ルコが泊まった家は、ルコの父親が造園の仕事にかこつけたお忍びに使っているもので、ルコにとっては夏休みなどの特別な機会に遊びに行く別荘のようなものとのことだった。いつもはルコの父が女の人を囲って住んでいるのだけど、今週からは旅行で二人とも留守だから、代わりにルコが留守番を頼まれたという。広い敷地の割に母屋は小さいのだが、父親は一人娘のルコがいつでも泊まれるようにルコ専用の部屋を空けてあるそうで、その部屋には父親の愛人が絶対に入らないように父親とルコだけが鍵を持っているという。
父親の愛人には会いたくないルコは、愛人が絶対に来ないと分かっている時にしかこの別荘へ足を運ばない。ルコは学校の近くにある、手狭なアパートに母親と暮らしているのだが、去年の暮に母親がルコとは父親の違う弟を産んでから、いささか状況が変わった。母親の関心がルコからすれば何の愛情も覚えない弟に注がれるようになったばかりか、母親が他の女の人を囲う父親と血の繋がりのあるルコに対して、剣のある物言いをしたり、はっきりと憎悪の籠った視線を向けたりするようになった。ある晩、母親とささいなことから口論が始まり、ヒートアップの挙句、ルコは玄関のドアを蹴っ飛ばすようにして出て行った。向かうところはこの別荘しかなかった。どうか愛人がいないようにと祈ったが、呼び鈴を鳴らすとドアの隙間から顔を覗かせたのは、彼女だった。ルコは食卓の向かいにいる愛人と目を合わすことができなかった。喧嘩の話を聞くと、父親は一も二もなく母親の肩を持ち、ルコを叱った。ルコは愛人が出してくれたお茶や菓子には一切触れず、流し台の蛇口に口を付けてがふがふ水を飲むと、無言で別荘を出た。その晩はミューの家に無理を言って泊まらせてもらった。
「私、自分の居場所がすごく危ないのよ。時々無くなるの」
無理に作ったような笑顔を見せてルコが語った。僕は、ルコの告白に何と答えたら良いのか分からなかった。すると、ルコがいろいろと僕のことを訊ねた。僕が家庭の事情から母親と別れて、Y美の家に居候していることを知ると、
「ナオス君もいろいろ大変だね。でも頑張って」
と、慰め顔に励まし、僕の高く上げさせたお尻を撫で回した。
雑木林の中に入る前、ルコが短パンのポケットから小型のスプレーを取り出し、自分の剥き出しの手足や首回りにかけてから、僕にかけた。僕の場合は全身の肌が露出しているので、スプレーは満遍なくかけられた。虫除けスプレーだった。途中、小道が二手に分かれ、母屋とは反対の方に下る道をルコが選んで進み、雑木林を抜けると、前方に周囲をコンクリートで固めた貯水池があった。
貯水池の前の、木の枝を並べただけの粗末な屋根のあるベンチにルコが腰を下ろす。僕もベンチの端に座ろうとしたら、ルコに「ペットなんだから地面に座りなよ。駄目じゃん、なんで自分が真っ裸で外を歩かされているか、忘れたの?」と叱られてしまった。茶色い土の地面をとんとんと踏み鳴らしてルコが地面に腰を下ろすように促す。僕が両足を揃えて折り曲げ、上半身をルコに傾けて座るのを見届けると、ルコは大きく息を付いた。
「Y美から聞いたんだけど、ナオス君、メライちゃんのこと好きなんでしょ?」
おちんちんを隠す手に思わず力が入った。
「え、別にそんなことは」
適当に誤魔化すと、
「Y美にはバレバレみたいだよ。でも、メライちゃんは、ナオス君がY美とかにいつも裸にされていじめられてるの、知ってんのかな?」
知らないと思う、と答える。或いは薄々感づいているかもしれないけど、僕としては知らないでいて欲しいので、そういう気持ちが勝った回答であった。そんな僕の気持ちを見透かしたのか、ルコはふふと笑って、興味本位の質問を続けた。
「ねえ、これまでメライちゃんにおちんちん見られたことあるの?」
パンツ一枚の姿は、夏のマジックショーの練習でメライちゃんも見慣れていると思う。その際のアクシデントで素っ裸も何度か見られてしまったけど、お尻だけでおちんちんはまだ見られていない。そんな風に返答すると、
「良かったね。好きな子におちんちんとかオナニーさせられてるとことか、見られたくないよね。でも、好きな子の前でパンツ一枚にさせられるのも、辛いかも。メライちゃん、可愛いよね。背丈だけじゃなくて外見もなんとなくナオス君と似てるような気がする。やっぱし自分と似た人を好きになるもんかな。でも絶対、メライちゃんの前では恥ずかしいことされないようにね。私たちにおちんちん丸出しのペットにさせられていることは黙っててあげるからさ」
恩着せがましく、僕の裸の肩をぽんぽん叩いて約束してくれたので、一応、僕も頭を下げたけど、それで僕の不安が解消されることはない。いつも恐れているのは、まさにそのことだった。メライちゃんに屈辱の性的ないじめを受けているところは絶対に見られたくなかった。
「でも、ナオス君でも人を好きになるんだね。こんな風に真っ裸のまま、お尻の穴丸出しにして四つん這いで歩いているナオス君見てるとさ、同級生の男の子って感じがしなくて、ほんとのペットに思えてくるんだよね。ペットが人を好きになるなんて、生意気」
つんつんと僕の背中を人差し指で突っつきながら冷やかして笑う。なんだか恥ずかしくなって体を小さく曲げると、ルコが腕時計を見てベンチから立ち上がった。
散歩から戻った僕は、母屋の脇にある水撒き用の蛇口で念入りに体を洗うように指示された。スポンジと石鹸で泡まみれになって洗う。洗髪用のシャンプーもあった。特に泥だらけの足の裏は束子でごしごしと真っ白になるまで擦った。その後、ルコに体じゅうを検査され、二度洗い直しを命じられて、ようやく母屋に入ることを許された。
リビングの床にはパンと水が置かれていた。夕べは寝る前にお握りを一つ与えられただけだったが、疲れていて食欲はあまり無かった。朝、フローリングの床に座って、ルコの指示通りに手を使わずにパンを齧ると、急にお腹が空いてきた。食卓の下にルコのすらりと伸びた白い足が見えた。コーヒーの良い香りがする。ルコは雑誌をめくりながら目玉焼きを食べていた。僕はルコの近くにすり寄り、パンのお代りをせがんだ。
「駄目。ナオス君、男の子なんだから我慢しなさい」
わざと母親のような口調をしてルコが僕を睨む。それでも食パンの耳を千切って床に置いてくれたので、僕は感謝しながら手を使わずに頂いた。
食事が済み、こまごまとした朝の支度を終えると、ルコは、これから父親から課せられた仕事をするので、その間は僕をペットとしてではなく、普通の男の子として扱うと宣言した。その代わりにルコの手伝いをしなければならない。仕事というのは、この家の掃除だった。ペットとして僕を遇すると言っていたのに、掃除の時だけ二本足歩行を認めて手伝わせるのは、随分と都合のよい話だと思ったけど、勿論文句を言える筋合いはない。僕は立ち上がって、反射的におちんちんを手で隠し、ルコの指示を仰いだ。
ルコの声の調子が真面目な、きびきびしたものになった。面倒なことは手っ取り早く片付けようする意志がルコを真剣にさせたようだった。しかし、僕はルコのようには真面目になれなかった。ルコと目が合うと窓の外を見たり、もじもじしたりして落ち着きのない態度が出てしまった。ペット扱いされている時には感じないようにしていた恥ずかしさがこみ上がってきたのだった。掃除の間は僕を普通の男の子にしてくれる約束なのに、それでも素っ裸のままなのだろうか。僕は勇気を出して、恐る恐るルコに何か着る物を与えて欲しいと嘆願した。ルコは目を丸くして驚いた。
「えー、そんなの無理だよ。第一、ここにはナオス君の着る物なんかないし、それに私言ったよね、ここにいる間はお洋服が着れないからって。いいじゃん、別に。裸でいなよ。今更恥ずかしがるなんて変だよ。はっきり言って私、ナオス君の体で見てないところなんて一つもないんだよ。なんで服を着たいなんて言うの?」
喋りながら次第に不機嫌になってくる。僕はすぐに謝ったが、ルコはかねがねY美から僕が詫びを入れる時にはどんなことをさせているかを聞いていたので、
「全然駄目。謝る時はY美にしてるようにしなきゃ。ちゃんと知ってんだよ」
と、土下座を要求した。僕はルコが納得するまで土下座をし、「我儘言って申し訳ございませんでした。素っ裸のまま掃除をすることを誓います」と、ルコが強要する口上を何度か述べさせられた。
リビングと上がり框の床掃除と窓拭きが僕の任された仕事だった。ぴかぴかになるまで磨いてね、とルコが念を押した。性的な辱めを受けるよりは、言いつけられた仕事をこなす方がどれだけ良いか分からない。しかも床掃除や窓拭きに意識を集中すれば、自分が衣類を没収されて丸裸のままいるしかない惨めな立場であることを忘れられる。Y美の家において家事の手伝いや掃除は僕の日課でもあるけど、そのような仕事は、Y美が思っているであろう程には僕に苦痛を与えていない。母親と離れて暮らし、性的に弄ばれる辛い現在を忘れることができるのであれば、どんな労働をも僕は喜んでやる。
台所と寝室、自分の部屋の掃除を終えてリビングに戻ってきたルコは、床を見回して、
「すごーい。ほんとにぴかぴかになってる。ナオス君、裸んぼのまま頑張った甲斐があったね」
と、感嘆の声を上げた。上り框の床掃除と窓拭きもルコを満足させる出来映えだった。誉められて悪い気がしない僕は、「恐れ入ります」と返す代わりに軽く頭を下げる。
「休憩しよっか。休憩休憩」
前掛けを外したルコは、それを無造作に椅子の背もたれに掛け、冷蔵庫をあけてサイダーを取り出すと、戸棚からガラスがツイストした形のコップを選んだ。
「何見てんの? 外にプラスチックのコップがあったでしょ。喉乾いたら庭の蛇口で水飲んでいいからね」
庭の方を顎でしゃくりながら、飲み干したコップに二杯目を注ぐ。サイダーを飲み込むルコの細い喉が呼吸する生き物のようにひくひくと動いた。
休憩が終わると、次の仕事は洗車だった。縁側から外に出された僕は、ルコについて表玄関に回る。と、門まで続く石畳の右側に大きな庇の付いた駐車場が見えた。駐車場には外国製の車があった。シルバーの車体は厳めしく、いかにも高級な感じだった。ルコがこの車は父親自慢のベンツだと説明した。洗車道具の入ったバケツを僕に手渡すと、さっさと家に入ってしまった。
まずは水で汚れを洗い落す。特に目立つ汚れがある訳ではなかった。それよりも気になったのは、駐車場のシャッターだった。シャッターは、人が入れない程度の間隔で鉄の棒を横に通しただけのシンプルなものだから、素っ裸のまま洗車させられている僕の姿は外の道路からばっちり見えてしまう。自動車が一台やっと通れるだけの道幅しかない生活道路で、僕がこの駐車場に来てからまだ誰も通っていないけど、それでも安心できるものではないから、車のフロント部分を洗う時は背後の道路が気になって仕方がない。
水洗いを終え、車用のボディシャンプーでたっぷり泡を作り、車のボディをごしごし洗う。脚立に上って柄の付いたブラシで車の屋根をごしごしと擦っている時だった。門の外で誰かがインターホンを押した。ルコが勢いよく出てきて、喜びの声を上げる。
門から入ってきたのは、ルコや僕よりも少し年上と思われる女の人だった。急いで脚立から下り、車の陰で息を潜める。早く二人が家の中に入ればいいのにと思っていると、ルコの「ちょっと待ってて」という声とともに、こちらに向かうサンダルの音がした。ルコは、車の反対側で身を低くくしている僕を見つけて、一瞬立ち止まり不思議そうに首を傾げたが、すぐに駆け寄って、Fちゃんに僕を紹介するんだからと僕の手を引っ張った。僕は立ち上がらず、水浸しのコンクリートに両膝を付けて、おちんちんを自由な方の手でしっかり隠す。夕べから僕が衣類を全く身に纏わぬペットとして扱われているのも、ルコと僕の二人の間だけでのことだった。だからこそ、どんなに恥ずかしくて屈辱的なことであっても我慢してルコに従ってきた。それなのに、突然他の人が参入するのは、ルール違反のような気がした。
恥ずかしがる僕をルコは面白がっているようだった。どうせFさんとかいう女の人に強制的に紹介されてしまうのであれば、剥き出しの肌を隠す布がわずかでもよいから欲しかったけど、ルコは言下に「そんなものないよ」と否定し、今まで沢山の人に見られてきたのに今更裸を恥ずかしがるなんておかしいと僕を非難する。それでも初対面の女の人の前に素っ裸で引き摺り出されるのは、すごく抵抗がある。
「しょうがないなあ」
ボディシャンプーの泡立っているバケツを引き寄せたルコは、渋る僕の体にシャンプーの泡をたっぷり塗り付けた。大きな白い泡が僕の胸や腰の辺りを包み込む。おちんちんもなんとか隠れて見えない。
「これなら恥ずかしくないでしょ?」
僕の返答を待たずに力ずくで車の陰から引き摺り出し、玄関の前で待っている女の人のところへ僕を連れていった。
ルコの従妹だというFさんの顔を見て、あっと思った。向こうでも僕のことがすぐに分かったらしい。僕が母と暮らしていたアパートの近くにFさんの家があり、小学校の時はずっと同じ通学班だった。小学校低学年の頃から僕の面倒をよく見てくれた二つ年上のお姉さん、それがFさんだった。
「ナオス君、変わってないね。ルコのお友達とは知らなかったよ。でも、なんで裸なの?」
裸で泡まみれの僕をじろじろ見るFさんから、昔、通学中に転んで膝を擦り剥いた僕を助け起こしながら「なんで走るのよ」と注意してくれた時と同じような、ほんわかした匂いのようなものが漂ってきた。
久し振りの対面なのに裸でいることが恥ずかしくなってロクに返答できない僕に変わって、ルコが面白おかしく僕のことを説明すると、
「酷いわねえ。幾ら洗車で濡れるからって裸にしなくてもいいのに」
と、くすくす笑いながら僕の後ろに回る。泡で覆ったのは前だけで、お尻はほとんど丸出しだった。はっと気づいたようにFさんがルコの元に駆け寄った。
「やだ。裸って、ほんとに丸裸じゃないの」
「そうだよ。仕方ないじゃん」
「なんで?」
真顔で質すFさんから目を逸らしたルコは、手にしたホースを僕に向けた。勢いよく飛び出した水が見る見るうちに僕の体から泡を流し落としてゆく。慌てておちんちんを手で隠したけど、Fさんの短い悲鳴の方が早かった。
Fさんはルコの世話役として、また遊び相手として、ルコの父親に頼まれて来たのだった。ベンツにせっせとワックス掛けをする僕を見ながら、Fさんとルコはお喋りをしている。僕は、見られそうな時にはおちんちんを股間に挟んだり、片手で隠したりしていたけど、ルコが「片手で適当にやらないで」とか「もっと力を入れなさいよ」と叱声を飛ばすので、その度におちんちんをFさんに見られてしまった。でも、Fさんは表情を変えずにじっと僕から目を離さなかった。小さい頃からよく知っている男の子が自分の従妹の家で全裸のまま車洗いをさられている、という不思議な出来事を事実として受け止めるのには、もう少しここでじっと見つめている必要があるのかもしれなかった。
昼食はFさんが作ってくれた。洗車を終えた僕は家に上がるためにもう一度庭で念入りに体を水洗いをさせられ、足の裏は真っ白になるまで束子でごしごし洗わされた。濡れた体を縁側で乾かしてから、ようやく家に上がれる。それでも、ルコは僕に椅子に座るのを許さなかった。床に置かれた皿にわずかな量のチャーハンが盛られた。四つん這いのまま直接口をつけて食べるようにルコが命じる。
午後はおもに勉強に費やされた。Fさんは高校受験を控えていてかなり気合が入っていた。Fさんと並んでソファに座ったルコは低いテーブルにノートを広げ、夏休みの宿題を片付ける。僕はテーブルの横で四つん這いの姿勢を取らされた。僕の背中に教科書や辞書、ノートが置かれる。テーブル代わりにされている間、僕は床にちらばった英単語や漢字をじっと眺めて暗記することにした。学校以外では全然勉強する時間を与えられないので貴重な機会になったが、時折ルコがおちんちんに手を伸ばして揺さぶったり引っ張ったりしたし、数学で分からないところがあると、苛々して僕のお尻を叩いたり抓ったりするので、なかなか集中できるものではなかった。
背中に置かれた教科書が落ちたら罰を与えると脅かされたので、ルコが気ままに僕の体じゅうをいじり回しても、じっと耐えなければならなかった。数学の問題を解くルコの手がおちんちんに伸びてきて、ゆっくりと扱き始めた。開いた窓から風が吹き抜ける。Fさんがノートに鉛筆を走らせる音や難問に突き当たったルコのうんうん唸る声がはっきり浮かび上がるのは、物音一つしない外の不気味な静けさのせいだった。おちんちんが気持ち良くなっても喘ぎ声を上げるのは憚られる。気まぐれなルコの指の動きに刺激され、すっかり大きくなってしまったおちんちんにFさんがちらりと視線を向けたような気がしたが、何も言わずに黙々と勉強を続ける。四つん這いの姿勢のまま声を出さずに悶える僕を軽蔑しているのかもしれなかった。
100件目の更新おめでとうございます。
自分は途中から拝見してますが、月日がたつのは本当に早いですね。
来年1年間もこのブログを拝見させていただきますのでよろしくお願いします。
それでは良いお年を。
あけましておめでとうございます。
本年が良い年となりますよう、また
今年も息長く連載を続けて頂けますよう、
陰ながらご祈念申し上げます。
コメント、ありがとうございます。
1月はすっかり怠けてしまいました。
やっと更新できました。
皆様のあたたかいコメントは、とても嬉しいです。
まだまだ話は続きますので、今年も懲りずにお付き合いいただければ幸いです。
そろそろメライちゃんとのエピソードに戻したいと思っています。
いったん寄り道するとなかなか戻れなくなってしまうのが悲しいですね。