長内那由多のMovie Note

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『ラクパ・シェルパ:エベレストの女王』

2025-01-17 | 映画レビュー(ら)

 未だ見ぬ驚くべき人物と巡り会えるのがドキュメンタリーの魅力の1つだ。ラクパ・シェルパが女性として最多9回のエベレスト登頂記録を持つことを、世界中の多くの人が知らなかった。本作はさらに10回目となる登頂に密着しながら波乱の人生を解き明かしていく。

 ネパールの少数民族シェルパに生まれたラクパは、多くがお見合い結婚をする風習の中、山を愛し、性別を偽ってエベレスト登山者の荷物運びとして青春時代を送る。そしてネパール人女性として初となるエベレスト登頂と生還に成功。多くの人が自尊心を得るためスポーツや芸術に取り組むが、ラクパにとってそれはエベレストの登頂だったのだ。以後、彼女は人生の困難に直面する度に山と対峙していく。

 天真爛漫、エネルギッシュなラクパに誰もが魅せられずにいられない。しかし一度、山を降りればアメリカの小都市に暮らす名もなきDV被害者である。ルーマニア人登山家だった夫との結婚生活、子どもたちに与えてしまったトラウマは8000メートルの登頂以上に困難を極めた。中でも物心がついた頃には父の暴力を目の当たりにしていたであろう長女の暗い眼差しは痛ましい。強靭なラクパだからこそ長年に渡り問題を抱え込んでしまったのではないだろうか。エベレストにすら拮抗する破格の人間性に圧倒される1本である。


『ラクパ・シェルパ:エベレストの女王』24・米
監督 ルーシー・ウォーカー

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