2年にも渡りベルリンの高級娼館で娼婦として潜入取材したエマ・ベッケルの小説“La Maison”は、フランスで賛否両論を巻き起こし、ベストセラーになったそうだが、アニッサ・ボンヌフォン監督はその魅力を掬い上げているとは言い難い。
主人公エマは2冊の小説を上梓したものの、未だ駆け出しの作家。妹を頼ってベルリンを訪れた彼女は、興味本位で娼館での潜入取材を始める。当初は人間の欲望をテーマに構想していたが、それぞれに事情を抱え、自身の肉体の自由を行使する娼婦たちの姿にやがてエマは心打たれていく。映画としても2010年代後半からのアイデンティティポリティクスにおいても目新しさはなく、こんなことを2年もかけなければ理解できないヒロインの小説家としての不見識に目眩がする(エマの成長と気付き、娼婦仲間たちの素顔に焦点が当てられるべきと思うが、そもそも原作にもその視座はないのかもしれない)。
娼婦という言葉の扇情性と、エロチックなフランス映画が未だ神通力を持ち、本国とタイムラグなく輸入される本邦の市場に閉口するばかりである。
『ラ・メゾン 小説家と娼婦』22・仏、ベルギー
監督 アニッサ・ボンヌフォン
出演 アナ・ジラルド、オーレ・アッティカ、ロッシ・デ・パルマ
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