1958年、バージニア州に暮らすリチャード・ラビングは長年の恋人ミルドレッドから妊娠を告げられ、結婚を申し込む。しかし、当時の州法では白人と黒人による異人種間の結婚は禁止されていた。2人はワシントンで式を挙げた後、極秘裏にバージニア州での新婚生活を始める…。
ジェフ・ニコルズが2016年に手掛けた『ラビング』は、BLMやMe tooに代表される2010年代後半アイデンティティポリティクスの時代を先駆け、気鋭の先見性を証明している。だがニコルズの声はずっとひそやかだ。ただ愛し合う者と連れ添いたいと願うラビング夫妻の慎ましやかな人間性を捉え、彼らの目線を通じて時の公民権運動に併合されていく時代の転換点を描き出している。不器用ながら実直なリチャードに扮したジョエル・エドガートンは好調続きのフィルモグラフィでもとりわけ目を引く好演。時代に翻弄され、やがて大地に根を下ろすかのような逞しさを獲得するミルドレッド役ルース・ネッガはアカデミー主演女優賞にノミネートされた。
然るべき語りの速度、偏見と実直が混在するアメリカのランドスケープ、抑制された名演を揃える『ラビング』は名匠の仕事とも言うべき堂々たる仕上がりである。しかし、ニコルズの才能がさらなる結実を見るのは『ザ・バイクライダーズ』まで7年を待つことになる。
『ラビング 愛という名前のふたり』16・英、米
監督 ジェフ・ニコルズ
出演 ジョエル・エドガートン、ルース・ネッガ、マートン・ソーカス、ニック・クロール
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