長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『クロース』

2020-03-11 | 映画レビュー(く)

 常勝ピクサーによる『トイ・ストーリー4』のオスカー獲得によって幕を閉じた2019年の長編アニメ賞レースだが、印象に残ったのは新興勢力の台頭だった。ゴールデングローブ賞を獲ったのはストップモーションアニメの名門LIKAによる『Missing Link』。ディズニーによる大ヒット作続編『アナと雪の女王2』は野心的ストーリーながらオスカー候補から落選し、代わってノミネートされたのはカンヌ映画祭で絶賛されたフランス産『失くした体』、そしてアニー賞を席巻したスペイン産『クロース』とNetflix配給による2作品だった。

 主人公ジェスパーは親の七光りでぐうたら暮らすポストマン見習い。将来を危惧した親によって北方の寒村へ唯一の郵便局員として派遣される。そこは2つの部族が争いを繰り広げる無法地帯だった。一通も受託できない郵便事情に肩を落とすジェスパーだったが、町外れに住む孤独なおもちゃ職人クロースと出会いによって事態は大きく変わっていく。

 セルジオ・パブロス監督は現代的な視座でサンタクロースの物語を再構築しており、それはサンタを信じる子供を描く事でもある。既に憎しみの理由すらわかっていない大人たちを尻目に、プレゼントが欲しい子供たちはまず壁を取り払って隣人へ親切を働き、サンタへ手紙を書くため自ら学校に通い、奪われた教育を取り戻す。やがてその無邪気さは社会に健全さを取り戻すのだ。危機に際して子供の権利から制限するような社会に生きる僕たち大人がこの映画から得るものは大きい。子供を大切にできない社会に未来があるだろうか。

 近年、珍しくなった手書きアニメーションの優しいタッチはユーモラスでいて時にスリリング、そして神秘的な瞬間を描出することに成功しており、本作を忘れ難いクリスマスストーリーとしている。今後、アニメスタジオとしてもNetflixは躍進していく事だろう。


『クロース』19・スペイン
監督 セルジオ・パブロス
出演 ジェイソン・シュワルツマン、J・K・シモンズ、ラシダ・ジョーンズ

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