1988年の大統領選挙で民主党の最有力候補と目されたゲイリー・ハート議員。彼が不倫スキャンダルによって僅か3週間で選挙戦撤退に追い込まれた事件を描くジェイソン・ライトマン監督作だ。キャリア初期に見られた軽やかさは見られないが、70~80年代の社会派映画を思わせる映像ルックと、ベン・ブラッドリー率いるワシントンポストの登場に彼の志向が伺えるオールドスタイルの1本である。
2014年に上梓されたマット・バイトの原作はおそらく報道のワイドショー化や、リベラルへの失望に関心が寄せられていたのではないかと予想できるがライトマンは自ら脚本も手掛け、本作公開の前年に誕生したドナルド・トランプ大統領へのカウンターを食らわせている。ヒュー・ジャックマンが演じるハートは現在の視点でも有力な政策を打ち出し、その若さとルックスで大衆人気を集めるが女性関係にはだらしがなく、既に妻とも別居状態にあった。ハートは事もあろうにクルーズ船パーティで知り合った女性と関係を持ち、自宅へ連れ込んだ所をマスコミに押さえられたのだ。
2019年の『バッド・エデュケーション』でも公金横領を働いたソシオパス教師役で新境地を発揮しているヒューは、ここでも人格破綻者を意欲的に演じている。ハートは現場を押さえたマスコミに対して逆上し、徹底抗戦の構えを取る。世論も“プライベートと政治は関係ない”と6割が支持するが、果たして本当にそうだろうか?ライトマンはハートその人よりも彼を取り巻く選対チーム、マスコミの描写に時間をかけ、それらの組織で紅一点の女性達から“政治家の資質”を問い質す。ハートは愛人をマスコミのスケープゴートにし、疑惑の目を逸らしたのだ。たった1人の相手とはいえ、不貞行為で人を傷つける不誠実な人物が政治家として正しいのか?それは数々の性的暴行を告発されながら未だ大統領の座に居続けるトランプを指摘し、哀しいかな本邦も非常に耳の痛い話ではないか。公開当初こそ評価の定まらなかった本作だが、米大統領選の年に見直されてもいいだろう。
『フロントランナー』18・米
監督 ジェイソン・ライトマン
出演 ヒュー・ジャックマン、ヴェラ・ファーミガ、ケイトリン・デヴァー、J・K・シモンズ
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