長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『博士と彼女のセオリー』

2018-10-03 | 映画レビュー(は)

宇宙物理学者ホーキング博士の半生を描く伝記映画。アカデミー賞にノミネートされた『イミテーション・ゲーム』とはまさに英国物理学史の陰と陽とも言える関係であり、共に史実へのシンプルなアプローチによって偉人伝の間口を広げている。あちらがミステリーならばこちらはホーキング夫人の視線を借りた闘病ラブストーリーといった所か。

原題“The Theory of Everything”はホーキング博士が提唱した「統一理論」を指すが、劇中で研究についての言及はほとんどない。原作は25年連れ添った妻ジューンの手記によるもので、大恋愛の末に三子をもうけながらも結婚生活にピリオドを打たざるを得なかった夫婦関係についての描かれている。子育てと介護で忙殺されたジューンとホーキング博士が関係性の維持のために第3の男を招き入れたというエピソードは特異だ。果たしてホーキングはどんな苦悶を感じたのか、敬虔なクリスチャンであるジューンの宗教倫理的葛藤はいかばかりだったのか。物語の重心ともなるべき要素にツッコミ切れない作りの甘さも『イミテーション・ゲーム』と共通する。

若干32歳の若さでアカデミー主演男優賞に輝いたエディ・レッドメインはALSによって体の自由を奪われていくホーキング博士の病状を完全に再現した見事な熱演だが、これはやり尽くされた演技ではないか。オスカーは未だこういう熱演に弱い。五体の自由を奪われながら宇宙の起源を追及する彼のエネルギーはいかばかりの物だったか。博士の研究よりも夫婦生活に的を絞った結果、ホーキング博士を描き切れていないのだ。

『今日、キミに会えたら』以後、好演の続くフェリシティ・ジョーンズは本作でアカデミー主演女優賞にノミネートされ、ブレイクを果たした。ホーキングの父へ結婚の決意を伝えるシーンの可憐な健気さが涙を誘う。

美談ではない夫婦性愛は興味深いが、知れば知るほどこの映画だけでは物足りなく感じてしまった。

『博士と彼女のセオリー』14・英
監督 ジェームズ・マーシュ
出演 エディ・レッドメイン、フェリシティ・ジョーンズ、チャーリー・コックス、エミリー・ワトソン、サイモン・マクバーニー
 

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