2019年の新作『ウェイブス』で旋風を巻き起こしたトレイ・エドワード・シュルツ監督の2017年作はコロナウィルスが猛威を振るう2020年の今、見る事はオススメできない。謎の奇病が蔓延した世界を舞台に、人里を離れて生きる一家を描いた本作はほとんど説明がなく、耳の良い音響設定と自然光のみで撮り上げた夜間撮影の暗さが見る者にストレスを与え続ける心理ホラーだ。
一家は森の奥深くにある一軒家で自給自足の生活を送っている。一階には外に通じる赤く塗られた扉があり、夜は必ず鍵を掛けなくてはならない。外に出る時にはマスクを付けるが、そのルールは不明瞭でこれも大きなストレスだ。そこへもう一組の家族が現れ、共同生活が始まる。若い夫婦と小さな子供の感じの良い一家だが、ジョエル・エドガートン扮する父は彼らを信用するなと言う。
一つ屋根の下で暮らしながら他者を全く受け容れない姿は2017年の分断の風景であり、曖昧な感染ルールはその憎しみの根拠の曖昧さかも知れない。しかしコロナショックの現在、医療従事者を拍手で送り出す各国の様子を見ていると、医療機関に対して風評被害が起きるという本邦の方がよほどこの映画の空気に近いだろう。恐怖描写の巧さはもとより、作家主義のホラーであることに製作A24のスタイルを見る1本である。
『イット・カムズ・アット・ナイト』17・米
監督 トレイ・エドワード・シュルツ
出演 ジョエル・エドガートン、クリストファー・アボット、カルメン・イジョゴ、ケルヴィン・ハリソンJr.、ライリー・キーオ
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