16世紀にイングランドの覇権を巡って争いを繰り広げたメアリー・スチュアートとエリザベス1世を描くかのような邦題だが、原題は”Mary Queen of Scots”。シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビーという前年『レディ・バード』『アイ、トーニャ』でオスカーを競った最旬女優競演作と見せかけて実質ローナンの単独主演作である。
嫁ぎ先のフランスで夫に先立たれたメアリーが再びスコットランドの地を踏む所から映画は始まる。真のイングランド継承権を主張した彼女を潰そうとエリザベスは数々の陰謀を張り巡らすが、メアリーはその聡明さで罠をかいくぐっていく。ジョン・ガイによる原作小説を『ハウス・オブ・カード』のショーランナーとして知られるビュー・ウィリモンが脚色した。
現代アメリカ政治をシェイクスピア劇風に描いてきたウィリモンが、当の16世紀を描けば多分に現代のポリティカルコレクトネスが盛り込まれる。男だらけの陰謀渦巻く宮廷でサバイブしなくてはならない女王2人には未だ男性社会の論理を押し付けられる現代女性の姿がダブり、最後には連帯の意志を見せる場面も用意されている。鉄の意志を持ったメアリーにエリザベスが憧れと嫉妬を抱いていたという解釈も面白い。英国演劇界出身であるジョージー・ルーク監督は女王以外の男性全員に黒づくめという衣装演出を施し、(とりわけ日本では)スーツ姿の男性社会で孤立する女性の姿が想起させられる。
一方で意図が前面に出過ぎてしまったのが人種に捉われない(Colour Blind)キャスティングだ。ジェンマ・チャンやエイドリアン・レスターら16世紀の宮廷には存在しなかった人種が配されているが、これはヨルゴス・ランティモスが『女王陛下のお気に入り』で見せた”時代考証無視”というリアリティレベルを設定しなければ成立しない(特にチャンはセリフもなく、意味深に映るだけである)。これがシェイクスピア劇や『美女と野獣』といったファンタジー作品ならばアリだが、本作はあくまで史劇である。現代的な解釈は小手先の演出ではなく、脚本から見出すべきだった。
オスカーにもノミネートされた衣装を着こなし、まるで肖像画から抜け出たかのようなローナンは大女優へのステップをまた1段上がった感があり、ぜひとも年齢を重ねてからのコスチュームプレイも見たいと思わせてくれた。マーゴット・ロビーは出番が少ないながらもケイト・ブランシェット版とは真逆の気弱で繊細なエリザベス女王像を作り上げ、芸風の広さを見せている。
『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』18・米、英
監督 ジョージー・ルーク
出演 シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビー、ジャック・ロウデン、ジョー・アルウィン、デヴィッド・テナント、ガイ・ピアース
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