長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『オザークへようこそ シーズン3』

2020-04-02 | 海外ドラマ(お)
※このレビューは物語の結末に触れています※

 麻薬カルテルの資金洗浄に手を染めてしまった一家の地獄巡りを描く本作は前シーズンで主演のローラ・リニー以下、女たちのハードボイルドな犯罪ドラマへと変貌し、先行する同ジャンル作品『ブレイキング・バッド』『ベター・コール・ソウル』等との差別化が見られてきた。

 今シーズンではそれが一層、押し進められ女性キャラクター達に大きな見せ場が用意されている。リニー扮するウェンディは自分の能力を発揮できるドラッグビジネスに居場所を見出し、今にも「I am the danger」と言い出しかねない程の暴走ぶりだ。がらっぱちな田舎訛りが心地良いジュリア・ガーナー演じるルースは恋に落ち、新たな一面を見せていく。前シーズンで初登場したカルテルの弁護士ヘレン(ジャネット・マクティア)も出番を増し、渋い存在感でドラマを引き締める。力を削がれたとはいえ、地元オザークの麻薬王ジェイコブの妻ダーリーン(リサ・エメリー怪演)も無視できない。
 彼女らに囲まれると主人公マーティ(ジェイソン・ベイトマン)は無個性で魅力に乏しく、ウェンディには無能と蔑まれ、カルテルからは解雇(抹殺)寸前。ろくろく見せ場もない有様だ。

 『オザークへようこそ』は圧倒的にユーモアに乏しいが(ダニー・トレホの首を亀が運んでくるようなシーンはない)、アドレナリンを欲している人には打ってつけだろう。今回も10話をビンジさせるだけの胆力あるサスペンス演出であり、特に冒頭2話を手掛ける主演・監督兼任ジェイソン・ベイトマンは熟練の手管である。画面を寒々しいブルーでコーディネートし、足し引きの計算されたサスペンスには思わず身を乗り出してしまう。特に今シーズンのMVPとも言えるトム・ペルフリーが初登場する第2話のアヴァンタイトルは素晴らしい。前シーズンでは『ゲーム・オブ・スローンズ』を制してエミー賞で監督賞も受賞し、まさかの監督として脂がのってきた。

 そう、今回の目玉はトム・ペルフリーだ。ウェンディの弟ベンに扮し、第2話からオザークに現れる彼が徐々にサスペンスの中心となっていく。正義感が強く、荒くれ者のルースを口説く肝の据わった好漢だが、精神疾患を抱えており、姉夫婦の裏の顔を知った事からそのバランスを欠いていく。ペルフリーはベンを魅力的な人物として演じており、そんな彼が居場所を無くしていく終盤の姿は痛ましい(マイケル・ファスベンダーを思わせる力演)。この制御不能な人物の存在が理詰めで物語を進めていく本作において最大の不確定要素となり、その緊張感は登場人物全員が奈落に直面する第8話でピークに達する。

 それゆえに彼を退場させてから残り2話のスタミナ不足が目立った。特に重要な心理描写が展開する第9話は『ベター・コール・ソウル』最新シーズンが配信されている今、かなり物足りなく感じる。物語が振り出しに戻ってしまったかのようなクライマックスには食傷感も覚えてしまった。製作陣はペルフリー退場のタイミングを見誤ったのではないか。

 現在、『ウエストワールド』のシーズン3がこれまでと全く違うルックで登場し、『ウォッチメン』が毎話新たな次元へと誘うストーリーテリングで視聴者を魅了してフィナーレを迎えた。そして『ベター・コール・ソウル』がそのグレードを高め続ける中で、ファンの期待するものをそのまま提供し続けるドラマは古いのではないだろうか。『オザークへようこそ』には素晴らしい演技とサスペンスがあるが、ポスト『ブレイキング・バッド』としてはその差が開いてしまった感は否めない。


『オザークへようこそ』20・米
製作 ビル・ドゥビューク
出演 ジェイソン・ベイトマン、ローラ・リニー、ジュリア・ガーナー、ジャネット・マクティア、トム・ペルフリー、リサ・エメリー

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『アンオーソドックス』 | トップ | 『ディス・イズ・ジ・エンド... »

コメントを投稿

海外ドラマ(お)」カテゴリの最新記事