前回書いたドラマ「瞳の奥に」について改めて考察してみたいと思います。
ここからはネタバレ全開で行くので、未見の人は注意。面白いドラマなのでぜひ先入観なしで見てください。
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これは複雑に入り組んだミステリーです。
誰がロブを殺したのか?
これが一番大きな謎です。
ストーリーは主に二人の女性の視点で語られます。
ルイーズとアデル。
ルイーズは7歳の息子を育てているシングルマザー。精神科クリニックの秘書をしています。
アデルはそのクリニックで働く精神科医デイビッドの妻。
ある日、ルイーズはバーで見知らぬ男と知り合い、意気投合してキスまでしてしまいますが、その男こそ新しくクリニックに赴任してきた精神科医デイビッドなのでした。
数日後、ルイーズは道端でばったりと彼の妻アデルとぶつかります。
アデルがどうしてもと誘うので、ルイーズは一緒にカフェに行き、それ以来、アデルとも付き合い始めます。
やがて、ルイーズはデイビッドと深い仲になり、アデルとも友人として付き合う、という奇妙な三角関係に発展していきます。
ルイーズは、アデルがデイビッドの妻と知りながらずるずると三角関係を続けてしまいます。
そして、ついに夫の不倫を知ったアデルの復讐劇が始まり・・
というのが、メインのストーリーライン。
所々にアデルの回想シーンが挟まれます。
そこに登場するのが、ロブ。
アデルとロブは若い頃、精神科の療養施設で過ごしたことがあり、親しい友人同士でした。その頃の回想シーンです。
アデルにはすでにデイビッドという婚約者がいて、近々結婚することになっていました。
ところが、ある日突然ロブが死にます。
ロブの死を巡って、アデルとデイビッドの仲は複雑な様相を呈し始めます。
だれがロブを殺したのか?
それがこのミステリーのメインテーマ。
翻って現在に戻り、アデルはどのようにして夫の不倫を知ったのか、相手がルイーズであるとなぜわかったのか?
これが現在時点での謎です。
5話目になってようやくその種明かしがされますが、それが「幽体離脱」。
アデルはロブと共に何度か幽体離脱の実験をしていたのでした。
アデルは時々幽体離脱をして夫の動向を監視していたというわけ。
次第にアデルの異常さが鮮明になってきます。
これってサイコサスペンスの醍醐味よね、アデルってそういう怖い女なのね、と視聴者に思わせます。
ところが、最終話(6話)の最後の最後になって、大きなどんでん返しがあります。
ここまでくる間、視聴者はすっかり騙されているので、にわかには信じられないのですね。
私も二度見して初めて、ああそうだったのか、と思いました。
二度見ると、最初は「図」だったものが、突然「地」に変わる瞬間を味わうことになります。
まさにルビンの壺の「図と地」の変換です(1月20日の記事参照)。
この物語、実はロブの視点で描かれていたのです。
これは、ルイーズとアデルの物語に見せかけたロブの物語なのです。
ここが非常にトリッキーなところで、巧妙に仕掛けられた罠に最後の最後でようやく気づく仕掛けになってはいるのですが、ずっとアデルがサイコパスだと思い込んでいた視聴者はなかなか納得できません。
でも二度見すると、回想シーンがすべてロブの視点で語られていることがよくわかります。
最後のどんでん返しというのはこう。
アデルとロブは何度か幽体離脱を試した後で、体を入れ替わってみようということで、互いの体を入れ替わります。
つまり、ロブの魂(幽体)がアデルの体に入り、アデルの魂はロブの体に入る。互いの体を交換する。
そして、入れ替わった直後に、アデルになったロブはロブ自身の体にヘロイン注射をしてロブ(になったアデル)を殺します。
そして、ロブの体を井戸に放り込み、アデルになりすまします。
なぜなら、ロブはゲイでデイビッドに一目ぼれしたから。デイビッドがどうしても欲しいと思ったから。
アデルとデイビッドが結婚したのはこの後のこと。
つまり、デイビッドが結婚したアデルは実はロブであり、ルイーズとデイビッドの不倫を(幽体離脱を使って)突きとめたのもアデルになりすましたロブ。そして最終的にロブはアデルの体も捨てて、ルイーズの体に入り込み、再びデイビッドと結婚した・・。
つまり、すべてはロブの物語だったのです。
主人公はロブだった!
ロブを殺したのはロブ自身だった!
アデルとルイーズとデイビッドの三角関係不倫ドラマに見せかけて、実はジャンキーで底辺の暮らしから何とかして抜け出し、のし上がろうとしたロブの物語だったのだ、と最後の最後で種明かしをするわけです。
さらにそれは、テーマ自体のどんでん返しでもあるわけです。
金持ちエリート夫婦の不倫ドラマと見せかけて、実は社会の底辺で苦しんできたジャンキーの物語であったのだと。
まさに「図と地」の変換ね。
なんて見事なトリックだろう。
この先の展開は大体予想がつきますね。
ルイーズの息子アダムはママが本当のママではないと気づいているし、ルイーズの元夫も何か変だと気づいています。
鈍感なデイビッドもやがてルイーズが変わったことに気づき、二人は末永く幸せに暮らしましたとさ、とはならない。
かわいそうなデイビッド。
彼は医者なので幽体離脱なんて信じない。なので、いつまでたってもなぜアデルが変わったのか、なぜルイーズが変わったのか、理解できない。
イケメンでカッコいいエリート精神科医のかわいそうな末路・・。
ちょっといい気味、ね。
そもそも、結婚生活というのは変質するもの、いずれ何らかの要因(浮気・DV・性格の不一致、無関心その他諸々)によってかき乱されるもの、という教訓も読み取れますね。
結婚を長続きさせたかったら、相手をきちんと理解する必要があること、そして、もしも相手がサイコパスと判明したならとっとと逃げ出すこと。逃げ出せなくなる前にとっとと。
このミステリーでは、体を入れ替わるのに幽体離脱を持ち出したところが斬新ですね。
ああ、幽体離脱が可能なら、私も若くてぴちぴちした美人の体に乗り移って、もう一度青春を謳歌したいものだとつくづく思いますわん。
乗っ取られた方はひどく恨むだろうけどね。知ったこっちゃない。