今日はインドの映画を紹介します。
「めぐり逢わせのお弁当」(リテーシュ・バトラ監督作品 2013年)
インド映画にしては珍しく、歌や踊りが出てきません。シリアスなラブロマンスです。
これを見て、インドのムンバイで実際に行われている「ダッバーワーラー」というお弁当配達システムのことを知りました。
会社勤めの夫のために、妻たちが午前中時間をかけてお弁当を作る、そのお弁当の配達を生業としている人たちがいるのですね。ムンバイでは125年の歴史を持つというから、古い職業です。
鉄道、バス、自転車などを駆使して会社に配達します(配達するだけじゃなく空の弁当箱を回収して自宅に届けもします)、誤配率は600万分の一というからすごい。
でも、その600万分の一の誤配から生まれたのが、この物語。
(以下ネタバレです)
主人公のイラは夫のために毎日お弁当を作ります。
上の階にいるおばさんと声だけのやりとりをしながら作るのですが、このおばさん、最後まで姿を現さない。声だけでイラにあれこれ料理の指南をします。イラもおばさんを頼りにしている。
ある日、イラの作ったお弁当が保険会社のサージャンという男に誤配されます。
サージャンは数年前に妻をなくして一人暮らし。50代で、早期退職を考えています。
いつもは弁当屋の弁当を食べるのですが、この日は手作りのおいしい弁当で、サージャンはその味にびっくりします。翌日もまた同じ弁当が配られます。どうやらダッバーワーラーはサージャンをイラの夫と間違えて配達したようです。
イラは間違って配達されたことを知り、お弁当に手紙を忍ばせます。サージャンは返事を書きます。とても美味しかった、と。
ここからサージャンとイラの手紙のやりとりが始まります。
そしてそれは相手を思いやる「想い」へと変化していきます。イラは夫の浮気を打ち明け、サージャンは妻をなくしたことを打ち明けます。
短い手紙のやりとりが実にいい。
人は想像力を働かせることにより、自らの中でストーリーを作りあげるのですね。
実際に目の前にいる人物より手紙の向こうの人物に惹かれる、というのはよくあることです。
イラとサージャンのように、人生がうまくいかない時はなおのこと。
手紙の内容はその日によって違いますが、時にユーモラスで、思わずクスリと笑ってしまいます。
そして、ついに二人は会おう、ということになるのですが…
ここが実にリアルです。
サージャンはその朝、鏡に映った自分の顔をまじまじと見て、もう若くないことを改めて自覚します。新しい恋に走るには歳を取り過ぎた、と思うのです。
喫茶店でサージャンを待つイラを遠くから眺めるサージャン。
けれども、やはりあきらめきれないサージャン。
果たして、この二人の恋の行方は・・
というのが物語のすべてで、最後は視聴者に委ねられるという仕掛けです。
途中で、サージャンの後継者として若者が入社してきますが、彼が帰りの電車の中でいう台詞があります。
「母が言ってた。人は時に間違えた電車でも正しい場所に行き着く、と」
これがこの映画のテーマで何度か出てきます。
果たしてサージャンとイラが乗った電車は正しい場所に行き着くのか、それとも・・
余韻を残して映画は終わります。
主人公のサージャンを演じているのが、「ライフ・オブ・パイ」に登場するイルファン・カーンです。
四段重ねのお弁当が美味しそう!
そして、ムンバイの街並み。インドの街ってこうなのね!
この映画、リテーシュ・バトラ監督の初長編作品というから驚きます。
人生って、時に600万分の一の確率で何かをもたらしてくれるのですね。
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