ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

2016-09-11 19:22:23 | 映画
9.11ですね。
ちょうどhuluで映画
「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
をやっていたので見ました。
スティーブン・ダルドリー監督作品。ジョナサン・サフラン・フォアの同名小説を基に作られた映画です。
見るのは、今回で3度目くらいかな。

9.11で父親をなくしたオスカー(9歳~11歳)の物語です。
オスカーはアスペルガー症候群で、人と接するのが苦手です。
そんなオスカーに父親(トム・ハンクス)は「調査探検」と称してニューヨークを探検しながら、人と接することに慣れさせようとします。

ニューヨークにはかつて「幻の第六区」があった、その第六区を探せ、というミッションを父親はオスカーに与えますが、その直後、父親は、たまたま商談でWTCに来ていてテロに巻き込まれて亡くなってしまいます。

父親をなくしたオスカー、そして最愛の夫をなくした妻(サンドラ・ブロック)、近くに住む祖母・・それぞれが、どこか殻にこもり互いに慰めあうでもなく、孤立しているように見えます。

一年後のある日、オスカーは父親の遺品の一つである青い花瓶の中に、封筒に入った鍵を見つけます。封筒には「ブラック」の文字が。
どこかのブラックさんの鍵に違いないとオスカーは確信し、その鍵にあう鍵穴を探すべく、新しい探検に乗り出すのです。
それが、父親が彼に残した最後のミッションであるかのように。そして、それを解明するために時間を費やすことで、父親の死を少しでも遠ざけようとするかのように。

電話帳でニューヨークじゅうのブラックさんを拾いだし、472人のブラックさんをオスカーは一人ひとり訪ねていきます。
オスカーの計算では3年かかるミッションです。

けっこう長い映画です。
ブラックさんを訪ね歩くだけで、映画の前半は終わります。
途中、祖母の家の間借り人という老人も現れてオスカーと一緒に街を歩きます。彼はしゃべれないので、いちいち紙に書いてオスカーに示します。
この老人、実はオスカーの祖父で、ドイツのドレスデンで生まれ、第二次大戦を経験した人でした。
そして、最後にようやくオスカーは鍵にあう鍵穴を見つけるのですが、
それは、オスカーが期待したものとは全く違っていました。

最初に見たとき、なんか感情移入できない映画だなあと思いました。
父親が亡くなったとはいえ、これほどまでに家族がバラバラになるだろうか。母親はひどく冷たく見えるし、祖母は近くに住んでいながら、オスカーと関わろうとはしません。老人だって、途中で探索をやめて去っていきます。
トム・ハンクスの父親が素晴らしいだけに、この違和感は何なんだろうと思っていました。

今回、わかったのは、
この映画があくまでもオスカーの目線で作られているということです。
オスカーから見ると、母親も祖母も、冷たく疎遠に見えたのです。実際はおそらくそうではなかったのでしょう。
アスペルガー症候群の子は、時にオスカーのように人の気持ちを顧みず失礼なことを言ったり、傍若無人で自分勝手に見えたりするようです。
でも、彼らは意図してそうしているわけではなく、自分を守ろうとしているだけなのです。
オスカーの周囲の人々に対する理解というのもまた、普通の人とは少し違っているのだと思います。

アスペルガー的視点を外してみると、この家族はよく頑張っていることがわかってきます。
母親は黙ってオスカーの行動を見守ります。祖母は、夜中の3時に起こされても嫌な顔をせず、オスカーと無線交信をします。途中で探検をやめてドイツに帰ってしまう祖父も、彼なりに努力したことがわかってきます。

大きな悲劇に見舞われると、人は正常ではいられなくなるのです。
それをこの映画はリアリティを持って描いています。
だからこそ、どこか胸の奥にグサリと刺さるものがあるのだと思います。

最後はハッピーエンドですが、
そこに至るまでの紆余曲折が、この家族の辛さを実によく表していると思いました。
それほどまでに、あの事件はアメリカ人の多くの人の心を壊した、という現実があるのでしょう。
でも、そのアメリカはイラクに侵攻し、大勢の人を殺戮しています。
今もシリアでは爆撃が続き、大勢の市民が殺されています。

世界は今も、9.11のニューヨークを体験し続けているのです。
心にグサリと刺さるのは、たとえそうだとしても、私たちは生きていかなくてはいけない、という現実を突きつけてくるからなのでしょう。

あの家族だけが特別なのではなく、私たちはいつそうなるかわからない、そういう世界に住んでいるのだということを、改めて感じさせてくれました。



《追記》
 アスペルガー症候群の人は時にものすごい才能を発揮することがあるようです。
 「シャーロック」もまたアスペルガーとして描かれているようですね。シーズン2の「バスカヴィルの犬」でジョンが「アスペルガー」とはっきり言っています。なるほどねー、と思いました。
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