越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

スポーツコラム(2)学生ボクシング

2009年07月10日 | スポーツ
過日、水道橋の後楽園ジムに出向いて、ボクシングを見ました。

プロのボクシングではなく、アマチアのボクシング。関東学生ボクシングリーグです。

野球やラグビーや箱根駅伝のように、テレビ放映される花形スポーツと違い、学生ボクシングは確かに地味なマイナースポーツです。喩えて言えば、華やかなバラではなく、アジサイのような存在です。

でも、リングサイドには、数は多くないものの、熱心なファンが詰めかけていて気合いのはいった声援を送っていました。
まるで軍の司令官が部下に命令するかのように、みな名前の呼びつけです。さん付けなどでは、呼びません。

威張っているようですが、それがスポーツ選手への礼儀です。畏怖と愛情をこめて、呼びつけで応援するのです。さん付けでは、他人行儀です。

この雰囲気は、スポーツ好きにはちょっとたまりません。お祭りイヴェントではなく、スポーツの試合を見に来ている人たちの、見えない「個」の連帯みたいなものが漂っています。

話はズレますが、去年の夏、キューバで過ごしたとき、ちょうど北京オリンピックの最中で、日本のテレビではあまり見られないボクシングが盛んに放映されていました。

野球や女子バレーや陸上競技とならんで、ボクシングは人口1100万人の小国キューバが力を入れているスポーツで、メダルをいくつも獲得しました。アマチアボクシングは、マイナースポーツではないのです。

それにしても、生のボクシングを見るのは、今回が初めてでした。ちょっとハマりました。

明治大学のゼミの3年生の中に、ボクシング部の鈴木悠介君がいます。いつか応援にいきたいと思っていました。ゼミから3年生の女子2名(有馬加奈君、安斎由里奈君)、男子2名(対馬匠君、武本亮君)も参加してくれました。

その日は、大東大との対戦です。それぞれ7人ずつ出場の、ベスト・オブ・セブンのルール(4勝したほうが勝ち)。

まず、ライトフライ級のサウスポー田河君が登場。第3ラウンドにダウンを奪われ、判定負け。明大としては苦しいスタートを切った。

つづくフライ級は、サウスポーの工藤君が、第1ランドにTKO(RSC)勝ちして、明大に立ち込めた暗雲を払いのけた。

3番目に登場したバンタム級の、わがゼミのホープ鈴木君は、左ストレートをいくつも放ち、優位に立ったが、ローブローの注意を再三受け、次第に相手の注文にはまって、打ち合いに。結局、第3ラウンドまで戦いはもつれ込んだ。

辛うじて判定勝ちをもぎとったが、西尾コーチによれば、もっと楽に勝てたかもしれない、とのことだった。あとで、ローブローの注意について本人に聞いたところ、試合中、打ってないのに、相手の選手がしきりに「金玉打った」とレフリーにアピールしていたとのこと。とはいえ、「前回の平成国際大の格上の選手とやって勝った時のほうが、できがよかった」と、反省の弁も。

だが、これで対戦は明大の2勝1敗に。4人目、フェザー級の伊達君は、第3ランドにダウンを奪われ、判定負け。2勝2敗になり、先行き不透明に。

5人目、ライト級の酒井君は、第1ラウンドに反則を取られ,苦しいスタートを切ったものの、右ストレートが冴えて、判定勝ち。

6人目、ライトウェルター級の坂田君も判定勝ちし、これで4勝2敗となり、明治の勝利が確定。

7人目、ウェルター級の金原君は、二階級差(自身は一階級あげ、相手は一階級下げて)のハンデにもかかわらず第1ラウンドは軽快なパンチを浴びせていたものの、第2ラウンドに大東大の石川君の鋭いパンチを浴び、TKO(RSC)負け。試合が終わってから悔し泣きしていた姿が印象的だった。


西尾コーチによれば、大東大は、去年度の優勝チーム。今年は各校の実力が非常に接近しているらしく、最下位に低迷しているということでした。明大もこの試合に負けていたら、あやうく3部降格の憂き目にあうところでした。

TKOシーンも互いに一つずつありました。一度リングにあがったら、誰も助けてくれません。それだけに、学生ボクシングは、昨今少なくなりつつある肉食系の男子のスポーツだと実感しました。








 
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スポーツコラム(1)「東京六大学野球」

2009年05月01日 | スポーツ
写真:明治神宮球場に咲いている「なんじゃもんじゃ」の花(雪が木の葉に積もったよう)

 いま、東京六大学野球の春のリーグ戦が花盛りだ。ちょうど先週の第3節が一つの山だった。4強がぶつかる明治と慶応、早稲田と法政という好カードが組まれていた。

 それぞれ勝ち点1の4強がここで勝つことは優勝に向けて、ギアをセコンドからトップに入れて優勝街道を突っ走ることを意味した。

 結局、法政が早稲田を2勝1分で破り、明治は慶応に連勝して、両者には頂上がちらっと見えてきた。

 あとで試合結果を数字や言葉で要約してしまうと分からないが、本当は、野球も、人生と同じように紙一重だ。展開次第でどう転ぶか分からない。そこがスポーツニュースでは分からない。

 法政は第2節立教との第1回戦で、エース加賀美が9回裏2アウト2ストライクから、立教の代打大林に逆転サヨナラホームランを喫して、3対2で敗れている。そんなのあるかっ! という感じのドラマである。

 そして、この第3節でも、早稲田は法政との第3回戦の3回裏に1点を先行し、さらに2アウト1、2塁のチャンスがあった。運よく4番の主砲原に打順がまわってきたが、加賀美の140キロ後半の速球に2ストライク1ボールと追い込まれ、あえなくサードゴロでチャンスを逃した。その直後の4回表、法政は同点とした上に、1アウト満塁のチャンスにめぐまれた。3番左打者の亀谷は早稲田のエース斉藤祐からセンターオーバーの3塁打を放って3点をもぎ取った。そこが勝負の分かれ目だった。

 そして、明治も慶応との第2回戦では、7回まで1対0の劣勢だった。1点リードの慶応は6回裏、それまでヒット2本に抑えられていた難波投手に襲いかかり、ヒットを連ねて0アウトランナー2塁、3塁の追加点のチャンス。崖っぷちに追い込まれた難波は、しかし、そこで踏ん張った。6番打者の伊藤に一塁線に強打されたが、明治のファースト謝敷が巧くさばいてアウトにすると、その後、簡単に5球で後続2打者を打ち取った。

 その直後の7回表、明治は0アウトで上本が死球で出ると、バントで走者を二塁に送り、リリーフで出てきた慶応のエース中林から、1番荒木郁がライトオーバーのタイムリー3塁打を放ち同点とした。しかも、2番遠山が1ストライク2ボールでスクイズを一発で決めた。中林投手がサウスポーだということもあり、俊足荒木のスタートもよかった。あっという間にたたみかけるように逆転劇を演じたのである。

 ハイチのポルトプランスで手に入れたクレオールのことわざ集には、こういう格言が載っている。

 Chans pa vini de fwa.(シャン・パ・ヴィニ・デ・フア)

 日本語に訳せば、「チャンスは二度ない」とか「チャンスは絶対につかめ」となるだろうか。
 
 昔、浅草の露店で買ったぼくの指輪には、ラテン語で「Carpe Diem(カルぺ・ディエム)」と刻まれている。売っていたユダヤ系のアメリカ人女性にその意味は何かと訊いたら英語に訳してくれた。「Seize the Day」(この日をつかめ)だと。

 「Carpe Diem」というフレーズは、ホラーティウスの『詩集』(第1巻第11歌)に出てくるらしい。

 神々がどんな死を僕や君にお与えになるのか、そんなことを訊ねるな/それを知ることは、神の道に背くことだから/(中略)僕たちがこんなおしゃべりをしている間にも、意地悪な「時」は足早に逃げていってしまうのだから/ 今日一日をつかむことだ/明日が来るなんて、ちっともあてにはできないのだから

 ぼくのような老人には明日はない。しかし、明日を夢見るのは、若者の特権。でも、「明日はない」と感じて「いま」を生きている若者は、小さなチャンスを見逃さずに、大きな幸せをつかむことができる。

 6大学野球を見ていてそんなことを考えた。

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カストロの野球観は、選手の心の動きに気を配っていないのではないでしょうか。

2009年03月27日 | スポーツ
きのうは、明治大学の卒業式でした。式のあと、研究室でゼミ生たちと飲みました。袴すがたの女子学生は、あたかも芸能人のように普段の10倍の魅力を放っていましたが、皆、レンタル会社での着替えに手間取ったもようで、彼女たちが夜に戻ってきた頃には、3時半過ぎから青木君や古庄君や忽那君ら男性陣と飲んでいた小生は完全にできあがってしまい、朝に準備したジャマイカ料理のジャーク・チキンやジャーク・ポークもわずかになってしまいました。今年の卒業生とは、9月の沖縄合宿が台風のせいで中止になり、小生の明治大就任以来初めてゼミ合宿をやらずに卒業式を迎えることになった学生でした。心残りでした。いつか、どこかでやらねばならない、と伝えました。

 さて、WBCは数々の問題を抱えながらも、日本の優勝で終わりました。数々の問題とは、そもそもこのWBCは、米国のメージャーリーグベースボール(MLB)のグローバル戦略の一貫であり、サッカーのワールドカップのような理念も方式もないということに起因するものです。国際試合なのに、主審が当該国の者(アメリカ人)だったり、予選から決勝にいたるまでの対戦方式が偏っているとか、そういったことが日本のマスコミではあまり問われていません。

 それはともかく、個人的な興味から、今回のキューバの戦いぶりに注目していました。本当は、3月にキューバを訪れて国内野球を観戦し、監督や選手にインタビューをしたいと思っていたのですが、WBCのために、国内野球が中断していたので、しかたなくWBCの試合で我慢しました。

 今回の敗戦(二度の日本戦)で、パワーだけでは勝てないと悟ったキューバは、今後どのような進化を遂げるのでしょうか。日本の勝利は、スモールベースボール(機動力と小技)のおかげだと言われていますが、決勝の韓国戦の勝利の原動力は、精神力(なりふり構わず勝たねばならないという欲求)ではなかったでしょうか。物質的に豊かになった日本人にはそうした、いわゆる精神力が欠けていると思われていましたが、今回の日本チームはいままでになく勝利にハングリーでした。

 これは冗談にすぎませんが、二次予選の日本戦の前に、キューバ選手に、WBCで優勝したら希望者には亡命させてやるといったら、きっと日本チームはそうとう手こずらされたでしょう(笑)。キューバの打者がしぶとく当ててきたら、松坂や岩隈はあれほど素晴らしいピッチングをできたかどうか。カストロはさすが政治家だけあって、技術的の進歩のことは語っても、選手の心の動きには、気をくばっていないのです。

 決勝のあと、カストロ前国家評議会議長が書いた論評が『グランマ』紙(3月20日号)に載りました。以下に、試訳を掲載します。カストロはこのところ、テレビの前に釘付けだったことが文章から伝わってきます。前回の論評でも、野球をメタファーに政治を語る姿勢が明らかでしたが、今回はどうでしょう?

『デジタル・グランマ・インターナショナル』2009年3月20日

フィデル・ストロの考察「すでにあらゆることが語られていた」

 昨夜、アジアの二大強豪国によって、WBC(ワールド・ベースボール・クラッシック)は、グランド・フィナーレを迎えた。

 米国のチームは、その不在が際立った。スポーツを搾取している多国籍企業が失ったものは何もなく、多額の金額を稼いだ。アメリカ国民は不平を言っている。

 すべてがテレビ放映された。松坂投手は絶好調とは言えなかったが、日本は米国を手こずらせた。米国チームは試合開始直後にセンターオーヴァーのホームランをかっとばした。その瞬間、ベーブルースの時代から、伝統的な野球観戦に親しんでいる者は、ヤンキーの打線の爆発を想像した。

 その後、松坂投手が四球を出し、さらに黒人選手のジミー・ロリンズがセンター前にポテンヒットを打って、事態が悪化した。ふらふらとあがったフライは、難なくチャッチできるように思えたが、フィールドに落ちて、他ならぬ日本チームのショートストップ、比類のない名手中島裕之におさえられた。この試合では、前日の米国チームと同様なことが日本チームに起こっていた。米国チームは、前日の試合の1回表に、1点のリードを許した。
 
 日本チームの監督は、先発投手に寛容だった。日本の先発投手は、ファンファーレの音高らかに予告されるが、褒美として花びら一つさえ欲しがらない。監督は先発投手に話しかけ、軽くポンポンと背中を叩いて、あとは任せた。日本は後攻(こうこう)であり、これから二十七個のアウトをとられるまで攻撃できるのだ。松坂は気を取り直して、その回を無事に投げきった。

 ただちに、日本チームは失点を取り返すべく反撃を開始して、ほどなくして米国に対して4点のリードを奪った。

 この日、松坂は無敵の投手ではなかった。さらに数球投げてから、豊富な日本投手陣の中の一人によって取って代わられた。監督は、僅かでもあぶないと感じると、何のためらいもなく投手交代を告げた。この試合のために十分な控え選手と、翌日の決勝に必要なあらゆる戦力を用意していた。

 米国チームが日本のリードを1点差に縮めるたびに、日本の監督は4点リードを確保するための手を打ち、すばやくそれを成し遂げた。

 日本の1番バッターのイチロー・スズキは、その日、4度凡退していたが、本当に必要な時になって2塁打を放ち、それで日本のリードは5点になり、そのまま9回が終わった。

 その翌日、すなわち3月23日午後6時30分に、ロサンジェルスではまだ日差しが明るく、キューバでは夜の9時30分だったが、日本と韓国とで決勝が争われた。韓国が後攻だったが、韓国は今回のWBCでたったの1、2点を失っただけで、2度も日本チームに勝っている投手を先発させるという誘惑に勝てなかった。モーションが早く、カーヴが得意な投手だが、三振が取れなくて、日本チームの専門家と打者たちによって十分に研究されてしまっていた。

 今度は、第1球がセンターオーヴァーのホームランになった(訳者註:ここはカストロの記憶違いか?)。前日のヤンキー・ホーマーの焼き写しだった。もう一人のアジアの強豪国にとって悪い出だしになった。それにもかかわらず、両チームのクオリティの高さを証明するように、この試合はプロフェッショナルの選手たちの演じた、想像しうる最も緊迫した試合だった。日本チームの監督は、投手の起用でミスは犯さなかった。

 日本の先発投手、岩隈久志は7回と3分の2を投げきり、そのうちの数回は10球で投げ終えた。

 4回、試合は1-0で、日本のリードのままだった。

 5回、韓国はホームランで同点に追いついた。

 7回、日本は3連続ヒットで、2-1とした。

 8回、日本はさらに1点加えて、3-1とした。その裏、韓国は1点あげて、3-2とした。

 9回、日本の最高の右腕投手、ダルヴィッシュ有が連続四球を出した。あと2個ストライクをとれば勝利が舞い込むという時に、韓国が同点に追いついた。

 10回、日本が2点を奪い、勝利を決定づけた。

 疑いようもなく世界最高の打者であるイチローに導かれた日本チームは、この試合で18本のヒットを放った。

 大雑把に言って、そういう風に試合は進んだが、実際は込み入った状況に満ちあふれ、見事な攻撃と守備のシーンがあり、きわめて重要な三振のシーンがあり、10回を通して非常に緊迫した試合で、はらはらどきどきし通しだった。

 私はスポーツコメンテーターではない。常にそこから逸れることができない政治問題についての論評を書いている。それゆえに、私はスポーツに関心を向けるのである。それゆえに、昨日は、当日行なわれるはずのこの重要な試合に関して、論評を書かなかったのである。

 しかし、数日前にすでにあらゆることが語られ、予想されていた。私の友人たちである西側の報道関係のレポーター諸君は、多かれ少なかれあら探しをすべき材料など、かれらから見て社会主義に結びつけられる数々の困難など、見つけられないだろう。

フィデル・カストロ・ルス(署名)
2009年3月24日午後2時53分


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カストロ元議長は、2009WBCの決勝は日本と韓国と予測

2009年03月21日 | スポーツ



キューバの元国家評議会議長フィデル・カストロは、来週23日の夜(日本時間では、24日朝)にロサンジェルスで行なわれるWBCの決勝は、日本と韓国と予測。http://www.granma.cu/

以下に、キューバの新聞『グランマ』に掲載された、キューバチームの敗北をめぐるカストロの論評の翻訳(私訳)を掲げます。

フィデル・カストロ「責められるのは我々だ」
(『デジタル・グランマ・インターナショナル』2009年3月20日)

 日本とキューバの試合は、今朝3時に終結したが、我々は完膚なきまでに敗北した。

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の組織委員会は、世界の上位3チームがサンディエゴで戦うように組み合わせを決めた。キューバはカリブ海の国であるにもかかわらず、アジア(東側)のグループに入れられたのだ。

 しかしながら、数日後にロサンジェルスで行なわれる試合で、西側のどのチームも日本や韓国に勝てるかどうか。そのクオリティからして、アジアの二つの国が決勝を争うことになるだろう。

 組織委員会のもくろみは、思想の戦いでヒロイックに抵抗し負けることを知らないキューバを排除することにあったのだ。しかし、またいつの日かこのスポーツで、我々は君臨することになるだろう。

 おもに若い選手たちからなる今度のWBCのキューバチームは、疑いようもなく我が国の最良選手たちであり、真の代表である。大いなる勇気をもって戦い、最後まであきらめずに、最終回まで勝利をめざしたのである。

 専門的アドバイザーと共に首脳陣によって示されたラインナップは、すばらしいものであり、自信をうかがわせるのだった。攻守共に強力だった。試合が要求する状況に備えて、すぐれたピッチングスタッフと強力な打撃陣を用意した。こうしたコンセプト通りに、彼らはパワーフルなメキシコチームをまったく寄せつけなかった。

 ここで指摘しておくべきだと思うが、サンディエゴでの首脳陣の采配は、支離滅裂だった。絶えず改革を実行している敵に対して、平坦に踏みなされた道を行くという保守的な規範が蔓延していた。我々はしかるべき教訓を学ばねばならない。

 あらゆるスポーツの中で、起こりうるありとあらゆる種類の状況や、ダイアモンドの9人の各自の役割を考えれば、今日のベースボールほど、人々にいろいろな期待を呼び起こすものはない。真に感情を鼓舞する見せ物である。

 スタジアムがファンで埋まるとしても、カメラで捉えられるイメージに匹敵するものはない。ベースボールは、映像というメディアによって転送されるべく考案されたかのように思える。テレビはあらゆるアクションを詳細に扱うことで、人々のそうした興味を高めるのである。テレビは時速100マイル(150キロ)で投げられたボールの縫い目や回転の模様を見る機会を、さらにボールが白線上を転がったり走者の足がベースに触れる前後の10分の1秒間に守備の選手のグラブにおさまったりするのを見る機会を我々に提供する。チェス以外に、これほど変化にとんだ状況を有するゲームは、ほかに思い浮かばない。もっとも、チェスの場合は筋肉の動きではなく、頭脳の中の知的な働きであり、それはテレビで映し出すことができないのだが。

 キューバはあらゆるスポーツを楽しみ、多くのアマチア選手を有しているが、とりわけベースボールは国民の情熱となってきた。

 我々は栄誉にあぐらをかいてきた。いま、敗北の責任を引き受けねばならない。日本と韓国は、地理的に米国からかなりの距離があるが、この米国から輸入した、というより押し付けられたスポーツに豊富な資金を投じてきた。

 二つのアジアの国におけるベースボールの発展は、かれらの明確な国民性に寄るものだ。かれらは勤勉で、自己犠牲的で、ねばり強い。日本は1億2千万以上の人口を有する豊かな先進国であるが、ベースボールの発展に献身してきた。資本主義システムの中のほかのものと同様、プロスポーツも多大な金の動くビジネスであるが、国民はプロ選手に対して厳しい水準を要求している。

 日本でプレーしたことのあるキューバの選手は、そうした水準の高さを熟知している。米国のメージャーリーグでプロ選手に支払われる年棒は、米国の次に強力なプロリーグを有する日本より明らかに高い。日本のプロ選手は誰でも日本で8年間プレーしないかぎり、米国のメージャーリーグや、その他の国でプレーできない。そうした理由で、外国で活躍する選手には、28歳以下の者がいない。

 日本のトレーニングは信じがたいほどに厳しく科学的である。おのおのの選手に必要な筋肉を鍛えるための科学的方法を考案してきた。毎日、打者は打撃練習に、左か右の投手から投げられる数百球を打つ。投手は毎日400球を投げる義務がある。もし試合中にミスをおかせば、もう100球投げねばならない。しかし、かれらはあたかも自分自身に課した罰であるかのように、嬉々としてそれをこなすのである。そのようにして、かれらは頭脳から送られてくる命令に忠実に従う筋肉を見事なまでにコントロールすることができるようになる。そういうわけで、誰もが日本の投手陣が思うようにボールコントロールする能力に驚嘆するのだ。似たような科学的な方法は、守る時も打つ時もそれぞれの選手が行なわねばならないあらゆる動きに応用できる。もう一つのアジアの国、すなわち韓国でも、選手たちは似たような国民性をもって技術的な進歩を遂げた。韓国はいまや世界のプロフェッショナルベースボールにおける強豪国だ。

 アジアの選手たちは、西側の選手に比して、身体的に強靭とはいえない。パワーの点でも同じだ。だが、強靭な身体を持っているだけでは、アジアの選手たちが磨いた反射神経に勝つことはできない。同様に、パワーだけではアジアの選手の科学的方法や冷静沈着さの埋め合わせはできない。韓国は、よりパワーフルな巨漢選手を探す努力をしてきた。

 我々の希望は、我が国の選手たちの愛国的な献身と、かれら自身の栄誉と国民を守ろうとする熱意とに支えられていた。選手層にしても、たとえば日本と比べて10倍以上も人的資源にめぐまれないし、そうした乏しい人的資源から、我々の敵からの賄賂を受け取るようなモラルの低い者を差し引かねばならない。しかし、ベースボールの世界での覇権を維持するためにはそれだけでは充分でない。我々は選手たちを鍛える際にもっと科学的な方法を採りいれねばならない。我が国の一流の教育施設やスポーツ施設がそれを可能にするだろう。

 幸い、我が国には、すぐれた運動能力を有する若手の投手や打者が十分そろっている。一言でいえば、単にベースボールだけでなく、あらゆるスポーツ分野における我が国の選手の鍛錬のために、練習方法を改革しなければならない。

 我がナショナルチームは、数時間のうちに帰国するはずだ。かれらが示したパフォーマンスに値する栄誉をもってかれらを迎えることにしよう。不運な結果をもたらした数々のエラーの責任は、かれらにはない。責められるのは我々だ。期限までに自分たちのエラーを訂正することができなかったからだ。

フィデル・カストロ・ルス(署名)
2009年3月19日 午後2時58分
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オリンピックの野球(キューバチーム)

2008年08月15日 | スポーツ
2008年の北京オリンピックの野球。日本の初戦は、キューバ戦だった。日本はエースのダルビッシュを先発に立てたものの、気負いすぎたダルが制球をみだし、キューバの打線に狙い打ちされ、結局、4対2で敗れた。

どうしてプロ選手でないキューバチームが強いのか。
キューバの国内リーグは11月から始まるという。野球はキューバではウィンタースポーツなのだ。だから、夏に開かれるオリンピックでは、ベストメンバーが組めるというわけだ。

社会主義国として、エリート選手育成プログラムがすぐれた選手とチームを作りだすのに大いに寄与しているが、観客の目も肥えていて厳しい。口角泡をとばすような、熱い議論がハバナの公園で交わされているらしい。



(ハバナの中央公園)

今年の夏は、オリンピックの野球というより、ハバナッ子の熱い盛り上がりようを見ておこう。
日本みたいに、ファンが外野席で楽しく踊っているだけではだめで、見る者たちの厳しい目と声が選手を鍛えるのだから。


(キューバの球場の応援風景)

次回は、可能であれば、キューバからブログをアップします。
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