大作家の娘の創造的な仕事
宮田恭子『ルチア・ジョイスを求めて』
けっして読みやすい本ではない。だが、さまざまな支流が合流してやがて大河となるように、最後に読者は大いなる知的満足を得ることになる。
二〇世紀最大の作家といわれるジェイムズ・ジョイスには、二人の子供がいた。
一人は息子のジョルジオ、もう一人が本書のタイトルにもなっている娘のルチアである。
ルチアは二十代で心の病に陥った。
彼女に治療をほどこした心理学者ユングは、天才肌の父娘をこう称した。
「二人は川底に向かっていった。一人は足から落ちていき、もう一人は頭から突っ込んだ」と。
狂気と正気の狭間をさまよったルチアは、小説家や伝記作家の興味をそそり、アメリカ作家のジョイス・キャロル・オーツも彼女をモデルにした短編を書いている。
(つづく)