越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

サルバドール・プラセンシア『紙の民』(2)

2011年10月13日 | 書評

 とはいえ、物語の舞台は、誰もが自らの歴史の重みを逃れてやってくる西海岸のロサンジェルス。

「ロサンジェルスは、メキシコ国の最北端の都市である」と言ったのは、メキシコシティ生まれの前衛パフォーミングアーティスト、ギジェルモ・ゴメス=ペーニャ(『ボーダーの呪術師』)だ。

 ゴメス=ペーニャの名言は、この都市に住む六割以上の人たちがラティーノ(スペイン語を喋る南アメリカからの移民とその子孫)であるという統計的事実のみならず、サンタナの音楽(『ブラック・マジック・ウーマン』)からギルベルト・エルナンデスのコミック(『ラヴ・アンド・ロケッツ』)に至まで、あるいはタコスショップからローライダーに至るまで、そこに息づいているメキシコ文化をみごとに反映している。

 歴史的に見て、ユニオン鉄道駅のすぐ近くオリヴェラ通りにある小さな広場こそ、一七八一年にメキシコ人の数世帯によってスタートしたこの大都市の臍だ。

 だから、自らの歴史の重みを忘れようとして歴史性の薄いロサンジェルスにやってきて、なんだここはメキシコじゃないか!と感じてもそれは不思議ではない。

 十九世紀半ばの米国による侵略戦争以前には、ここはまさにメキシコの最北端の村だったのだ。

(つづく)




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