冬黝き槇電線をふりかぶり 波郷
無情の句、日頃の主情的俳句に飽き飽
きするような虚しい日、無情が心に適
ふ。然しなまじひの主情を圧倒する無
意識が迫る。この句がそれほどの力を
持つか否かは別だが――
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ジヤズ寒しそれをきゝ麺麭を焼かせをり 波郷
長い俳句。然し大した字余りではない、
中八に過ぎぬ。「それをきゝ」が叙法
上の特異点。が、内容は至つて平俗な
市井人の一些事である。「寒し」はジ
ヤズを指してゐるにではない。
「波郷句自解―無用のことながら―」(有)梁塵社 より
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