ガーター橋に轟音を響かせて、ブルーの帯を纏った5両編成が鬼怒川橋梁を渡ってくる。
冬晴れの青空が広がっているけれど北からの乾いた風は冷たい。今回は水戸線を呑み潰す。
先週のゴール小山駅にやってきた。東北新幹線・上越新幹線にありがちな何の変哲もない箱型の駅舎だ。
南北に貫く東北本線から西へ向かう両毛線、東に向かう水戸線が分岐する小山、北関東の要衝ではある。
水戸線のホームは15・16番線、番号振りだけなら東京駅や上野駅にも負けない大ターミナルの様相だ。
シルバーに濃いブルーをひいた電車は、品川や上野を始発する常磐快速の付属編成の運用らしい。
09:45発の1739Mの席も暖まらないうちに、2つ目の結城で途中下車する。ここからは茨城県だ。
結城紬のふるさとは城下町の街割が残る歴史のある町、点在する見世蔵はかつての商業的繁栄を感じさせる。
そんな町並みの一軒に武勇酒造を訪ねる。鍋をつつきながらの一杯に、無濾過生原酒を仕込んで満足なのだ。
ブルー帯の5両編成にはセミクロスシート車両があって旅情をかきたてる。っで “武勇 辛口純米酒” を開ける。
列車はちょうど鬼怒川橋梁に差し掛かり、遠くに白を纏った日光連山から那須の山々が見渡せるのだ。
辛口純米を愉しむうちに列車は下館に至る。
関東鉄道の終点であり真岡鐵道の起点であるこの駅は、鉄道全盛の時代には交通の要衝であったろう。
駅前のデパートは核テナントが撤退し、今では市役所本庁舎となっている。少々寂しい風景ではある。
そんな町に人々を呼び込んでいる真岡鉄道の「SLもおか号」が、週末ごと駅や沿線を賑わす。
10:35、もうもうと煙が上り、突如として一声の汽笛が凛とした冬の空気を震わせる。
数分後、田圃の小道で待ち構える呑み人に、シュッシュ、シュッシュと蒸気を吐く音が聞こえてきた。
C12-66号機はその小さな鋼の体を主連棒だけは激しく動かして、ゆったりとカーブを描いて行った。
九州、東北、信州そして会津を走った戦前生まれは、齢90歳にしてここに健在だ。
右手車窓に筑波山が見えなくなった頃、列車は笠間に滑り込む。
笠間稲荷の最寄り駅ではあるけれど降りる人は少ない。地方では初詣もやはり車でと云うことか。
日本三大稲荷に数えられる「笠間稲荷神社」の創建は白雉2年(651年)、1300年を優に超える由緒ある神社だ。
宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)は農業・工業・商業・水産業などあらゆる殖産興業の守護神であるから、
全国から多くの参拝者が訪れている。
何回目かの?初詣を終えたら門前で一杯と行きたい。それにしても参道はなかなかの賑わいになっている。
門前の老舗そば処「狸庵つたや」に席を見つけたら、“おでん” をつまみにキリンラガーを呷る。美味い。
それにしても稲荷の門前でなぜ狸?疑問は未だ解消していない。
喉が良い具合に湿ったら “ざる” を一枚、ここいらは当然に「常陸秋そば」を使っている。
ズズッと大きな一口を啜る。口いっぱいにその甘味が、鼻腔には芳醇な香りが広がって美味。
ゆるりと歩いて駅に戻る。っと駅舎が神社を模していることに今更ながら気づくのだ。
この旅のアンカー749Mがやって来た。旅の終わりの友部まではあと2駅になる。
”二波山 松の緑の 色たけく よろずかけて なお榮ゆらん”
笠間稲荷神社の御神酒を奉納する笹目宗兵衛商店の “松緑” を開ける。なかなかスッキリした本醸造だ。
あっという間に右手から常磐線の複線が寄ってきた。カップ酒の残りを慌てて飲み干す。
ブルーの帯を纏った5両編成は友部駅の3番ホームに滑り込み、地酒2杯で呑み継いだ水戸線の旅を終える。
水戸線って水戸を走らないんだ。何だかつまらないことに納得して、2週間の北関東横断に終止符を打つのだ。
水戸線 小山〜友部 50.2km 完乗
色つきの女でいてくれよ / ザ・タイガース 1982
明治22年に開業、その後常磐線ができた
ときに、友部―水戸間は常磐線に繰り入れ
られました。地元では水戸線というと、
水戸発小山行きということになっています。
地理に詳しく 歴史にも。
地方の鉄道は本数も少なく途中下車すれば
次は?時間待ちの旅・・・・それをゆったりと
楽しみながらお酒も楽しみつつの旅は最高と思います。
そんな旅に憧れます。
でもその前に時刻表を調べてスケジュール調整をしての
シッカリしたプランが必要ですね。
楽しい旅 お酒を楽しむ旅には前調べの楽しみも有るかと思います。
私も少しづつそんな旅を楽しめるようになりたいと思っております。
これからも楽しみにしています。
宜しくお願い致します。
ご教示いただきありがとうございます。
水戸線の先行開業は地図を眺めると良く分かります。
県都と県西を結ぶ重要な路線ですね。
楽しい旅でした。
同じ時期に茨城にお出かけでしたね。いかがでしたか。
仰る通り、しっかり下調べして出かければ良いのですが、結構失敗しています。
呑みたい店が臨時休業だったり、ローカル線が雪で運休になったり。
現地で二の手三の手で切り抜けるのも醍醐味ですが、
翌日が出勤だったりするとさすがに焦ります。
流行り病に気をつけて、マナーに気をつけてと大変ですが、
hanahana様も楽しい旅にお出掛けください。
お仕事で何度も乗り降りしている駅名が出てきて、楽しく拝読致しました。
水戸線は水戸を通らない!あらー、全く気づかずぼんやり乗っていました(笑)
こんな視点で乗ることが出来ると出張もワクワクですね。
春に下館に行く予定がありますが、鬼のスケジュールで旅情を楽しむ余裕はなさそうで残念です。
葉月
茨城には得意先があるんですね。
刻むスケジュールの中、美味しいランチくらい楽しめたらいいですね。
そう孤独のグルメの五郎さんみたいに。
今年も充実した出張ライフを。楽しみにしています。
コメントありがとうございます。