1927年、浅草~上野間で営業開始した日本で最初の地下鉄はもちろん銀座線。
渋谷駅新駅舎完成、開通当初を再現したレトロ車両など、話題に事欠かない旧くて新しい路線ですね。
今回の吞み鉄はそんな銀座線で、東京の名だたる繁華街を巡ってみます。
久しぶりの吾妻橋西詰、スカイツリーと巨大なビールジョッキー、梅雨の晴れ間の「青」が眩しい。
橋の下にはTOKYO CRUISEの乗船場、夕暮れどき、日の出桟橋までの40分は親密になれる魔法の時間と空間、
若い頃にはずいぶんお世話になりました。
そして振り返ると雷門、何時見てもインパクトのある「朱」ではあります。
もはや浅草の風景?人力車を操る屈強な若い車夫たち。その手持無沙汰な様子が、近頃の状況を映します。
冷気に誘われて階段を降りると、そこは銀座線の起点・浅草駅、瑞々しいオレンジの6両編成が停まっていた。
ホームの支柱はことごとく「朱」に塗られ、ここが浅草だと意識させてくれます。
稲荷町で降りて台東区役所裏までぶらり、ここには東京メトロ・上野検車区がある。
ここは、一生の殆どを穴蔵で働き、暮らすオレンジの車両たちが、唯一日を浴びる場所なのです。
デパ地下(松坂屋)に直結する上野広小路を降る。この辺りは繁華街と下町が混在する魅惑のエリア。
上野3丁目交差点から路地を入ると「燕湯」が白い暖簾が提げています。
11:30の開店に合わせて、名店・井泉に飛び込む。とりあえず男は黙ってキリンラガーを呷る。
「お箸できれるやわらかいとんかつ」が、創業明治5年(1930年)のこの店のキャッチフレーズ。
やわらかくしたのは、一説には花柳界の芸者衆が小さな口でも食べ易すくするためだとか。
銀座線、丸ノ内線、日比谷線と東京オリンピックまでに開通した3路線が一堂に会す数寄屋橋から銀座四丁目。
銀座という街が他の追従を許さない東京、いや日本を代表する繁華街であったことの証左と云えるでしょう。
銀座駅1番ホームにやって来た一つ目の電車は、1927年の開通当初から40年ほど運行していた1000形の復刻版。
木目調の壁と扉、真鍮色の手すり、涙型の吊手、室内側面予備灯など、細部にまでこだわりが見えます。
予備灯は、集電用の第三軌条が途切れる無電区間で室内灯が消えると、代わりにバッテリーで点灯しました。
これ、なんとなく覚えがあるんだな。上京したばかりの学生時代には未だ走っていたはずです。
外苑前で降りると、青山2丁目交差点から聖徳記念絵画館に向かっていちょう並木が延びている。
野球やラグビー観戦の後、シャンパンゴールドの並木の下を歩いた覚えがあるな。
オレンジの6両編成は浅草から30分、チューブ型の渋谷駅に終着する。今では室内灯が消えることはない。
ちょうど渋谷で5時、チューブから見上げる空は明るいけれど、そろそろ気の利いた酒場が暖簾を提げる頃。
学生時代はあまり縁がなかった渋谷、道玄坂交差点からしぶや百軒店へと彷徨ってみます。
っと、路地が雑居ビルに塞がれる手前、青竹の生垣に囲まれて「立吞み なぎ」が現れた。
福島の地酒を揃えた店だから、今日は会津の夏限定酒を択んでみる。
一杯目の "天明中取り参号" は会津坂下の酒、微かに柑橘系、清々しいキレの無濾過生原酒。
アテは "九条ねぎとしめじと厚揚げ炒め" をポン酢風味で。
マスター氏は、三つ口とフライパンを操って、丁寧に素早く美味いひと皿を仕上げていく。
二杯目は "会津中将 夏限定吟醸酒" 、あさがおと金魚のラベルが爽やかでしょう。
ほんのり甘く、さらっとした吞み口はきゅっと冷やして飲む酒、本当はアテは要らないかも。
カウンター越しに供された "天然本まぐろユッケ" が絶品、この店のアテはレベル高っ。
さてと、ちょっぴり気分が良くなる頃、谷間の街にも夜の帳が下りて銀座線の旅が終わるのです。
東京地下鉄・銀座線 浅草~銀座 14.3km 完乗
渋谷で5時 / 鈴木雅之 X 菊池桃子