もう朝とは言えない時間に階下に降りるる。そっと黒いシルクのシーツを少し捲ってみる。
「あらっ、ずいぶん久しぶりね」っと少し険がある。こういう時は逆らわない方がいい。
確かに春以来、酒呑みの鉄道旅ばかりが先行して、この季節まで一緒に出かけることはなかったから。
シーツを足首のあたりまで剥いでしまう。
覆い被さるように跨ると、骨ばった右手で優しく左手を包む。恋人繋ぎってやつだ。
少しだけ手首を手前にひねると、小刻みな鼓動が大きくなる。いつも通りだ。
奥多摩大橋を渡ると、ふたりが走る道はいよいよ渓谷の景色になってくる。
内緒だけれど、まったく思いつきのツーリングは、青梅街道を走らせてここまでやってきた。
しなやかな脚にブラウンのタイトスカートを纏い、さりげなくシャンパンゴールドのアンクレット。
上品なオレンジのトップスに案外ボリューミーな上半身を包むコーディネートはいつもの通りだ。
鳩ノ巣渓谷あたりだろうか、何艇かのカヌーが白い飛沫を滑っていった。
「知らないうちに季節が過ぎたみたいね。すっかり夏なのね」って、まだご機嫌は斜めなのだろうか。
ランチは沢井の「豆らく」にウインカーを出した。
渓谷の吊り橋の下をキラキラと清流が流れ、広葉樹の緑から初夏の日が溢れる。
渓谷を渡る風に髪をとかれ、「ステキなところね」と呟く。
だんだんペースを引き寄せただろうか。鉄道旅では何度か訪れたけど。ふたりで来たのは初めてだ。
鳩ノ巣あたりから、バイクの隊列に前とを塞がれて走ってきたけれど、
小河内ダムまで駆け上がるころ、ようやく二人きりになる。鼓動が伝わってくる。
夏に向かって水を湛えた奥多摩湖は深いエメラルド、山肌から新緑が覆い被さって、東山魁夷の世界だ。
深山橋から三頭橋を渡って奥多摩周遊道路へと進む。ここは都心からも近い関東屈指のワインディングだ。
三頭橋(530m)から風張峠(1,146m)まで一気に駆け上がる爽快感から、多くの走り屋たちが集まってくる。
っと2眼ヘッドライトのフルカウルのスーパースポーツが、甲高いエンジン音で後ろから迫ってきた。
短い直線で左にウインカーを出して先を譲ると、
赤いランプはライダーの膝がアスファルトに触れるほど内倒させて、小さいRを抜けて緑の向こうに消えた。
「案外意気地がないのね」えっ、思いがけず衝撃的な呟き。
あっさり2眼ヘッドライトを先に行かせたことを云っているのか、
それとも出会ってから2年、なかなか進展しない二人の関係を揶揄しているのだろうか。
月夜見第一駐車場から奥多摩・奥秩父の雄大な眺望を楽しむ。
一瞬、雲間から陽が射して、キラリと湖面が輝いた気がした。
「ねっ、ダムがあんなに小さく見えるわ」ライダージャケットの袖を引きながら声が弾けた。
さっきまでのクールでちょっといけずな様子から打って変わった。やれやれ。
この先、白樺の清涼感に包まれて、開放感たっぷりの尾根沿いの道が待っている。
今年はふたりして、どんな景色の中を旅することができるだろうか。本格的な夏がやってくる。
<40年前に街で流れたJ-POP>
気ままにREFLECTION / 杏里 1984
彼女とツーリングいいですね♡
奥多摩はドライブ&温泉に行きます。
先日もお遍路さん疲れを癒しに山梨県丹波山村ののめこいの湯へ
なかなか穴場ですよ~
彼女と是非どうぞ(笑)
杏里の曲はピッタリ(^^)v
少し留守にしていました。
“のめこいの湯”、良さそうですね。
こんど寄ってみようかな。
大菩薩峠は塩山の98ワイナリーを訪ねるときに越えました。
車でしたけどね。
景色も良いし、運転が好きな方には楽しいドライブになりますね。
昨年、多摩川沿いに歩いたので全てが懐かしい写真でした。
ありがとうございました。
多摩川の踏破お疲れ様でした。
私も、舞阪宿で止まっている東海道を再開したいのですが。
なかなかきっかけが掴めないでいます。
杏里の曲は比較的網羅しているんですが、「気ままにRefleciton」は初めて聞いた様です。(歳とってボケてる可能性大ですが、、笑い)
夏に聴きたい曲が多いですよね、杏里も。
少し(だいぶ?)懐かしい曲を聴きながら、
茹だる暑さの中、テンションを上げたいと思います。
コメントありがとうございます。
呑み人