高齢者のストーカー事件が急増・・・

　昔の怪談話に出てくる幽霊は、男に恨みを残して非業な死をとげた女が成仏できず、男のまわりをうろつくというのが多い。また、現実の世でもこれまでは、いつまでも執念深くまとわりつくのは女で、困り果てて悲鳴をあげるのが男と相場が決まっていたが、昨今は事情が変わってきたようだ。
　警察庁のまとめで分かったそうだが、６０代以上の高齢者が加害者となったストーカー犯罪が急増し、昨年は１９１９件と１０年前の約４倍に上ったという。それも加害者の大半は男性だというから、世も末である。
　昔は【弱き者よ汝の名は女なり】といわれた。この言葉は、シェークスピアの『ハムレット』において、母が、夫の死後間もなく夫の弟と結婚してしまったことを嘆いて、女とは、なんと心弱いものか。このようにすぐに心変わりしてしまうとは…と、ハムレットがいった言葉である。
　だが、私が思うに、これは心の弱さではなく、すぐに別の男に心を移せるのは順応性の高さであり、生きてゆくための手段、女のしたたかさではないかと思う。女性は思い切りがいいからストーカーなどしない。いまや【弱き者よ汝の名は男なり】と、改めるべきかとも…。

　最近の事件では、和歌山県の無職男（85）が、奈良県の女性（79）に対するストーカー行為で逮捕された。４年前、女性が入院した際、男の妻が相部屋だったのがきっかけで、男は女性に恋心を抱き、約２年前から女性宅にたびたび押しかけるようになった。女性の相談を受けた奈良県警は昨年１０月末、女性宅を訪れないよう男に警告。しかしつきまといは止まらず、電話で脅迫めいた言葉を発するようになったので、昨年１１月に男を脅迫容疑で逮捕したという。
　恋に年齢の差はないというが、８５歳にして恋心を覚え、４年間も執拗につきまとうという、その活動力、気力には脱帽するしかない。おおよそストーカーされる女性は美形であろうから、その点ババは心配するに当たらないが、想像するだけでも気味が悪い。
　なぜ、ストーカーに男が多いのだろうか。ある時期、【戦後強くなったものは女と靴下】とよく言われた。同姓の私でも、たしかに女性は強くなったと思う。私の周囲を見回しても女性の方が行動的で、ボランティアや地域の集いやイベントなどでも中心的役割をこなすのはほとんどが女性で、男性の存在感の薄さを感じる。それに、環境変化や新しい事への順応性は断然女性の方が高い。伴侶に先立たれても立ち直りの早いのは女性で２、３年もすれば生き生きとして独り暮らしを楽しんでいる。また、失恋しても女性はすぐに次の人を見つけるが、男性はいつまでもうじうじと後を引くタイプが多いらしい。昨今の、草食系男子、肉食系女子というのもうなずける。

　余談だが、昨年７月ごろ、わが購読紙に、故渡辺淳一氏の『愛ふたたび』という小説が連載された。主人公は“老いてますます盛んな”男性医師で、男女の濃密な性愛を描いた小説である。だが、一言でいえば俗にいう“エロ小説”で、あまりにあからさまな性描写に読者から抗議が殺到、連載していた地方紙１９社のうち１６社が、１２月９日で一斉に中止していたという。『愛ふたたび』は男性には好評だったが、女性には不評だったという。さもありなん。こういう元気な“じいさま”は気味が悪くてゾッとする。

　先日、テレビでうまいことを言っていた。高齢者に必要なものは「きょうよう」と「きょういく」だという。教養に教育、何を今さら？　と思ったら、「きょうよう」とは「今日用がある」。「きょういく」とは「今日行くところがある」という意味だという。ババには「きょうよう」も「きょういく」もない。さてどうしたものか。