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先週も京都を訪れたのに、昨日もまた行ってきた。
あの大山崎山荘美術館を訪ねるため。
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行ってみて、その素晴らしさにびっくり。本当に感動してしまった!
大正の頃の実業家、加賀正太郎氏が、別荘として自分で設計したというのだけど、この英国風の山荘は、一度訪れたら、決して忘れられないほど美しい建物なのである。
(専門的にいうなら、チューダー様式のハーフテインバー建築というらしい)
応接間である部分は、白い石造りのサンルーム(その昔は、加賀正太郎氏が、蘭のコレクションの鉢をたくさん並べていたらしい)だし、居間にある大きな暖炉には、後漢時代の装飾に使われた石がはめこまれているといった具合。
おりしも、最晩年に加賀氏と会ったという文豪夏目漱石の書簡が、展示されていたのだけど、その展示室に行くのもサンルームを思わせるガラス張りの通路――そこからは、美しい庭園や池が見え、あまりの美しさにため息がでるほど。この通路――今は懐かしの大正ロマンを感じさせるしつらえなのだが、実業家としての活躍の反面、蘭の栽培に情熱を燃やしていた(なんと、この時代にインドネシアまで赴いて、蘭を採集したりなどしたという)加賀氏が、蘭を栽培する大温室につながっていたのだそう――う~ん、こんな風流な趣味人は今の時代には、見当たらないなあ……。
何やら、古代エジプト発掘に熱中していた英国貴族たちの生活を思い出してしまいそう。
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二階の階段へつづく吹きぬけの天井の木の嵌めこみ模様、ステンドグラスや窓ガラスの優美さ――どれもこれも本当にため息がでそう。
以前、東京の白金台にある庭園美術館を訪れたことがあるけれど、旧朝香宮邸を使った、このアール・デコの名建築より、だんぜん、素晴らしいと私には感じられましたです。
品格、優雅さ、重厚さ、洗練された美意識……すべてが混然と一体化して、この香り高い建物を作り上げているのだろうな。
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二階のカフェで、広々とした庭園を見ながら、ティータイムをしたのだけど、この一日旅行に同行してくれた母が、面白いエピソードを後で教えてくれた。
私達の隣りの席にすわっていた老婦人の二人が、こんな会話をかわしていたのだそう。
「ええなあ。やっぱり、『貧富の差』というものは、なきゃいけないよ。 今みたいに、みんな同じような生活してたら、こんなすごい建物なんかできっこないわ。
わたしゃ、どっちかというとヒンの方じゃけど、こんな『富』を見るだけでも、楽しいわあ」
この話を聞いて、思わず気持ちがほぐれて笑ってしまった。う~ん、この老婦人、なかなかいい人生観を持って生きてるんだなあ。
残念ながら、アクセスがしにくいため、さほど多くの人に知られていないらしいこの美術館(だからこそ、この気品ある雰囲気が保たれているといえるのだけど)。入り口の「ろうかん洞」という心にくい名前(イタリアのカプリ島の青い洞窟が、昔はこんな名前で呼ばれていたもの)のトンネルをくぐりぬけてからも、小高い丘を登っていかなきゃならないのだけど、日常とは隔絶された別世界が待っていることをお約束します。
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興味のある方は、ぜひ!
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