お師匠様の教え。
抜歯すれば必ず顎の骨は痩せます。
唇側頬側の骨が、必ず減ります。
一般の方はご存知ないでしょうが、歯根は顎の骨の真ん中にはありません。
顎の骨の表側、唇側頬側に張り付いていると言う感じなのが歯なんです。
歯根がなくなると、1㎜もない極薄い唇側頬側の骨が吸収してなくなってしまいます。
そして、表側から見て凹んでいる感じに見えるようになってしまうんです。
インプラントは、骨の真ん中に出来るだけ埋めるように習います。
インプラント周囲に、出来るだけ均一に骨がある状態、が理想とされてです。
以上のことを合わせて考えると、痩せて残ってる骨は、当然元々の顎堤よりも内側に来る、即ち歯列弓は狭くなってしまい、その骨の真ん中に植立するとなると、どうしても本来の歯があった位置よりも狭くなる、と言うことです。
そんなの大したことないじゃん、と思いますか?
私はそうは思いません。
何故なら、ど真ん中には舌があるからです。
歯科治療では、舌のことを考えながら行う、と言う思考が決定的に欠けています。
舌は筋肉の固まりです。
相当な容積があります。
それを歯列が狭くなり過ぎて苦しくしてしまったら?
天然歯は動くことも可能でしょうが、インプラントは絶対に動きません。
舌は、縮こまった状態を強いられると機能障害を起こします。
味が分からない、飲み込み辛い、噛み難い、勿論発音し辛い。
これ軽い問題でしょうか?
私にはそうは思えません。
全部歯がなくなってしまった方は、相当に顎堤が本来の状態より狭くなるものです。
その状態で、骨だけしか診ないでインプラント立てたら?
初期の頃のインプラントが、口腔外科主導で為されてて、いざ歯を造ろう、と言う段になって、こんな所にあるインプラントでどう歯を造るんだよ?ってなってたのは有名な話です。
それで、補綴主導型と言う治療方法が考えられ、歯冠が何処に来るのか?で骨とか顎堤を再生する、と言う方向に来ているのが現在です。
でも、そうなると、今度は顎を再生すると言うことで、外科手術が何度も何度もになって大変、と言うことになるんです。
じゃあどうしたら良いの?と考えないといけない、と私は考えています。
口蓋側低位埋入は審美的インプラントの要諦になるのはもう皆さんご存知だと思いますが、行き過ぎると又も舌を侵害すること、になりかねません。
海外の学会でもAll-on-4の流派の治療を見ると、奴等は全く舌のことなんて考えてません。
明らかに、狭い歯列だな、としか見えないことが凄く多いです。
舌のことを考えない治療、が世界レベルですら、歯科業界では普通なんです。
舌なんて、治療上の邪魔モノ、でしかない、そんな感覚なのかも知れません。
でも、舌があるから口腔機能は営まれているんです。
その機能を侵害するような歯科治療があって、良いのでしょうか?
昔、お師匠様の所で修行していた時、ど下手としか言いようのない総義歯で、苦労し切った患者さんが良く来られていました。
そう言う患者さんは、舌の形、機能もおかしくなってました。
それをお師匠様は治して行くんです。
舌が凄く重要である、と総義歯治療上、安定させる為、噛める為、綺麗に喋れる為、息が出来る為、飲み込める為、それらを復活させる気持ちの良い総義歯、を創り上げて治されておられました。
総義歯は、何の支えもない、拠り所ないのに、口腔内に入って、顎堤に安定して乗っかって、全ての機能を復活させられます。
舌と口腔粘膜で維持させる、出来るのが総義歯です。
そこから得られる歯冠の位置が、その患者さんにとって受け容れられる、最も大丈夫なんじゃないか?と言えるモノなんじゃないでしょうか?
お師匠様は、自分自身のお口の中にトレーを入れて、舌の位置とトレーの関係を患者さんに見せて、それで印象されたりしてました。
舌を凄く気にしてられる、とお頭の弱い私でもさすがにそれ見てたら、そうか舌が大事なんだ、と理解出来ました。
咬座印象が、私が好きな最大の理由は、口腔容積を写し取って来れる唯一の方法だからです。
インプラントしてる方で、咬座印象に精通してる方って本当に極僅かでしょう。
だから、私は次代のDR達に言い続けます。
総義歯を勉強しろ!と。
お師匠様は、総義歯を通じて、私に口腔機能を考えること、見ること診れることを教えて下さいました。
それが、私の歯科臨床の全ての底力になっている、と私は明言します。
舌が大事だ!と声に出して教えていただいた記憶はないのですが、体現して見せて下さった凄い方でした。
バトンをいただいたからには、次に繋ぐ。
それを念じて、私は言い続けます。
舌を最大限配慮して下さい。