特別養護老人ホームに、開業前の勤務医時代毎週金曜日に往診をしていました。
なので、もう20年以上も前になります。
医療法人高輪会と私がいた医療法人赤坂会が提携して、それを切っ掛けにして、義歯治療と高齢者歯科治療に元々関心が深かったので、特別にお願いして往診メンバーになったのです。
そして、現場に初めて携わりました。
正直に言って、驚くことばかりでした。
どうして、こんなに口腔内の崩壊が起きてしまっているんだ・・・と、です。
介護状態になってしまっている方は、当然自分でお口の手入れができません。
そうなると、お口の中はそれはそれは可哀想としか言いようがない状態だったのです。
食物残渣が歯の根元に付着しまくっていて、とても汚れた状態だったんです。
これでは、次々に虫歯になってどんどん壊れて行くしかない・・・
暗澹たる気持ちになりました。
現場は、とても忙しそうで、多数の高齢者が入居していて、食堂とか見てるととても手が足りている、とは思えない状況でした。
100人を超える入居者に、現場にスタッフは10人いるのかいないのか?と言う感じで、看護婦今は看護士と名称が変わりましたがその10人いるかいないのか中の数人?と言う感じで、何かがあれば看護士さんに誰もが指示を仰ぐと言う感じで、戦場さながらの忙しさに見えました・・・
これでは、とても一人一人の方の口腔内を守る、なんて無理だ・・・お願いするのも心苦しい・・・でも、これでは間違いなく多くの方が虫歯で歯を失うし、誤嚥性肺炎とかの危険性も増してしまう・・・
本当の介護の現場に出て、私は救いたくてもとても力が及ばない現実の重さに驚くしか出来なかったのです・・・
どうしたら、この高齢者の方々を安らかに生活していただけるようにできるのか?
そして、その現実は20年以上経った今でも尚、何も変わっていないようです。
例えば、介護状態になってしまったら・・・
男性の方なら8年くらい、女性なら12年くらい介護されて余生を過ごすしかないようです。
そうなると、介護状態になる寸前まで元気で、お口の状態が良かった方でも、お口の中が食物残渣で一杯になり、バクテリアが繁殖して根元から大きな虫歯になり折れてしまうのです・・・
当然、強いお痛みを訴えることになる方も出てしまいます。
そうなると、抜歯するしかありません・・・
ハッキリ言って大変です・・・
時に、ベット上で患者さんが暴れないように、職員さんに制止していただいていて抜歯したことも少なくありません・・・
その前の麻酔の注射一つするのさえも大変です・・・
でも、抜歯しないと患者さんは痛むので、当然荒れる行動をしたりしますし、食欲も落ちてしまい、衰弱してしまう、と言うことも有り得ます。
命の問題を引き起こしかねない、と言うことにもなる訳です。
そして、知ったことが、歯が残っている方が大変になってしまいかねない、と言う悲しい現実でした・・・
ここで、ハッキリ書いてしまいますが、医者、看護師さん達の認識は、歯の問題は簡単に解決できるだろう、と言う誤解に満ちているのではないでしょうか?
その認識のズレが、最終的に介護状態になった高齢者のお口に出ている、と思われて仕方がないのです・・・
小さい歯、小さい処置、治療、だから簡単に済むだろう、と・・・
しかし、現場を知っている方は良くご存知でしょうが、汚れてしまったお口の折れて痛んだ歯は、ボロボロの状態になっていますから、抜歯は決して楽ではないのです。
しっかり生えている歯の抜歯、も簡単に出来るモノではないのです。
それがボロボロになって、歯茎に埋もれている、更にはお口全体が汚れている、なんて状態での抜歯は、生易しいモノではないんです。
どうしたら、患者さんに痛がられず、辛い思いをさせず抜歯できるのか、低侵襲手術をどうしたらできるのか、と言うことに一所懸命な理由の一つに過去のこう言う体験があります。
お口の中は、食物残渣は勿論、湿度、温度に恵まれ、バクテリアにとってはとても繁殖し易い環境なんです。
それが、繁殖すれば、虫歯が多発しますし、誤嚥性肺炎の原因にもなります。
更に言えば、血液中にも入り込んで、血管壁を汚したりして、血栓の元になって脳こうそく、、心筋梗塞、肺栓塞等々の循環器、呼吸器への不全を招いてしまいます。
簡単に言えば、お口は食べものの入り口であると同時に、バクテリアの繁殖する場、でもあるんです。
だから、お口の中は綺麗にしておかなければならない。
しかし、介護現場を見てしまうと、とてもじゃないが無理、だろうとしか言いようがないです・・・
圧倒的な多数の高齢者、世話するできる人数が足りなさ過ぎる・・・
自立、自律できる、ピンピンコロリできる方は1割程度しかいない、つまり殆どの方が、介護の世話になって最期を迎えるしかないんです・・・
何かとても暗い気持ちになるしかないお話を、今日は書いてしまいました・・・
正直、私自身この大きな問いに関して処方箋を見出していません・・・
微力でも、できることを一つずつして行くしかない、と言うことしか言えません・・・
最期を迎えるのをただ待ち続ける、それだけで生きている、と言うことを何度も入居者の方から聴かされました・・・
毎日毎日、亡くなった旦那さんに手を合わせて、早く迎えに来て、と語りかけてるんだけど、あの人婆さんは好きじゃないから、ちっとも呼ばれないのよ、と言うブラックジョークを教えてくれたお婆ちゃんもいました。
亡くなる時を待ちながら生きる・・・
悲しい言葉ですが、真実です・・・
お世話するのに手いっぱい、で口のことまでとてもできない介護現場・・・
これも本当の現実です・・・
少子高齢化で、自分の親すら見切れない時代が来て、益々混迷は深まる、としか思えません・・・
解決の処方箋を描ける方、が現れることを、心から望みます。
私自身は、高0会の活動を通して、次代の方々に有益な情報をシェアして行くこと、を第一歩として頑張り続けます。
最後の時まで生きて良かった、と思っていただけるように貢献することを目指して・・・